著者自身が語る、佐藤俊樹『社会学の新地平』(岩波新書)

11月17日に発売となった『社会学の新地平――ウェーバーからルーマンへ』(岩波新書)について、著者の佐藤俊樹さんによる投稿をまとめました。
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見本が到着

佐藤俊樹 @toshisato6010

【見本が届きました】 『社会学の新地平』、表紙と裏表紙はこんな感じです。裏表紙の帯にとってもらった言葉は、本書のねらいと内容を簡潔に言い表しているので、解説しておきます。 pic.twitter.com/7Y9195xTK8

2023-11-13 03:38:21
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佐藤俊樹 @toshisato6010

【帯の言葉の解説】 具体的な中身はすでにかなり述べましたが、結局のところ、ウェーバーにしろルーマンにしろ、完成されたものというよりも、未完成の、途上にある成果として位置づけることで、現在の経験的・理論的な研究へと開いた。そこが一番大きな特徴ではないか、と自分では考えています。

2023-11-13 03:40:42
佐藤俊樹 @toshisato6010

もちろん、ただたんに新しい対象を加えるとか、新たな発想を持ち込むのであれば、特にウェーバーやルーマンを大きくとりあげる必要はありません。あくまでも(a)二人があつかったのと同じ具体的な対象をあつかい、(b)二人が注目していた重要な特徴や性質をとりあげて、それらを再検討する、あるいは

2023-11-13 03:42:26
佐藤俊樹 @toshisato6010

新たな意味を見出したところに大きな特徴があると考えています。 例えば、ウェーバーの「合理的組織」であれば、(a1)経営組織をふくんだ形で官僚制組織をあつかい、(b1)「労働の専門化とその結合」という、彼自身が近代資本主義の要件の一つとしたものに注目して、それを再検討したわけですが、

2023-11-13 03:43:26
佐藤俊樹 @toshisato6010

実は、プロテスタンティズムの影響についても同じ作業をすることになりました。(a2)ウェーバーのいう「禁欲倫理」の面をあつかって、(b2)その「行動的禁欲aktive Askese」という特徴に注目して、再検討し、それが何であるかあらためて解き明かす形になっています。

2023-11-13 03:44:23
佐藤俊樹 @toshisato6010

ウェーバーの禁欲倫理論については、これまで経験的な研究から多くの疑問が出されてきました。特に経済との関係では、西ヨーロッパ以外の社会でも、勤勉に働き、消費を節約することだけでなく、利潤を再投資することも促す経済倫理や「エートス」にあたるものは、すでにさまざま発見されています。

2023-11-13 03:45:15
佐藤俊樹 @toshisato6010

それに対して、ウェーバーの仮説を支持する立場からの再反論は、強度のちがいを主な主張点にしてきました。同じような働きをもつが、プロテスタンティズムの禁欲倫理は強度がちがう、とするものです。しかしはっきりいえば、計量データをともなわない強度のちがいは印象論にしかなりません。

2023-11-13 03:46:11
佐藤俊樹 @toshisato6010

また、プロテスタンティズムが「より真摯な倫理だ」と主張すれば、それは、プロテステスタンティズムの信仰の方が(少なくとも相対的には)正しい、または優れていると主張することに同義になります。これは宗教間での中立性という価値自由の原則から外れるものだと私は考えています。

2023-11-13 03:48:50
佐藤俊樹 @toshisato6010

さらにいえば、近代資本主義の成立論としては、強度のちがいはそもそも論点先取です。「なぜ他の社会にも禁欲倫理はあったのに、西欧でのみ近代資本主義は成立したのか?」に対して、「西欧の禁欲倫理の強度が大きかったからだ」と答えることであり、かなり素朴な同義反復でしかありません。

2023-11-13 03:51:40
佐藤俊樹 @toshisato6010

それに対して『社会学の新地平』では、(a2)禁欲倫理としての強度でいえば、プロテスタンティズムと同等なものは他の経済社会にもあったし、より強かった可能性さえあることを認めた上で、(b2)「行動的禁欲」という言葉で表現されている特性が、近代資本主義の成立要因の一つになった、と考えました。

2023-11-13 03:57:33
佐藤俊樹 @toshisato6010

もうお気づきの方もおられるでしょうが(^^、言い換えれば、プロテスタンティズムの禁欲倫理の(b2)「行動的禁欲」という特性と、「合理的組織」での(b1)「労働の専門化とその結合」という特性の間には、密接な関連が見出される。そこに注目することで、従来の日本語圏での読解の主流であった

2023-11-13 04:00:54
佐藤俊樹 @toshisato6010

マルクス主義的な資本の蓄積論や自己運動論とも、文化科学的な脱呪術化論や合理化論とも異なる形で、ウェーバーの仮説を再構築し展開できることを示しています。 実は、同じ論理的な構造は、第三章でとりあげたルーマンのシステム論にもあてはまります。

2023-11-13 04:03:58
佐藤俊樹 @toshisato6010

理論社会学的には『メディアと社会の連環』の方ですでに述べたことですが、ルーマンのいう(a)自己産出的なコミュニケーションシステムは、(b)要素(作動)の回帰的ネットワークrecursive networkとして定式化できます。そのことを使って、

2023-11-13 04:07:50
佐藤俊樹 @toshisato6010

ルーマンのいう(a3)組織システム、すなわちウェーバーのいう「合理的組織」は、(b3)組織に帰属する決定の回帰的ネットワークとして、理論的により明確で、経験的な研究ともより整合的な形で、定式化できます。 『社会学の新地平』では、その(b3)決定の回帰的ネットワークというとらえ方を用いて、

2023-11-13 04:12:17
佐藤俊樹 @toshisato6010

ウェーバーのいう(b2)「行動的禁欲」と(b1)「労働の専門化とその結合」がどのように関連するのかを、できるだけ先行変数を統制しながら、経験的な組織研究や宗教史や経済史とより整合性がとれる形で、他の要因もふくめた、複数の要因の重なりのなかに再配置して、より論理的に厳密に示しています。

2023-11-13 04:13:29
佐藤俊樹 @toshisato6010

関連する重要な知識や情報、例えば因果同定の方法論の最近の展開や、主要な著作群の体系的な整理、ウェーバーとルーマンそれぞれの履歴や伝記的事実、研究史上の位置づけなども、それにあわせて一緒に紹介・解説しています。

2023-11-13 04:15:16
佐藤俊樹 @toshisato6010

あえて簡単に要約すれば、新著はこのような内容になっています。あとがきにも書いたように、ここまで考えるのに私自身は30年以上かかったわけですが(^^;;。研究というのはそんなものなんだろうな、と自分としては思っていたりします。

2023-11-13 04:18:18

刊行日に

佐藤俊樹 @toshisato6010

【刊行日にあたって】 今日11月17日が『社会学の新地平』の刊行日ですが、書店の店頭に並ぶのは、まだ少し時間がかかるかもしれません(勤務先の生協書籍部はいつもそうですし)。 新著に関わることをこれまでいろいろ書いてきました。1918-20年段階のウェーバーの近代資本主義論の最終形態が

2023-11-17 06:10:09
佐藤俊樹 @toshisato6010

どのようなものであったかや、いわゆる『経済と社会』第1部である「社会学」原稿群が、どのような一貫した視座で展開された研究であるのかなどは、もう少しまとめた形でご紹介した方がよいかもしれませんが、それはまた機会があれば。

2023-11-17 06:11:04
佐藤俊樹 @toshisato6010

『新地平』やこの呟きからだけでも、どんなものが考えられるのかは想像がつくかもしれませんが、もし興味があって、ご自分でウェーバーのテクストにあたってみたい方は、いうまでもありませんが、ご自由になさってください。何らかの形でその成果を発表される際にも、通常の論文と同じく、

2023-11-17 06:11:46
佐藤俊樹 @toshisato6010

先行研究としてあげて位置づけを書いていただければ、それで十分です。そうしたアイディアの先取権が私にあるとは、全く考えておりませんので。そうした「権利」がある人がもしいるのだとすれば、ウェーバーであり、ルーマンでしょう。 学術はそういう形で開かれていくべきものだと思っています。

2023-11-17 06:14:31
佐藤俊樹 @toshisato6010

最後に最近読んだ、とても有名な方の新書から引用しておきます。 「国家・宗教・芸術などの「上部構造」が、経済的下部構造に規定されることは確かですが、むしろ逆に、それが経済的下部構造に影響を及ぼすことがある。それを最初に指摘したのは、マックス・ヴェーバーです。彼は

2023-11-17 06:16:10
佐藤俊樹 @toshisato6010

『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』(一九〇四‐〇五年)で、近世西洋における宗教改革が「資本主義の精神」をもたらしたことを指摘しました。つまり、宗教的観念が産業資本主義を始動させたということは、政治的・観念的上部構造が下部構造から自律しており、

2023-11-17 06:16:47
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