ルソー『社会契約論』の翻訳について(他の作品にも言及しています)

ルソーの翻訳、特に『社会契約論』の翻訳は誤訳の宝庫であり、その結果ルソーが人民主権を打ち立てたというこの本には書いていない話が広まっている。そこでルソーのフランス語原典をどう読むべきかをツイートしたものをまとめた。
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Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

中江兆民の訳は『民約訳解』で漢文で書かれている。これは岩波の中江兆民全集第一巻に収録されており、漢文とその読み下し文が読める。それを現代の日本語に訳したものが、中央公論社の日本の名著36に入っている。読んでみると見事な意訳である。

2023-10-27 09:55:17
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

つぎの、Pourquoi la volonté générale est-elle toujours droite, …si ce n'est parce qu…? も「公志の常に正を得る所以のものは何ぞや。他なし、人びと衆の為めに利を図るの中に於いて、また自から利するところ有らんと思うが故なり」。 ところが平林初之輔以来みんなここを疑問文に訳している。

2023-10-27 10:19:11
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

第二巻第四章ではこのあと古代アテネの民主制に言及するが、そこではvolonté généraleは全然なく個人に関わる決定ばかりしていたと批判されている。まさに人民主権が打ち立てられた古代アテネをルソーは称賛しないのだから、ルソーの興味はそこにはなかったことになる。

2023-10-28 14:18:54
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

この第二巻四章の最後の une partie des(少しの) がクラウン仏和辞典しか出てないのはどうしてかな。

2023-10-30 16:13:25
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

Que font-ils qu'ils ne fissent plus fréquemment et avec plus de danger dans l'état de nature 自然状態ならもっと頻繁にもっと大きな危険を伴なって行なうような何をするだろうか。 答は前の文の「命を危険にさらすこと」なので、 「それは自然状態でなら…伴なって行なうことである」と訳す。

2023-10-30 22:04:38
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

第二巻第五章生と死の権利について 統治者が市民に向って「お前は死ぬことが国家に役立つのだ」というとき、市民はしなねばならぬ(岩波)。 この「統治者」はprinceで「君主、王」である。ところが、「人民主権」の本にするには君主では具合が悪かったので「統治者」としたのだろうか。

2023-10-31 13:43:43
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

ルソーは君主制を否定していないのである。 「お前は死ぬことが国家に役立つのだ」の「役立つ」は expédientだが、「国家のためになる」(中公)でいいだろう。光文社訳は「汝は国家のために死なねばならぬ」としているが、ルソーはそんなことは書いていない。

2023-10-31 14:02:29
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

そのあとの「市民の生命はたんに自然の恵みであるだけではなく、国家からの条件付きの贈り物だったからである」(光文社文庫76頁以下)は 正しくは「(社会契約下の)市民の生命はもはや単なる自然の恵みではなく(n'est plus )、国家からの条件付きの贈り物だからである」であろう。

2023-10-31 14:51:28
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

そのあと「そういう敵は道徳的人格ではなく、たんなる人間なのであって、そういう場合には、戦争の権利は、負けた者を殺すこととなる」(岩波55p) 一巻四章「奴隷状態について」にあるように、国同士の戦いでは人間を殺す権利はないが、いまは国と個人の戦いなのでその権利があると言っているらしい

2023-10-31 23:53:52
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

二巻六章、ルソーはrépubliqueについて法治国家のことだと言っている。だから、これを共和国と訳していけないのである。これはラテン語のres publicaの仏訳でここでは公事という意味しかない。だから「共和」と訳すな中江兆民も民約訳解で書いているのに、現代の訳者はそれを無視しているのである。

2023-11-03 13:04:06
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

二巻七章「人民が、政治の健全な格律を好み、国是の根本規則にしたがいうるためには、…制度の産物たるべき社会的精神が、その制定自体をつかさどること、などが必要なのであろう」(岩波65頁) 直訳を意訳にすると、 健全な格律→賢明な方針 国是の根本規則→国政の基本方針 社会的精神→公共心

2023-11-05 11:18:27
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

同66頁「この崇高な理性は…」の文はおかしい。立法者は崇高な理性の決定を神の口を使って言わせるとはどういうことか。崇高な理性が立法者とは別に存在するのか。ここはペンギンの英訳のように「この高邁な理論を使って立法者は自分の作った法律を神の口を通して言わせた」ではないか。

2023-11-05 14:46:40
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

第二巻第八章「賢明な立法者は、それ自体としては申し分のない法律を…」(岩波67頁)がおかしい。de bonnes lois elles-mêmesのelles-mêmesはbonnes ではなくloisに掛かっているから、「申し分のない法律自体を」だろう。すぐに法律を書き始めずにその前に人民を調べると言っているのである。

2023-11-06 08:41:32
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

その次の、プラトンがアルカディア人に法律を作るのを断ったのは、「このためであって(pour cela)」は、法に適する民族でないとわかったから、次のクレタには立派な法律と性悪な人間が見られるのが、「このためであって」も、すでにクレタ人は悪に染まったいから。つまりは「この」はあとを指す。

2023-11-06 13:13:11
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

というのは、次の段落にも「このため」(pour cela)が出てくるが、どの翻訳書も訳していないからである。「法に耐えた国民があったとしても短期間だったのは、このためである」と。そして、民族は若いうちしか従順ではなく、年をとるとひねくれて来て法に耐えるには不向きになると続くわけである。

2023-11-06 13:24:04
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

第二巻八章「青年は幼年ではない」(岩波69p)から始まる段落は、policé、policeで躓いている。岩波は「市民化」、光文社と中公は「開花」だが、ペンギンは「統治」。ここは民族が法に服せるかどうかの話なので「法の支配」。ロシアは法の支配を受けるには早すぎたので永遠にそうはならないと、ズバリ。

2023-11-06 17:31:24
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

「彼らは、ひじょうに小さくなるか、大きくなるかしなければ、自由を保つことはできない」(岩波74p) Il ne peut se conserver libre qu' à force de petitesse ou de grandeur. 国が生き延びるには適切な大きさである必要があるという文脈なので、「小さくても大きくても自由を保てない」のはず。

2023-11-08 16:04:25
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

誤植ではないかと思ったが、そうではなさそうなので、à force を「〜によって」ではなく「〜の力で」という辞書にある意味を使って、「小ささを生かすことでしか自由を保てない」。またouを二者のどちらでもいいのではなく、二者択一として、「大きくなれなければ」という意味ではないか。

2023-11-08 16:13:26
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

二巻十章つづき「国民を形成するには」(岩波75p) instituer un peuple もう一つ条件があるというのだが、これまで国民の形成の話はなかった。このフレーズは七章に出てきた言葉で、社会契約を実現するための「法制度を与える」という意味。そのためには国民が平和な暮らしをしている必要があると。

2023-11-08 21:16:46
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

二巻十一章「あらゆる個人的な従属は、それだけ国家という政治体から力がそがれることを意味する」(岩波77p)。ルソーは謎々のような言い方が多い。ここは従属とは自由の反対のことであるから、「個人が自由を失うほど国家の共同体から力が失われる」。個人の自由こそは国の力であるということだろう。

2023-11-09 09:35:08
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

つづき「平等については、この言葉は権力と富とが全く同じであることを意味するのではなくて」(平林初之輔訳)。 これは「権力=富」と読めるが、実は「平等とは権力と富の平等のことではない」という意味だと続きを読むと分かる。つまり、ルソーは貧富の差は完全否定していない。

2023-11-09 10:30:31
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

十一章の最後の段落、convenanceが難関。ペンギンは「慣習」と英語の意味で訳しているが、和訳では「適応」(中公)、「調和」(岩波と光文社)と仏和辞典の訳語で苦労している。ルソーは仏和辞典に掲載のない訳語を必要とする場合が多く、ここも「法を作るには慣習をよく観察して…」が一番すっきりする。

2023-11-09 15:13:18
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

次の難点が、rapports naturels。「自然の諸関係」では意味不明。これはこの章の第4段落のrapports qui naissent(生じる諸関係)を言い方を変えたもので、自由と平等以外に国ごとに大切にしている目標、目的を指す。その例は同じ段落の最後にアラビア人の宗教などが列挙されている。

2023-11-09 15:43:56
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

第二巻十二章は法を憲法、民法、刑法、慣習法に分類しているが、刑法が「他のすべての法の保障(sanction de toutes les autres)」(岩波81p)という訳はおかしい。辞書にない訳語による苦心の訳だが、刑法は憲法や民法の保障ではない。ここは「他の人たちによる制裁」ではないのか。

2023-11-10 12:47:57
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

一般意志 General Will: 最新の百科事典、ニュース、レビュー、研究 academic-accelerator.com/encyclopedia/j…  『政治経済学』では、ルソーはディドロの百科事典の記事「ドロワ・ナチュレル」が一般意志の「輝く概念」の源であることを明確に認めている モンテスキューも法の精神でこの言葉に言及しているらしい。

2023-11-10 13:41:04
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