ルソー『社会契約論』の翻訳について(他の作品にも言及しています)

ルソーの翻訳、特に『社会契約論』の翻訳は誤訳の宝庫であり、その結果ルソーが人民主権を打ち立てたというこの本には書いていない話が広まっている。そこでルソーのフランス語原典をどう読むべきかをツイートしたものをまとめた。
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Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

Bibliotheca Polyglotta www2.hf.uio.no/polyglotta/ind… プラトン ΠΟΛΙΤΙΚΟΣ(政治家) Plato. Platonis Opera, ed. John Burnet. Oxford University Press. 1903. + STATESMAN By Plato Translated by Benjamin Jowett ステファヌスの頁番号付き

2023-10-20 20:57:21
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

岩波のプラトン全集の『政治家』の和訳は英訳で答え合わせをしていないのか、ときどきわけがわからなくなる。archiveのloebかgutenbergにある英訳で補いながら読む必要がある。

2023-10-21 10:52:47
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

プラトンをギリシア語で読むときには、 ἄντε〜ἄντε〜 〜であろうと〜であろうと という熟語を知っていないといけない。これが希英大辞典に見つからない。

2023-10-21 14:48:11
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

社会契約論二巻七章でルソーはプラトンが『政治家』で王の定義をしていると言い、「偉大な国王がまれな存在であるというのが本当なら」と続けている。これはプラトンの言葉で『政治家』301eに、女王蜂のような生まれついての王はいないと言っているところに該当する。

2023-10-22 12:33:00
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

これは社会契約論第三巻六章君主政の「もしプラトンのいうように生まれついての王はまれであるなら」でも繰り返される。この出典をプラトンの『国家』であるとするルソーの原注(In Civili=ギリシア語でπολιτεία)は間違いで『政治家』である。

2023-10-22 12:51:13
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

ルソーは『社会契約論』をプラトンの『政治家』を読みながら書いたするのは間違いではないだろう。すると『社会契約論』のキーワードとして重視されている一般意志volonté généraleも『政治家』の中に出てくるのではないかと想像できる。そして調べてみると実際にその仏訳の中に出でくるのである。

2023-10-23 13:33:54
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

volonté généraleが出てくるプラトン『政治家』の仏訳はかなり古いもので、 fr.m.wikisource.org/wiki/Le_Politi… である。いまやネットの発達と全文検索機能のおかげで、見つけやすくなっている。

2023-10-23 13:36:39
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

それは293a以下で、 優れた政治家は、volonté généraleによろうとよるまいと、法律によろうとよるまいと、金持ちであろうと貧乏であろうと、技術によって支配していないといけないと言っている。 ここでvolonté généraleは全員の意志と訳されるが、これは被支配者の意向ということである。

2023-10-23 14:13:04
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

しかし、プラトンのギリシア語原典を見ると、ここは ἐάντε ἑκόντων ἄντ᾽ ἀκόντων 被支配者が望むと望まざるとにかかわらず という意味でしかない。これはすぐ後の医者について書いている場合と同じで、医者がどの技術を使うかは患者の意志とは無関係というのと同じ文脈である。

2023-10-23 14:23:11
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

プラトン『政治家』の後の仏訳ではもっと原文どおりに「好き嫌い関わらず」とか「被支配者の同意のあるなしによらず」とか訳されているが、ルソーはこの古い訳の曖昧な言い方であるvolonté généraleに着目して、政治にはこれこそ大切なのだとして、プラトンの主張をひっくり返したのである。

2023-10-23 14:57:52
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

しかし、「ルソーは人民の意志を持ち寄ることで、人民の利益になる合意を見出し合い、それを一般意志として社会を統治しなければならないとして、人民主権の概念を確立した」と日本ではよく言われるが、そんなことはなくてvolonté généraleはたかだか国民の意向を意味するに過ぎない。

2023-10-24 10:29:46
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

ルソーは民主制以外は認めないと言うどころか、volonté générale、国民の意向に添う限り独裁も排除していない(第四巻六章独裁について)。 これを一般意志と訳したのは誰が最初か知らないが平林初之輔は当然のようにこれを採用している。しかし、これはプラトンの仏訳から始まった誤訳の一つでしかない

2023-10-24 10:43:45
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

「一般意志」が誤訳であることについて hgonzaemon.g1.xrea.com/ippannishi.html まとめてみた。

2023-10-24 23:20:36
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

『社会契約論』第二巻第二章「一般意志は誤ることがあるか」の「人民は腐敗させられることは決してない」(岩波文庫)とはどういうことか。腐敗するとは精神が堕落することだが、人民は堕落しないのかといえば、そんなことはない。そこで平林初之輔は「節を売ることはない」と訳した。

2023-10-25 14:03:22
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

「節を売る」とは自分自身を裏切ることである。つまり、悪いと知りながら悪いことをすることである。偽証などがそうであろう。となると、この個所は 「悪いと知りながら悪いことを人民にさせることはできないが、悪いと知らずに悪いことを人民にさせることは出来る」 となる。

2023-10-25 14:08:43
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

ちなみにこの仏語原文は jamais on ne corrompt le peuple, mais souvent on le trompe でその英訳は The people is never corrupted, but it is often misled 直訳すると「人民は腐敗することはないが騙されることはよくある」であるから、ルソーの仏語がいかに難解で謎に満ちているかが分かる。

2023-10-25 15:04:31
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

その次の「差の総和が残るが、これが一般意志である」(光文社文庫)も意味不明。「差の総和」はsomme des différencesの訳であるが、これは「差引総和」(平林初之輔訳)の影響だろう。しかし、差し引きを合計しても殆ど何も残らない。単に「異論の総和」で充分で、ここだけ算数を持ち込む必要はない

2023-10-25 21:18:46
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

ルソー『社会契約論』試論|Sakiya ARAKAWA note.com/hegelschen/n/n… ルソーの注に出てくるダルジャンソンについて調べている。しかし、この論文は岩波文庫の翻訳を正しいものとして書かれているらしい。この翻訳に異議を唱えて欲しいところである。

2023-10-25 22:24:16
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

「異論の総和」の言及があるのは第二巻第三章で、多くの異なる意見を持ち寄ってどうして共通の意見が生まれるのかについて書いている。そのためには、多くの個別の意見の中からles plus et les moins、つまり両極端の意見を取り除く必要があると。さらにそこにルソーは注を立てている。

2023-10-25 22:54:44
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

そこにダルジャンソンの意見が出てくる。「利害の反する二人のの利害が一致するのは、第三者の利害と対立するときである」と。ルソーの天才はその第三者の位置に共同体を置けば良いというのだ。国のために個別の利害を捨てて団結すれば、対立する者たちも協力して同じ方向に向かえると言うわけである。

2023-10-25 23:06:27
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

l'accord de tous les intérêts se forme par opposition à celui de chacun 「すべての人の利害は、各人の利害と対立することによってはじめて合致する」(岩波47頁)とは直訳すると、「全員の利害の一致は、それが個々の利害と対立することで形作られる」で、これも謎だが、前記のような意味であろう。

2023-10-25 23:47:34
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

第二巻四章第4段落、国民は主権者の要求を速やかに実行すべきであるが、共同体に無用の負担を課してはいけない。 「なぜなら、…原因なしには何ものも起らないからである」(岩波)も当前過ぎて意味不明である。原因と訳された cause は「動機」ではないか。ここでは共同体のためという動機であろう。

2023-10-26 17:53:28
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

第二巻四章つづき "われわれを、社会体に結びつけている約束は、この約束が相互的であるが故にのみ、拘束的なのである"(岩波) 「約束」と訳されているのは engagements だが、ここは社会契約の話をしている。それが共同体と市民の相互的なものであることは第一巻七章にある。拘束的とは契約を守ること

2023-10-26 21:46:32
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

つづき、"そして、その約束は、人がそれを果すことによって、他人のために働けば、必ずまた 自分自身のために働くことにもならざるをえない、といった性質のものである" 「他人」とあるのは autrui であるが、これは個人と相互の契約関係にある「共同体」のこと。中江兆民も「衆」と訳している。

2023-10-26 23:26:07
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