仕事学のすすめ「人生哲学的仕事論(姜尚中) 第2回 逆境から天職を得る」書き起こし・ほぼ完全版

5月10日にNHK・eテレで放送されたものを文字起こししています。 出演:姜尚中(東京大学大学院教授) トランスレーター:野田稔(明治大学大学院教授)
4
とし @toshihiro36

野田:さらにその頃、ご自分の出自であるところの在日というところにもお悩みになりましたか?

2012-05-11 13:26:55
とし @toshihiro36

姜:そうですね。その時の在日の置かれている立場というものは、言ってみれば日陰の隠花植物みたいな…そういうふうに片隅に追いやられてましたから。社会から向けられる目が、僕には腕白な子どもで…ただ親たちに向けられる目と、自分に向けられる目のギャップに違和感を感じていたんですね。

2012-05-11 13:31:52
とし @toshihiro36

姜:逆にそのことがアイデンティティの分裂になりまして、親から愛されているという面と社会が親に向ける目…それは学校社会で自分が認められてくればくるほど、そういう目で親を見ようとする。分裂・ズレがあるんですね。そのズレが自分の中で解消できてなかったですね。

2012-05-11 13:37:28

VTRが流れます

とし @toshihiro36

<ナレーション>高校を卒業後、姜さんは早稲田大学政治経済学部に入学。しかし大学の授業に全く出ず、図書館に閉じこもる日々が続きました。在日の影におびえ、何かから逃げようとしていたといいます。こうした閉塞感を打ちやぶろうと、姜さんは韓国にいたおじを頼って初めて両親の祖国を訪れました。

2012-05-11 13:42:33
とし @toshihiro36

<ナレーション> そこでアイデンティティに目覚めた姜さん、これまでの自分を変えたいと永野鉄男を捨て姜尚中を名乗ることにしました。帰国後、姜さんは韓国文化研究会という学生団体に入り、学生運動に傾倒。同じ在日の若者たちと思いを語り合った姜さんは、それまでの鬱屈した気分を払いのけます。

2012-05-11 13:49:30
とし @toshihiro36

<ナレーション>しかし大学卒業を間近に控えた姜さんは、ふたたび在日の厳しい現実を思い知らされます。就職活動をしたものの、日本国籍を持たない姜さんは思うように就職できませんでした。在日の他の友人たちはフリーターのような生活か韓国系の小さな会社などに就職せざるをえなかったといいます。

2012-05-11 13:55:53
とし @toshihiro36

<ナレーション> 姜さんは大学院に進学するしか選択肢がありませんでした。そこでドイツの社会学者マックス・ウェーバーの研究に本格的に取り組み始めますが、将来の展望がひらけず悩みます。見かねた恩師の計らいで、ドイツ南部にあるニュルンベルクにある大学に留学することとなりました。

2012-05-11 14:01:10
とし @toshihiro36

<ナレーション> しかしドイツでも孤独な生活の中で、姜さんの心は塞がれたまま。そんな姜さんに声をかけてきたのがインマヌエル・スタブロラキスというギリシャ人の学生でした。彼の両親はギリシャからドイツに移り住んだ移民の1世。ビール工場で働きながら、息子を大学にまで進学させました。

2012-05-11 14:09:21
とし @toshihiro36

<ナレーション>インマヌエルさんの境遇は在日の姜さんと似たようなものだったのです。ところがインマヌエルさんは姜さんとは対照的に、社交的で明るい青年でした。その存在は姜さんの荒んだ心を解きほぐしてくれたといいます。後年、姜さんはインマヌエルさんとおよそ20年ぶりの再開を果たします。

2012-05-11 14:14:14
とし @toshihiro36

<ナレーション> 異国の地で出会った、自分と同じような境遇の友。姜さんは彼から何を学んだのでしょうか。

2012-05-11 14:16:59

インタビューに戻ります

とし @toshihiro36

野田:うまくふっきれたかと思いきや、やはり就職の時には壁があってずいぶんご苦労されて…

2012-05-11 14:20:45
とし @toshihiro36

姜:やはり社会から認知されないというね。そうすると自分の居場所がない。僕の友人たちはほとんど、今でいえばベンチャーという横文字で言える…しかしあの時代でいうと要するにニッチな中に入っていくしかない。一般のオーソドックスな大学生が描いていた人生コースとは全く違うもの。

2012-05-11 14:26:09
とし @toshihiro36

姜:どうしたらいいか迷って、結局大学に残ることに決めた。そこしか、さしあたりモラトリアムの場所がなかったので大学院に行きました。

2012-05-11 14:28:38
とし @toshihiro36

野田:で、実際そこでも研究に行き詰まられて…で、先生の勧めでドイツに留学されて。その留学時代にギリシャの青年と出会ったと。

2012-05-11 14:33:07
とし @toshihiro36

姜:彼は2世だったけどすごく頭のいい男で。彼と出会って、彼の誘いで新しい人生を知ったというか…それはやっぱり人生というものは辛いこともいっぱいあるけど、人生はエンジョイしなければならない。彼の中にはどんなに辛い時も「人生はエンジョイできる。エンジョイできるはずだ」と。

2012-05-11 14:37:30
とし @toshihiro36

姜:そこで僕はちょっとウィングが広がりましたね。と同時に世界中に在日(と同じような状況)があるという気持ちになったんです。つまり僕が日本の社会の中で閉じ込められて悩んでいることは、世界史から見ると実にローカルな話で。悩んでいる本人にとっては大変な話ですけど。

2012-05-11 14:42:34
とし @toshihiro36

姜:だから自分や日本の社会を、向こう岸から見られるようになったわけですね。

2012-05-11 14:45:00

VTRが流れます

とし @toshihiro36

<ナレーション> 姜さんはドイツから帰国後、日本人女性と結婚します。埼玉県上尾市で新婚生活をスタート。すぐに子宝にも恵まれました。しかし定職には就けず、大学の非常勤講師や家庭教師のアルバイトをしました。その生活は厳しく、妻が外に働きに出ざるをえませんでした。

2012-05-11 14:49:00
とし @toshihiro36

<ナレーション> 姜さんが主に子どもの世話をするという、いわゆる主夫生活を3年間も続けたのです。そんな中、ある人との出会いが姜さんの運命を変えます。キリスト教の牧師だった土門一雄さんです。当時姜さんは多くの在日の人にとって受け入れ難い、指紋押捺問題の渦中にいました。

2012-05-11 14:53:21
とし @toshihiro36

<ナレーション> 土門牧師は指紋押捺拒否する姜さんの支援者の一人でした。このとき土門牧師からかけられた言葉が、姜さんにとって終生忘れえぬ言葉となったのです。

2012-05-11 14:56:11

インタビューに戻ります