ツイッター小説 お気に入りセレクト 2012/08/05

今日読んだついのべの中から個人的にお気に入りの作品を選んでみました。 ついのべ #twnovel とはツイッター小説、つまり140文字以内で書かれた短いお話です。
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良崎 @kanfrog

「恐い話をしよう」先生はなぜか口元を隠しながら言った。銀縁眼鏡の乗った顔は涼しげ。腕まくりの白衣だけが夏らしい。「怪談ですか?」「恐いと言っただろう」「先生が非科学的なことを真面目に話すのって、珍しいですね」「夏休みは残りあと――」「やめて下さい! 恐いです!」 #twnovel

2012-08-05 00:05:43
birdboiled @birdboiled

#twnovel あまりにお父さんの転勤が多いので、僕たち一家は引っ越しトラックの中で生活するようになった。朝起きて、荷台にあいた窓から外を眺めるのが僕の楽しみ。うわあすごい、今日は一面の麦畑だ。運転席からお母さんが叫ぶ。さっさと起きて支度しなさい!もう次の学校に着いちゃうわよ。

2012-08-05 00:22:22
しのっしー @Shinobathsee

#twnovel 私は見知らぬ青年と共に火葬場行きの車に乗っていた。雀の涙の社交性を駆使した結果、彼と私の共通点は「大学生」のみであることが判った。私は「大学」の話題を必死に探した。そして気が付くと私は「私の通っている大学は何故暖房便座ではないのか」という話をしていた。

2012-08-05 00:46:16
みお @miobott

#twnovel 長く生きすぎたビルは時に心を持つのである。人が去り壁が剥がれ階段さえ朽ちた古ビルは、月に恋をした。毎夜毎朝、恋に溺れたビルは空に向かって恋の譫言を囁きかける。歯牙にもかけぬ月だったが、ビルの取り壊し工事が始まったその夜だけ、悲しいほど眩しく輝いてみせたのだ。

2012-08-05 00:49:51
ヨシムラ @ortk

ごろん。ごろんごろん。ごろんごろんごろんごろん。坂道を転がり落ちていく。体のどこかが地面にぶつかる度に、手から、ポケットから色んな物がこぼれていく。大きな看板にどしんとぶつかってようやく止まる。看板を見上げる。恋、と一文字書いてある。 #twnovel #twnoveloff

2012-08-05 01:01:42
ヨシムラ @ortk

好きな人に好かれたい気持ちを恋と呼ぶならば、恋をしていない人は何を楽しみに生きているのかしら、と彼女は呟く。その答えはぼくにはわからない。彼女の少なくなったカップにこっそり紅茶を足して、その事に気づいた彼女のパッと輝く笑顔を何よりも大事に思っているぼくには。 #twnovel

2012-08-05 01:20:18
八本正幸 @nekogamihakase

人間豹は飢えていた。死に場所を求めて富士の樹海をさまよっていた者が、想像を絶する恐怖体験をして、死ぬのを忘れて命からがら街へ逃げ帰るという事件が多発している。彼らは半人半獣の怪物を観たと言い、その姿は豹のようであったと証言しているが、真相は定かではない。 #twnovel

2012-08-05 01:44:51
くさがみ•R•シン @kusagamirin

#twnovel 私の汗は甘い。砂糖水のように甘い。しかもイライラすると蜂蜜のようになる。おかげで夏は最悪。粘性を持った汗で気が狂いそうになる。全てが嫌になって死のうと何度も思った。でも怖くて死ねない。その度に大泣きをして、すると犬や猫が私の顔をペロペロと舐めに来る。もう嫌!

2012-08-05 03:21:21
BAbY fRieNDs @baby_friends

落下する。身体に倣って精神までも。走馬灯が擦り切れていやに間延びした警報音。銀の馬が舞っている。己には隙間が多すぎると言っていた。回すのは祝祭用の皿。コヨーテが鳴く。群れの為に動くことをどうしても許容できなかった。深い闇。今では泥が親友だと根の合わぬ歯で。#twnovel

2012-08-05 11:44:56
Gabb-- @itisnot

ガムを膨らませながら歩いている。視界の下の方からグレーがかった塊が現れて、さらに視界を埋めていく。完全に景色がなくなりそうなところで、体に衝撃が走って、浮き上がる。半回転しながら見えたのは通り過ぎていく車。僕は上昇を続ける。風船のせいだろうか。割れると落ち始めた #twnovel

2012-08-05 13:19:56
falsewhere @nowherenotime

#twnovel 彼は音楽家でもないのに美しい五線譜を買い求める。彼は文字やら記号を書きつけるが、通常の意味で記譜はしない。譜面というのは、時間を記述するのに最適な書式なんだよ、ぼくが付けているのは人生の記録さ、日記としてね。見たところ厳密な記入規則があるらしいが、誰も読めない。

2012-08-05 15:35:28
falsewhere @nowherenotime

#twnovel ぼくの眼窩にきみを突っ込んだ。きみの肩と腰のあたりで少々引っ掛かったが、何とか入った。二人で安心し、寛いだ。窓から顔を覗かせるように、ぼくの眼窩からきみは世界を見晴らして、綺麗ねえと呟いた。これで、きみを迎え入れるために片目を抉った甲斐があったというものだ。

2012-08-05 16:04:03
@17crows

#twnovel 女将校が処刑場に現れた。5千の首を刎ねた人物は意外にも華奢で、顔と身体を汚された村娘のようだった。判事が最後の望みを聞けば、ギターを、と細い声が返ってくる。群集は死んだ鼠や木くずを投げつけたが、その爪弾きは慈愛に満ち、やがてすすり泣きがあちこちから響いたという。

2012-08-05 17:26:26
リュカ @ryuka511

魔王は退屈していた。楯突く人間も反逆を企む部下もいない。剣を手に自ら戦った頃を懐かしんでいると、部下が報告に訪れた。「御子が誕生しました。早速後継者として」「いや、そいつは勇者だ。辺境の村へでも置いてこい。」困惑する部下をよそに魔王は笑う。「楽しませてくれよ。」 #twnovel

2012-08-05 20:14:56
雪月 @setugetufuka

オタマジャクシだと思って網ですくったら小さな黒猫だった。水を張ったバケツに入れると、きょとんとして底に座り込む。その姿が可愛らしくて、うちに連れ帰る事にした。黒猫は今、水槽の中で欠伸をしている。開いた口から丸い泡が上がった。もしかしたら鳴いているのかもしれない。 #twnovel

2012-08-05 21:16:52
日向日影🍊📖@文化系物書きVtuber(HUB) @hyuugahikage

#twnovel ガタン。今朝も家族配達がきた。縮んだ家族に水をかけると妻は朝食作りを始め、息子と娘は学校へいく準備をする。犬に餌をやると私は会社へ向かった。帰宅すると家族と夕食をとる。娘は社会見学だったという。食後に息子の宿題を一緒に解き、家族と犬を返却口に入れ眠りについた。

2012-08-05 21:47:23
正井/文フリ東京し-43〜44 @kelmscott_masai

近頃枕元に出るようになったのは、唇の幽霊だ。真っ暗い中に、女のものらしい、ふっくらした赤い唇が浮かぶ。唇は何かを訴えるように動いているのだが、肺も声帯もないので何も聞こえない。私はうつ伏せになり、枕に胸をつけて、唇の幽霊にキッスした。かすかに油脂の匂いがした。 #twnovel

2012-08-05 22:37:15
竹田康一郎 @tahtaunwa

#twnovel 小学校の頃、理科の先生が魔女だという噂が立った。真夜中の理科室で、解剖された蛙を蘇らせているという。「先生、魔女なの?」怖いもの知らずだった僕が訊いた。「そうよ。昔、蛙にしちゃった彼を捜してるの」先生は僕の頭を撫でた。夏休みの間中、しやっくりが止まらなかった。

2012-08-05 22:52:02
layback @laybacks

サーカスを観たい。だが金がない。少年はテントの側で泣いていた。どうしたの。通りかかったピエロが首を傾げる。お金がないの。ピエロはポケットからお手玉を取り出した。一つ二つ三つ。両手の間で玉がアーチを描く。四つ五つ六つ。七つ目の玉が加わって少年の目の前に虹が現れた。 #twnovel

2012-08-05 23:18:39
歌種 @PM23564

#twnovel 初めは小さな点だった。爪先の赤い星。ホクロに見えたそれは徐々に大きくなり、49日目に小指を覆った。1年が過ぎる頃には足首から先が完全に侵され、森へ入るたびに痛んだ。だから、君を埋めた土の上で毒を飲む。僕を赦し遠ざけようとする君の優しさに足を止められてしまう前に。

2012-08-05 23:56:01