#twnovel まるで昼の光みたいだったわ。末姫さまはものすごく驚いて、海の中に潜ってしまったほどよ。好奇心に負けてすぐまた戻ってきたけどね。姫さまのまわりに、天国の星がみんな降りそそいできたようだった。「こんなすごい魔法の炎、今まで一度だって見たことないわ…」 #人魚姫 55
2012-03-23 00:18:34#twnovel 花火はまるでたくさんの太陽がシュルシュル回ってるみたいに見えた。ゴージャスな炎のお魚が群青色の空に躍り上がってるみたいにね。そしてすべては鏡のように静かな海に反射していたの。帆船の甲板は光であふれていたわ。細いロープが1本1本見えるくらいにね。 #人魚姫 56
2012-03-23 23:16:01#twnovel 人間なんてもっとよく見えたわ。ああ、あの王子さまの素敵なことといったら!お客さんと話してるときのあの笑い声や微笑み…。ずっと静かな夜に音楽が鳴り響いていたわ。ずいぶん夜がふけても、末姫さまは船と美しい王子さまから目を離すことができなかったの。 #人魚姫 57
2012-03-23 23:26:45#twnovel カラフルなランタンの明かりは消えて、花火もなく、祝砲もとどろかなくなってた。でも実はね、そのとき海の底深くでは不穏なざわめきやうなり声がしていたの。その間にも姫さまは波にゆられていたわ。船室をのぞきたくってね。だけど船がだんだん速く走り始めたの。 #人魚姫 58
2012-03-23 23:30:56#twnovel 船は帆という帆に風をはらんでた。波がどんどん高くなって、重い雲がぐんぐん集まって、遠くでピカッと閃光が走ったわ。そう、嵐よ。もうすぐ恐ろしい嵐がくるの…!船員たちはすぐ帆をたたんだわ。怒りに満ちた海から逃げ出そうと、船は必死に飛ぶように走ったの。 #人魚姫 59
2012-03-23 23:49:12#twnovel 波は黒い山のように大きく、帆船を飲み込むほど高くなってたわ。でも船は白鳥のように波に飛び込むと、何度もそびえ立つ波の上に浮き上がってきたの。人魚の末姫さまにとっては「すっごくおもしろいレース」だったけど、船の人はとてもそう思えなかったでしょうね。 #人魚姫 60
2012-03-24 00:04:38#twnovel 帆船からは、ギシギシ、ミシミシ、イヤな音がしていたわ。嵐のすさまじい攻撃に、頑丈な船板も折れ曲って、波が甲板を壊しながら乗り越えていった。メインマストももろい葦の茎みたいに折れてしまった。そうして船は横に傾くと、その中に海水がどっと押し寄せたの。 #人魚姫 61
2012-03-24 23:17:56#twnovel それを見た末姫さまはようやく「みんなが、人間たちが危ない」って気づいたの。姫さまだって、押し流されてる木切れや船の残骸に気をつけなくちゃならなかったしね。そのとき一瞬、あたりが何も見えないほど真っ暗になったかと思うと、カッと稲光が閃いたの。 #人魚姫 62
2012-03-24 23:25:39#twnovel 雷光のおかげで、姫さまは甲板の様子を知ることができた。人間たちは誰もが生き残ろうと必死になっていたわ。でも姫さまはひたすらあの若い王子さまだけを探し求めたの。姫さまの目がやっと彼を見つけた瞬間、船はまっ二つに割れて、彼は深い海に沈んでいった…。 #人魚姫 63
2012-03-24 23:39:54#twnovel 沈んでいく王子さまを見た末姫さまは、はじめ大喜びしたのよ。「これで王子さまといっしょにいられる」ってね。でもそのとき、人間が水の中では生きられないってことを思い出したの。「お父さまのお城に着くまでに死んじゃうわ!そんなのダメよ!死んじゃダメ!」 #人魚姫 64
2012-03-25 00:07:03#twnovel 末姫さまは王子さまに向かって泳いだわ。危険な材木や漂流物がうようよしてる間をぬって、当たれば自分が大ケガするなんてことをすっかり忘れてね。姫さまは深く潜ったり、波をよけて浮き上がったりして、なんとかあの若い王子さまのところにたどりついたのよ。#人魚姫 65
2012-03-24 23:53:13#twnovel 末姫さまが着いたのは、ちょうど王子さまが嵐の海を泳ぐ力を失ったところだった。ぐったり、きれいな瞳は閉じられて、姫さまが助けに来なければ、彼、絶対死んでたわよ。王子さまの頭が海水をかぶらないよう抱きかかえると、姫さまはあとは波に身をゆだねたの…。 #人魚姫 66
2012-03-25 23:07:10#twnovel 夜明け前、ようやく嵐が去っていったわ。もうあの帆船の痕跡はどこにも残ってなかった。お日さまが海の彼方からキラキラと昇ってきて、その薔薇色の光で王子さまの頬にも命の輝きが戻ってきたみたいに見えたわ。でもね、王子さまの瞳はやっぱり開かなかったの。 #人魚姫 67
2012-03-25 23:12:17#twnovel 末姫さまは、王子さまの素敵な額にキスをして、ぬれた髪をかき上げてた。「なんだか、私の小さな花壇にある、あの大理石の像そっくり…」王子さまにまた口づけながら、姫さまは必死に祈ってた。「どうか、どうか彼が助かりますように…」 #人魚姫 68
2012-03-25 23:19:06#twnovel そのときよ。姫さまはついに目の前に陸地を見つけたの。白鳥の群れが降り立ったかのように雪をきらめかせてそびえたつ紺碧の山脈。その下の海岸沿いには、美しい翡翠色の森もあったわ。そしてその正面に、教会か神殿かの建物もね。 #人魚姫 69
2012-03-25 23:25:57#twnovel 人魚の姫さまには教会やら神殿やらどっちかわかんなかったけど、でも、とにかく人間の作った建物よ。庭園にはレモンとオレンジの木、門のそばには背の高いヤシの木。そこの海はね、小さな深〜い入り江になっていて、鏡のように静かだったの…。 #人魚姫 70
2012-03-25 23:29:26#twnovel 入り江のすぐ横は崖になっていて、足元にはきれいな白い砂浜が広がってたわ。姫さまは王子さまを抱えて泳いでいくと、そこに彼を横たえたの。頭が少し高くなるように、お日さまのあたたかい光がよくあたる場所にって、それは気をつかいながらね。 #人魚姫 71
2012-03-26 23:20:16#twnovel そのとき白い建物の鐘が鳴り響いたの。たくさんの女の子たちが庭に出てきたから、末姫さまはさっと遠くに泳いでいって、顔が見られないよう大きな岩の陰に隠れたわ。海の泡で髪や胸も隠してね。そうしてどんな人がかわいそうな王子さまを見つけるか見守ったの。 #人魚姫 72
2012-03-26 23:28:41#twnovel すぐに女の子の1人が王子さまに気がついたわ。はじめビクビクしてたけど、そんなの一瞬よ。すぐ他の女の子を呼んできてた。そして姫さまは見たの。王子さまが意識を取り戻す姿を、彼がまわりの人たちに笑いかける様子を、姫さまには決して向けなかった笑顔をね…。 #人魚姫 73
2012-03-26 23:37:16