スイート★ノベル『聖なる乙女の淫らな罪』お試し読みまとめ

ティーンズラブ・ボーイズラブ電子書籍レーベル「スイートノベル」アカウント では、毎日12時~と24時~にお試し読みをツイートしています。TL作品『聖なる乙女の淫らな罪』お試し読みツイートをまとめました。ぜひお楽しみください♪ http://bookwalker.jp/pc/detail/c209f4b8-3a73-456c-9889-e5bbebcd5bb2/
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スイートノベル @SweetNovel

加齢のため、時折かすむ目を凝らしながら、傍らに置かれた水時計をのぞきこむ。「そろそろ時間だろうか……」小柄な体で、渾身の力をふり絞って開いた扉の先には、色とりどりの花が咲き乱れていた。 #SweetNovel

2013-03-17 12:45:22
スイートノベル @SweetNovel

中央には豊かな水を湛えた噴水があり、空に向かって枝葉を伸ばす大木の姿も見える。四方を壁に囲まれ、一見すると小規模な中庭のようだが、通常と異なるのはその上方。本来ならば青い空が広がっているはずの上空は、分厚い玻璃の天井で覆われていた。 #SweetNovel

2013-03-17 12:50:19
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玻璃越しに明るい陽光が降りそそぎ、どこからか小鳥のさえずりが聞こえ、空気取りの小さな穴から風さえ吹き込んでくるため、ともすれば建物の外に居るとも錯覚しそうになる。 #SweetNovel

2013-03-17 12:55:10
スイートノベル @SweetNovel

しかしその場所は、間違いなく屋内だった。自然の中に居るようでありながら、実は神殿の一部屋という矛盾に満ちたここは、ある一人の人物のために特別に設けられたものである。 #SweetNovel

2013-03-17 13:01:29
スイートノベル @SweetNovel

「…………?」通常ならば、扉が開くと同時に嬉々としてこちらに駆け寄ってくるその人物が、今日はやってこないことにカーラは首を傾げた。 #SweetNovel

2013-03-17 13:05:25
スイートノベル @SweetNovel

「リュミエール?」名を呼んでみると、噴水の奥で金色の光が揺れる。おそらく花畑の中で眠ってしまっていたのだろう。長い金の髪に縁どられた小さな顔が、花々の中でそっと面を上げた。 #SweetNovel

2013-03-17 13:10:17
スイートノベル @SweetNovel

「カーラ……様?」色鮮やかな衣に身を包んだ、小柄で華奢な少女だった。歩み寄るカーラを見つめ、パチパチと瞳を瞬かせる表情は、あどけなくも美しい。「眠っていたのですか?」「はい。そうみたいです」 #SweetNovel

2013-03-18 00:11:23
スイートノベル @SweetNovel

磁器のように白い手で擦る瞳は、青空を切り取ったかのような空色。身動きするたびに滑らかな絹の衣の周りで、金色の長い髪がふわふわと揺れる。 #SweetNovel

2013-03-18 00:16:25
スイートノベル @SweetNovel

「何か聞こえましたか?」「えーと……」額に人差し指を当て、リュミエールは何かを思案しているようだった。カーラはそれを静かに見守る。しばらくして再び動きだしたリュミエールは、深いため息をつきながら、細い首をゆっくりと左右に振った。 #SweetNovel

2013-03-18 00:21:23
スイートノベル @SweetNovel

「何も聞こえなかったみたいです」「そうですか」カーラの声は冷静で、非難の色も落胆の色も含まれていない。けれど期待に添えなかったことが心苦しかったらしく、リュミエールは深々と頭を下げる。 #SweetNovel

2013-03-18 00:25:54
スイートノベル @SweetNovel

「ごめんなさい」「いえ。謝るようなことではありませんよ」優しく背を撫でられても、リュミエールは顔を上げようとしなかった。ギュッとこぶしを握りしめながら、静かにうつむき続ける華奢な肩を、カーラは自分の方に引き寄せる。 #SweetNovel

2013-03-18 00:31:59
スイートノベル @SweetNovel

「大丈夫です。きっとすぐにお声が聞こえます」「はい」今の王国に、悠長にその時を待つだけの余裕がないことは、カーラにもよくわかっていた。しかし人一倍優しいリュミエールは、あまり気にし過ぎると、聞こえるものも聞こえなくなってしまうかもしれない。 #SweetNovel

2013-03-18 00:35:47
スイートノベル @SweetNovel

母親が我が子にそうするように、カーラはリュミエールの頭を何度も撫でた。「その時が来るまで、今はまだ何も気にせず、好きなように過ごせばいいのですよ」「……ええ」 #SweetNovel

2013-03-18 00:41:14
スイートノベル @SweetNovel

口ではそう答えながらも、リュミエールの表情は浮かない。それほど、まだ幼さの残る少女に与えられた使命は、王国にとって貴く重要なものだった。 #SweetNovel

2013-03-18 00:46:34
スイートノベル @SweetNovel

神に護られた国――神聖フィレメンス王国には、神の声を代弁するとされる者が存在する。神殿の奥で暮らし、外界と接触せず、神の声を聞いて巫女らに伝えるというその人物は、若い少女であることがほとんどであるため、『聖なる乙女』と呼ばれていた。 #SweetNovel

2013-03-18 00:51:07
スイートノベル @SweetNovel

乙女は指名制で、前任の乙女が神の声によって後任者を選定する。乙女は選ばれた瞬間から、人間よりも神に近い存在となる。それまでの身分にかかわらず、すぐに神殿の最奥のこの箱庭に連れてこられ、以後はこの場所で、神の代弁者として大切に守られるしきたりだった。 #SweetNovel

2013-03-18 00:55:59
スイートノベル @SweetNovel

次の乙女を宣告するまで、箱庭とそれに接する乙女専用の数部屋以外に外へ出ることはない。先代の『聖なる乙女』に次の乙女であると指名された時、リュミエールはまだ小さな子供だった。 #SweetNovel

2013-03-18 01:03:22
スイートノベル @SweetNovel

ものもよくわからない子供に、神の代弁者など務まるのだろうかと心配する声もあったが、幼いがゆえに純粋で、リュミエールはそれまでのどんな乙女よりも数多く神の声を聞いた。 #SweetNovel

2013-03-18 12:10:28
スイートノベル @SweetNovel

『もうすぐ南の方で、川が溢れるんだって』『今年はお天気が悪くて、作物があんまり実らないから、お魚を取るのに力を入れなさいって』リュミエールの言に従って治水工事を行ったり、国中に注意を促す通達を出したりした結果、王国が天災を免れた例は数知れない。 #SweetNovel

2013-03-18 12:15:18
スイートノベル @SweetNovel

神の声は貿易や外交にまでおよび、この数年で王国は飛躍的な発展を遂げた。そのため始祖神だけではなく、『聖なる乙女』にも感謝を捧げたいと、デュラキオソ神殿を訪れる参拝者は増えるばかりだ。 #SweetNovel

2013-03-18 12:20:22
スイートノベル @SweetNovel

しかし最近になって、リュミエールはある一つの神託を、神からなかなか受けることができずにいた。長く王位にあったロドリゲス三世が病に倒れ、宮殿でも街でも新王を望む声は多いというのに、それを決める神託が下らない。 #SweetNovel

2013-03-18 12:25:10
スイートノベル @SweetNovel

神聖フィレメンス王国においては、王の即位・退位もまた、神の声によって決められる事項だった。 #SweetNovel

2013-03-18 12:30:44
スイートノベル @SweetNovel

そこに神以外の思惑が入りこむことのないよう、リュミエールには次王の候補者たちの名前すら知らされていない。しかし誰かの名を神に告げられなかったかと、まるで急かすかのように、毎日訊ねられた。 #SweetNovel

2013-03-18 12:35:12
スイートノベル @SweetNovel

「どうして聞こえないんだろう?」カーラが帰り、再び閉じられた両手開きの扉に背を向け、リュミエールは一人ごちた。日に三度、決まった時間に様子を見にやってくるカーラ以外には、話し相手になってくれる者もほとんどおらず、すっかり独り言が習慣化してしまっている。 #SweetNovel

2013-03-18 12:40:22
スイートノベル @SweetNovel

「その他のことだったら、簡単に聞こえるのにな……」現に今日も、昼から少し雨が降ると聞いてカーラに伝えたところ、見事に的中した。それなのに新王に関する声だけは、どれほど願ってもいまだに聞こえない。 #SweetNovel

2013-03-18 12:45:30
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