#短歌の文語 百人一首篇

短歌向けの文語文法の解説が欲しいという声にお応えして、不肖未熟ながらやれるだけやってみることにしました。随時更新します。 私は国文学・国文法は専門外ですので、誤謬がありましたら詳しい方からのご指摘をたまわりたいと思います。
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小山芳立@念仏無間 @khoryu

係り「こそ」→已然形の結び。「ものこそかなしけれ」(「ものかなし」の係り結び) 「こそ」の係り結びは逆説の意味を伴う場合があります。例「昨日こそ早苗とりしかいつの間に稲葉そよぎて秋風の吹く」(「昨日早苗とりき」の係り結び)〈昨日早苗をとって植えたばかりなのに〉 #短歌の文語

2013-06-09 18:19:22
小山芳立@念仏無間 @khoryu

係り結びになる助詞は「ぞ」「なむ」「こそ」が強調、「や」「は」が疑問/反語の意味を持ちます。ただし短歌で「ぞ」「こそ」が使われるときは必ずしも強調しているのではなく、単に語調を整えるだけの場合もあります。 #短歌の文語

2013-06-09 18:22:37

※訂正: 疑問の助詞は「や」「は」ではなく「や」「か」です。失礼。

小山芳立@念仏無間 @khoryu

そのほか、係り結びというほど厳密ではありませんが、主格に格助詞「の」「が」が使われると、連体形で締める傾向があります。 「稲葉そよぎて秋風の吹く」 「雀の子を犬君が逃がしつる」(『源氏物語』若紫)〈雀の子をイヌキが逃がしてしまったの〉 #短歌の文語

2013-06-09 18:28:31
小山芳立@念仏無間 @khoryu

時代が下って中世ごろになってくると、係り結びでもないのに文末を連体形止めにする例が出てきます(現代にも通じます) 「冬はまだあさけの空もみし秋の面影ながらうち時雨れける」(後崇光院) これはあとに「ものよ」「ことよ」が省略されているもので、余韻を残す効果。 #短歌の文語

2013-06-09 18:39:22
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/26】小倉山峰のもみぢ葉心あらばいまひとたびのみゆきまたなむ(貞信公) 未然形+「ば」→仮定。「心あらば」〈もし心があるなら〉 「みゆき」(御幸)〈帝の行幸〉 未然形+「なむ」→願望。「またなむ」〈待ってほしい〉 帝が今一度お越しになるのを待ってほしい #短歌の文語

2013-06-10 23:49:20
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/27】 みかの原わきて流るるいづみ川いつみきとてか恋しかるらむ(中納言兼輔) 「湧き」に「分き」を掛け「泉川」までは「いつ見き」を導く序詞 下の句〈いつ逢ったからといって恋しいのだろうか〉 詠まれた状況がどうにでも想像できる、読み手次第で解釈できる和歌 #短歌の文語

2013-06-10 23:55:19
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/28】山里は冬ぞさびしさまさりける人目も草もかれぬと思へば(源宗行朝臣) 「ける」(<けり)は詠嘆。「ぬ」は完了 「枯れぬ」に「離れぬ」を掛ける。 〈山里は冬に寂しさが増すのだなぁ。人目も離れてしまい(=人も訪ねてこなくなり)草も枯れてしまったと思うと〉 #短歌の文語

2013-06-11 00:01:20
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/29】心当てに折らばや折らむ初霜のおきまどはせる白菊の花(凡河内躬恒) 「心当て」〈当てずっぽう〉 「や」疑問。「む」意志。折るなら折ろうか 「初霜の置き、惑はせる」 「る」(<り)存続 霜が下りて真っ白だから白菊の花が見分けられない、という和歌世界 #短歌の文語

2013-06-11 00:09:54
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/30】有明のつれなく見えし別れよりあかつきばかりうきものはなし(壬生忠岑) 「有明」はここでは有明の月。夜明けごろ昇る 「し」(<き)直接過去 平安時代の恋愛は基本的に男が女のもとへ夜かよって朝方帰る。 #短歌の文語

2013-06-11 00:15:47
小山芳立@念仏無間 @khoryu

「なむ」には 未来推量・意志「む」を強調するため完了「ぬ」未然形「な」を付けて「なむ」にした助動詞 願望を表す終助詞「なむ」 の、2種類があります。前者は連用形に付き、後者は未然形に付きます 「言ひなむ」言ってしまいたい、きっと言うだろう 「言はなむ」言ってくれ #短歌の文語

2013-06-11 00:24:26
小山芳立@念仏無間 @khoryu

文語文法は、どんなときに何形に付くとか理屈で覚えるより、和歌の用例に多く触れることでなじめるものだと思います。私は、真面目な高校生がよくやるような、助動詞活用丸暗記というのをやったことがありません。今でも「ず、ざら、ず、ざり…」などとはなかなか唱えられません。 #短歌の文語

2013-06-11 00:29:53
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/31】朝ぼらけ有明の月と見るまでに吉野の里に降れる白雪(坂上是則) 「る」(<「り」)存続 早朝からやけに明るいから有明の月かと思ったら雪だよ雪! #短歌の文語

2013-06-11 18:53:42
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/32】山川に風のかけたるしがらみはながれもあへぬもみぢなりけり(春道列樹) 「しがらみ」〈柵〉 「たる」(<「たり」)存続 「ながれもあへぬ」→「流れあへぬ」〈流れきれない〉に強調「も」を挟んで音数を整える 「けり」詠嘆 #短歌の文語

2013-06-11 19:00:03
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/33】久方の光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ(紀友則) 「久方の」→天のものに掛かる枕詞 「静心なく」〈落ち着きなく〉 「らむ」現在推量だが、和歌では「なに」を補って責め口調の疑問に解するほうが当てはまることが多い。〈なんで散っているのか!〉 #短歌の文語

2013-06-11 19:03:52
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/34】誰をかもしる人にせむ高砂の松も昔の友ならなくに(藤原興風) 「誰を知る人にせむ」〈誰を知人にしようか〉に反語「か」+強調「も」が付く。〈いや誰も知人にはできない〉 「なくに」は未然形に付いて〈〜ないのに、ないというのに、ないのだから〉 #短歌の文語

2013-06-11 19:09:47
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/35】人はいさ心も知らずふるさとは花ぞ昔の香に匂ひける(紀貫之) 二句切れ。「人はいさ心も知らず。ふるさとは…」 「いさ」〈さあ〉 古語「匂ふ」は大概〈美しく映える〉の意味だが、ここでは「香」とあるので現代語と同じく〈薫る〉 #短歌の文語

2013-06-11 19:14:28
小山芳立@念仏無間 @khoryu

疑問を表す言葉は強められることによって反語の意味を持つことが多いです。 「や」「か」→「やは」「やも」「かは」「かも」 「いかで」→「いかでか」「いかでかは」 「など」→「などかは」 「誰」→「誰かは」 「誰を」→「誰をや」「誰をかも」「誰をかは」 等々いろいろ #短歌の文語

2013-06-11 19:21:12
小山芳立@念仏無間 @khoryu

上の句・下の句の概念ゆえに〈575/77〉で意識しがちですが、上代〜平安前期までは〈57/577〉の感覚のほうが強い。よって二句切れも多い。 「春過ぎて夏来にけらし。白妙の…」 「花の色はうつりにけりな。いたづらに…」 「ちはぶる神代も聞かず。竜田川…」 #短歌の文語

2013-06-11 19:28:09
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/36】夏の夜はまだ宵ながらあけぬるを雲のいづこに月やどるらむ(清原深養父) 「ながら」〈〜のままで〉 「を」逆説 〈まだ宵だと思っているうちに明けてしまうのに〉 「らむ」現在推量 〈雲のどこに月は宿っているのだろうか〉 #短歌の文語

2013-06-12 23:39:02
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/37】白露に風の吹きしく秋の野はつらぬきとめぬ玉ぞ散りける(文屋朝康) 「しく」〈しきりに〜する〉 「ぬ」→打消「ず」連体形 「玉ぞ散りける」→「玉、散りけり」の係り結び 白露が風に吹き飛ばされて(首飾りなどの)糸の切れた玉のように散ることよ #短歌の文語

2013-06-12 23:43:48
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/38】忘らるる身をば思はずちかひてし人の命の惜しくもあるかな(右近) 「るる」→受身「る」連体形 「をば」=「を」+「ば」で強調 「てし」=完了「つ」連用形「て」+過去「き」連体形「し」 捨てられるわたしの身より、誓いを破ったあなたの命が心配ね ※怖っ。 #短歌の文語

2013-06-12 23:50:13
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/39】浅茅生の小野の篠原しのぶれどあまりてなどか人の恋しき(参議等) 「浅茅生の」→「小野」に掛かる枕詞 「篠原」までは「忍ぶれど」を導く序詞 「あまりて」〈思いが余って、あふれて〉 「などか」〈どうして、なぜ〜か〉 疑問文だから最後は連体形「恋しき」 #短歌の文語

2013-06-12 23:55:04
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/40】しのぶれど色に出でにけり我が恋は物や思ふと人の問ふまで(平兼盛) 「色に出でにけり」〈自分では意識していなかったけど顔色に出てしまっていたんだなぁ〉 「や」疑問 物思い(片恋)をしているのですか、と人から訊かれるほどに #短歌の文語

2013-06-12 23:57:38
小山芳立@念仏無間 @khoryu

「忘る」は下二段と四段の2種類があります。 下二段:現代語と同じく「(自然に)忘却する」の意味 四段:(積極的に)忘れる、思いを断つ 受身「る」は未然形に付くので「忘らるる身」の場合は四段の「忘る」 下二段の「忘る」に受身が付くなら「忘れらるる身」になる #短歌の文語

2013-06-13 00:02:32
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