ライトノベルというメディアの中で、常に「こちら側の問題意識」と格闘してきた作家が越境によってある種の去勢を受けることは免れないでしょう(ライトノベルがゆえの去勢の問題は今は置きます)。
2010-09-09 06:35:50大げさに言いますが、冲方丁は『シュピーゲル』で前人未到の達成を実現しつつあります。それはライトノベルというメディアが誇るべきものになるはずです。
2010-09-09 06:36:45漫画・アニメ・ゲーム由来の想像力と非ミニマリズム的想像力の簒奪はライトノベルというメディアが外に開かれていく状況の中であるからこそ、なんとしてでも抵抗しなければならないと思われます。冲方丁はその最初のケースです。
2010-09-09 06:42:33半日経って、ブクマおよび見かけた反応に答える形で。私がここで「本当に」問題にしているのは作家個人の収入や年齢に伴う志向の変化や市場の購買力や年齢層ではありません。問うているのは想像力と想像力の権力関係です。
2010-09-09 19:30:46コメントで夏葉薫さんが『神様の悪魔か少年』の中村九郎の存在を挙げています。私もあの作品は幸福な形での「越境」だったと思います。「ガチンコのフリークス」というフレーズが曖昧かもしれませんので「ライトノベルだからこそ可能な達成を実現している小説」と考えてください。
2010-09-09 19:31:48私は冲方丁と一緒に『円環少女』の長谷敏司の名前を挙げました。個人的にこの2人は漫画・アニメ・ゲーム由来の想像力と非ミニマリズム的想像力の課題を最も過酷な形で(ガチンコのフリークスとして)自らに課している2人です。
2010-09-09 19:32:41少し逸れますが、長谷敏司にとっての幸福な越境があるとすれば、長谷敏司にとっての(権力的な意味においての)『マルドゥック・スクランブル』にあたる作品を書くことになるのだと思います。
2010-09-09 19:33:43そして先に挙げた2つの越境、それとは異なる道をシミュレートできる作家が、おそらく中村九郎や竹宮ゆゆこになるのだと思います。「ライトノベルだからこそ可能な達成を実現している小説」を高度な水準で書いている作家です(輸入モノではないという意味です)。
2010-09-09 19:36:58「輸入モノ」ではない「こちら側」の表現で書かれた自由闊達な文章は間違いなく「財産」であり「武器」です。中村九郎はライトノベル作家の中でも異端な存在ですが、もしも竹宮ゆゆこが越境するとしたらあの文章のままで出版することが出来るでしょうか。
2010-09-09 19:37:50さきほど、「問うているのは想像力と想像力の権力関係です」と述べました。『天地明察』以降の一連の盛り上がりは一部の冲方丁のファンにとってほとんど恥辱に等しいものでした(私にとって、でも構いません)。そして「冲方丁に直木賞を」という気運が出版業界にあるのは間違いないでしょう。
2010-09-09 19:38:59なので、00年代のライトノベルとSFと直木賞について大雑把に。というより池上永一の名前だけでほとんど説明には足ります。この作家は98年に直木賞の候補になっていますが、以降はそれに背を向けるかのような小説を次々と発表しています。
2010-09-09 19:40:19『SFが読みたい!』の2006年度版では「直木賞養成ギプス」なるフレーズを用いていささか軽蔑的、露悪的に、冗談交じりに一般文芸の体質を語っているインタビューを読むことが出来ます。ちなみにインタビュアーは大森望。大森望は冲方丁を最も評価している書評家の一人でしょう。
2010-09-09 19:42:54池上永一の『シャングリ・ラ』はアニメ誌である『ニュータイプ』で挿絵イラストに吉田健一を迎えて連載されていたものです。日本ファンタジーノベル大賞出身作家が直木賞候補になりながらもこのような状況で作品を書くことは稀でしょうが、1つの事例として捉えてください。
2010-09-09 19:44:03『シャングリ・ラ』はその「メディア上の制約」の中で、漫画・アニメ・ゲーム由来の想像力と非ミニマリズム的想像力に「接近」して書かれたものです。冲方丁はライトノベルのメインストリームではないという態度もこの「接近」と似た問題だと思われます。
2010-09-09 19:45:38次に、漫画・アニメ・ゲーム由来の想像力と非ミニマリズム的想像力から出発して00年代の日本SFを捉えて、極めて恣意的に作家と作品を挙げます。飛浩隆の『グラン・ヴァカンス』、冲方丁の『マルドゥック・スクランブル』、池上永一の『シャングリ・ラ』
2010-09-09 19:46:40この3作品の『SFが読みたい!』2010年版で企画されたゼロ年代SFベスト30の順位は2位、3位、14位です。いずれの作品もライトノベル的な異能バトルが展開される小説です。これらの作品はライトノベルとして「も」堪能できると思います。
2010-09-09 19:47:3510年間のベストにランクインするSF小説と直木賞との権力関係が意識されるはずです。おそらく直木賞にとってはこれらの小説は論外の作品ではないでしょうか。むしろそのように、実際に権力的に振舞っているとすら言えます。
2010-09-09 19:51:00さらにこの権力関係は、作家と読者の権力関係にまで拡大します。売れなかった作家と買わなかった読者の関係は無意識のうちに結託して、他の権力からの侵略に加担することになるでしょう。そのときに「財産」や「武器」を持ったままでいられるでしょうか。
2010-09-09 19:52:05現在のライトノベルのメインストリームであろう西尾維新が幸福な作家であるのはある程度健全な権力関係の中にいるからです。ここまで幾人かの作家の名前を出しましたが、彼らが実際に越境作家となるかはともかく、それらをとりまく権力関係には敏感でありたいと思います。
2010-09-09 19:53:24冲方丁の存在に偏った、ライトノベルの越境の見取り図を極めて恣意的に単純化したものです。私の個人的な態度であることを明記します。
2010-09-09 19:55:45夏葉さんのこのつぶやきを援用してもいいかもしれません。http://twitter.com/kaolu4s/status/23989281581
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