第四話 「護るべき笑顔は～ノー・ティアー！ノー・アゲイン！」 #6　「トライ＆メイク」

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反撃を試みた右手が切り落とされる。鞭のように使われる鞘の追撃。左腕が折れる。残りの胸骨が砕ける。頭蓋が割られる。右耳を切られる。右頬を切られる。左頬を削がれる。鳩尾を蹴られ凍傷。顎にアッパーを食らい火傷……… 41

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最早ホワイトに出来るのは致命傷を回避しつつ、死期を先延ばしすることだけであった。そこへ―――１台のトラックが通りかかった。近隣のコンビニへの配送トラックである。道が混んでいたのか、前の配送場所で手間取ったか、通常より数分遅い。 42

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『イイイヤーッ！』「！」四肢に重篤な損傷を負ったホワイトが、そのトラックの荷台に向けて跳躍した。既に治癒と回避、感覚以外の強化を切っていたホワイトは、金輪に再蓄積しつつあった風に全強化を注ぎ込み突風と成して飛翔したのだ。夜葉は追ってこなかった。どこかへと姿を消す。 43

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―2013年4月16(火)17:08。瀕死の浅空勇矢はトラックのコンテナの上にいた。何故か先程ホワイトが飛び乗ったものと全く同じ配送トラックである。今はコンビニ横で停車し、運転手は中に荷物を運んでいる。「さて、ヒールユニオン・アルティメット…」勇矢が呟く。 44

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「痛タタタ…痛タタタ…」運転手がいないのを良いことに痛みを口にする。治療強化は効力を上げるごとに痛みが増す。アルティメットに至っては傷を負った時の十倍以上の痛みが襲い掛かる。「痛タタタタ…いってぇ～～っ！？」勇矢は苦しみに耐えきれずに泣き叫びながら右往左往する。 45

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―昨夜の襲撃、星護の送り狼になり損ねた帰りのそれは、ホワイトが5分程防戦に徹したところで別のコンビニの配送トラックが通りすがりお開きとなった。今日は自転車での下校中、20分程前に山道で襲撃を受けた。ホワイトは10分間の激闘を繰り広げていた。 46

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―お気づきであろうか？忍者風の装束の少女…夜葉の襲撃は二度とも人気のないところで行われ、人が来たところで中断されたのだ。そして勇矢は…そしてホワイトは…彼女の名前を知っている。昨日の襲撃が初めてではないのだ。 47

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彼女は二年ほど前から、何度も浅空勇矢を暗殺するべく定期的に襲撃を掛けてきていた。ただし、そこには『第三者に目撃されない状況で、第三者を巻き込まず、罠を使わず、可能な限り器物も破損させない』そして『浅空家敷地内へ/内では襲撃しない』という縛りが掛けられていた。 48

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彼女の襲撃はこれら条件を満たしているときにランダムで行われる為、勇矢にもタイミングは読み切れない。しかし襲われたくなければ家に引きこもるか、逆に常に人前にいれば良いので避けることは難しくない。一方で……襲われたい時はメールで打診出来る。 49

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昨日今日の襲撃は正に勇矢の側からお願いしたものである。出来レースでは断じてない。夜葉は本気で殺しに来ていた。彼が周囲への警戒やトラックの配送スケジュール確認をして備えていただけである。しかし今日は交通状況を読み切れずに予定以上の深手を負った。手痛い失敗である。 50

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―17:11。全身を五体満足に回復させると、勇矢はトラックから降り、自転車に乗った。今日も19時から22時頃まで練習試合である。30分までには帰っておきたかった……出来れば今夜の襲撃は遠慮願いたいところだったが、生憎と『来ないでくれ』という依頼は通用しないのである―― 51

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→→→→→　中断　→→→→→→

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→→→→→　再開　→→→→→→

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―18:53。浅空家物置。「ユウ、開けてくれるか？」外から声。勇矢が開けると、裕岐が盆を持って入ってきた。「ドーモ、セブンブリッジ＝サン。悪いな」「セブ…？ああ…。コレ緋華理ちゃんからな」盆を置いて裕岐は床に座る。そしてその上の茶を一口飲む。勇矢は茶菓子を二口で食べる。 52

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「…何見てんだよ」勇矢が茶を飲む。それを見てから、裕岐が、重々しげに、口を、開いた。「ユウ…何か隠してないか？」「…隠してるよ？たくさん。それが？」「俺に出来ることは…ないか？」「無いよ」「………そうか」「ああでも、そうか」勇矢が何かを思いつく。 53

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「どうしても、って言うのなら一つだけあったわ」「何だ！？」「日曜日のデート」「……デート？」「絶対成功させろ」「………それだけか？」「だけ、じゃねっぇだろお前ぇっ！！」「！？」勇矢が語気を強める。「大事な事、だろ…違うのか…？」「ああ…そうだな……スマン」 54

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「キスの一つもしてあげろよ…いや一発で足りなければ十発！十発で足りなければ百発！…のキスを叩き込むのよ」「キス魔か！」二人は茶を飲む。「……梢のこと、前から知ってたのか？」「なんというか恩人だ。それ以上の詮索は得策でないとだけ申し上げておこう」「……分かった」 55

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「で、誰に何を吹き込まれた？」「…ユウ、先週から様子が変だったし……ゴメン観崎にも聞いた」「どっちだっけソレ？おっぱい星人のほう？」「部長の方だよ……」「そっちか…あんにゃろ」「心配してくれてんだぞ…詳しくは教えてくれなかったけどさ…」「ならば良し」 56

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「そういや源瀬…ユウが今間違えかけた方だけど…調子悪そうだったな」「ああ…そりゃ、あーやのせいだ。サディスティックなプレイを強要されてな…おっぱいに」「え？」「例え悪いけど、動物好きに動物痛め付けさせるようなもんだからな…自分の体とは言え」「そうか……」 57

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―19:01。「今日は京都組相手を想定したロボと戦うんだったな」「ああ」「そういや昨日やられたロボは大丈夫か？」「大丈夫、もう直して調整もした。元々結希が直しやすい壊し方をしてくれてたからな」「……本当とんでもないな、結希ちゃん…」「おまえがいうな……ところで」「うん……」 58

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「今日は、何だろうな」「うん」「猫耳バニーとかアリだよな」「いやそのりくつはおかしい」「え…？ああ猫耳ならキャットだよな」「いやそれもそうだけど…ここまで歩いてくるんだぞ……あんま捕まりそうな格好は無いだろ」「あ、そうか…となると昨日はセーラーだから……ブルマ？」 59

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「いや待ておかしい」「へ？昨日と同じで学校繋がりでさ」「ユウの中ではそれは捕まらない格好なのか？…少なくとも男が着て歩ける恰好じゃないだろ」「…着せるのはあの母親だぜ」「いやいや実の息子にブルマ吐かせて表歩かせる母親なんかいる訳が………いたっ！？？」 60

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「ぐす……うう」裕岐の正面、勇矢の背後には体操着に赤ブルマを着た少年がいた。無論、子安星護だ。「ひっく…ひっく」と泣きじゃくる。「母、さんが」「分かってるから」裕岐が慰め、ハンカチを差し出す。「おいで」勇矢が下心９９％で両腕を広げる。「やめろユウ」 61

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胸のゼッケンには『4-2　こやす　しょうご』と堂々と名前が書かれており隠さざるを得ない。しかしお察しの通り、ブルマはともかく彼が小四の時の体操着である。かなり体のラインが浮き出てしまう。両手のガードを胸とブルマに分散せざるを得ない。その分…危険である。 62

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「星護…辛かったら言えよ。何としてでも止めさせるから」「良いんだよ…僕に女装させることだけが母さんの生きがいなんだから…耐えるよ」裕岐の申し出を拒否する。「七橋、そこのマットとゴムなわ持って来い。縛って転がして撮影会だ」「黙れユウ」鋭い目つきで裕岐が釘を差す。 63