ダンテ『神曲』より「マリアへの祈り」

ダンテ『神曲』新訳刊行準備中のイタリア文学者・原基晶さんによる、「天国篇」第三十三歌(『神曲』最終歌)冒頭、「マリアへの祈り」の翻訳連ツイをまとめました。
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原基晶 @motoakihara

今日か明日に天国の頂で唱えられたマリアへの祈りでも読んでおくか。

2012-12-24 20:28:57
原基晶 @motoakihara

マリアへの祈り、39行はツイッターには長すぎるかなあ。

2012-12-24 22:16:10

マリアへの祈り

原基晶 @motoakihara

「処女であり母、あなたの息子の娘、/ あらゆる被造物より身を卑しくし、かつ崇高、/ 永遠の御心の定まれるまと的 、/ あなたこそは人類を/ この上なく高貴にされた方、それゆえに創造主は/ 自らを人の被造物とされることを厭わなかった。

2012-12-24 22:32:42
原基晶 @motoakihara

あなたの胎内で再び愛が燃え上がったのだ 。/ その暖かさにより、永遠の平和のうちに/ この花はこのように双葉を開いた 。/ ここであなたは、我らへと慈愛を放つ/ 南中した松明 であり、下界では、必滅の者達にとり/ 生ける希望の泉だ。

2012-12-24 22:34:32
原基晶 @motoakihara

貴婦人 よ、あなたはかくも偉大、かくもお力を持ち、/ ゆえに恩寵を望んで、なお、あなたの助けを求めぬ者の、/ その希望は翼なしに飛ぼうとしている。/ あなたの慈しみは求める者を/ 救うだけでなく、寛い心で/ 幾度も求めに先んじられる。

2012-12-24 22:35:59
原基晶 @motoakihara

あなたのうちに慈悲があり、あなたのうちに憐れみがあり、/ あなたのうちに寛い心があり、あなたのうちに、/ 被造物のうちにある、あらゆる善が一つになっている。/

2012-12-24 22:38:01
原基晶 @motoakihara

今、この者、宇宙の奈落の底から/ ここまで、霊を備える魂を/ 一人一人見ながら至り、/ 恩寵にかけてあなたに願う、究極の至福に向かって/ さらなる高みへと目を見開きながら昇っていけるほどの、/ 大いなる力が与えられんことを。

2012-12-24 22:38:56
原基晶 @motoakihara

そして我は、この者の視力のためほどには/ 己の視力のために燃え上がったことはなく、/ その我が願いのすべてをあなたに捧げん、願いの至らぬことなきを願わん、 あなたの祈りにより、この者に巣食う必滅ゆえの/ あらゆるもや靄が消散し、/ 究極の至福がこの者にそのすべてを顕さんがため。

2012-12-24 22:44:10
原基晶 @motoakihara

女王よ、あなたが望めばそれはなされるがゆえ、/ 我はさらにあなたに祈る、これほどのことを見た後でも、/ この者の心が健全なままでいられることを。

2012-12-24 22:45:39
原基晶 @motoakihara

あなたの守りが人の心の衝動 に打ち勝ちますよう。/ ベアトリーチェとすべての至福者達が/ 我が願いのためにあなたに向かって祈りの手を結んでいるのを照覧あれ」

2012-12-24 22:46:19

--以下、訳注

原基晶 @motoakihara

 冒頭の補足:マリアは、処女のまま母として息子キリストを生んだ。キリストは神であるが、マリアは、その神の造った人類の子孫、つまり娘であった。彼女は、身を低くして僕として神に仕えたが、神の母として被造物の中で最も崇高な存在でもあった(続く)。

2012-12-24 22:53:40
原基晶 @motoakihara

続き)そして彼女の存在は、創世から最後の審判に至る永遠なる神の計画の中に、必然として定められていたとの意。

2012-12-24 22:54:00
原基晶 @motoakihara

第三連の補足:アダムの原罪以来、人類のうちに消えていた神の愛の火が再び燃え上がった。「花」は、至高天で至福者達がなす輝く白薔薇。また、「地が開いて救い主が芽吹きますよう」(「イザヤ書」45.9)からの引用。

2012-12-24 22:57:15
原基晶 @motoakihara

五連目の「貴婦人」は空の宮廷の女主人の意。

2012-12-24 22:58:18
原基晶 @motoakihara

10連目の「視力」とは、換言すれば神への愛のこと。なぜなら愛は、愛されれば愛さずにはいられないものであり、また、人は知性によって神を認識するとダンテは考えているから。

2012-12-24 23:04:22
原基晶 @motoakihara

たぶんこの詩句がミケランジェロのピエタを生んだのだと思っています RT:…とてもいい言葉でした 特に「処女であり母、あなたの息子の娘」この信仰心を惹起させる修辞の美しさは特筆ですね 矛盾とかそういうのを一切排する無限の説得力を感じます @RSatow

2012-12-24 23:25:16