#短歌の文語 百人一首篇

短歌向けの文語文法の解説が欲しいという声にお応えして、不肖未熟ながらやれるだけやってみることにしました。随時更新します。 私は国文学・国文法は専門外ですので、誤謬がありましたら詳しい方からのご指摘をたまわりたいと思います。
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小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/52】あけぬれば暮るるものとは知りながらなほうらめしき朝ぼらけかな(藤原道信朝臣) 文法解説は特にいらないかと。 〈夜が明けてもまた日が暮れればあなたに会えるとは分かっているけど、それでも朝が来るのは恨めしい〉 #短歌の文語

2013-06-15 23:47:57
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/53】なげきつつひとりぬる夜のあくるまはいかに久しきものとかはしる(右大将道綱母) 『蜻蛉日記』著者ですお 「かは」反語 〈嘆きながら独り寝る夜が明けるまでの時間がどんなに長いものか、あなたは知っている? いや、知らないわよね〉 #短歌の文語

2013-06-15 23:51:14
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/54】忘れじのゆく末まではかたければ今日をかぎりのいのちともがな(儀同三司母) 「忘れじの」〈忘れはすまいと言ったあなたの言葉は〉 「ゆく末」〈将来、未来、先行き〉 「難ければ」あてにならないってことですな 「もがな」願望。〈今日限りの命であればなぁ〉 #短歌の文語

2013-06-15 23:55:53
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/55】滝の音はたえて久しくなりぬれど名こそ流れてなほ聞こえけれ(大納言公任) 庭園?にあった滝がなくなったあとも、素晴らしい滝だったと語り継がれている様子 「名」評判、噂 「名こそ流れてなほ聞こえけれ」→「名は流れてなほ聞こえけり」の係り結び #短歌の文語

2013-06-15 23:59:57
小山芳立@念仏無間 @khoryu

「や」「か」は疑問の助詞ですが「や」より「か」のほうが“質問”のニュアンスがあるみたいです。つまり「や」は独り言の場合もあるけど「か」は具体的に誰かに尋ねているっぽい。「いかに久しきものとかは知る」は「ものとやは知る」よりも相手の男を問い詰めている感じでしょうか。 #短歌の文語

2013-06-16 00:02:48
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/56】あらざらむこの世のほかの思ひ出にいまひとたびのあふこともがな(和泉式部) 恋多き女、和泉式部ですお 「ざら」→打消「ず」未然形 「む」→ここは未来・婉曲。「ざらむ」=「じ」 「あらざらむこの世」〈もう長くはないこの世〉 「もがな」願望〈〜が欲しい〉 #短歌の文語

2013-06-16 23:43:42
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/57】めぐりあひて見しやそれともわかぬまに雲がくれにし夜半の月かな(紫式部) 『源氏物語』著者 友人とのわずかな時間の再会を詠む 「し」→直接過去「き」連体形 「や」疑問 「わかぬ」〈分からない〉 「にし」=完了「に」+直接過去「し」(<「き」) #短歌の文語

2013-06-16 23:48:12
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/58】ありま山ゐなの笹原風吹けばいでそよ人を忘れやはする(大弐三位) 「いで」→「いざ」と同様〈さあ〉 「そよ」=「そ」+「よ」 「そ」それ。「よ」現代語と同じく「〜よ」。〈それよそれ〉 風の音「そよ」を掛ける 「やは」反語。〈君を忘れたりなどしない〉 #短歌の文語

2013-06-16 23:54:26
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/59】やすらはで寝なましものをさ夜ふけてかたぶくまでの月を見しかな(赤染衛門) 「やすらはで」ウダウダしないで 「なまし」連用形に付く。いくつか意味があるがここでは過去の後悔で〈〜してしまえばよかったのに〉 「寝なましものを」寝てしまえばよかったのに #短歌の文語

2013-06-16 23:59:02
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/60】大江山いく野の道の遠ければまだふみもみず天の橋立(小式部内侍) 「いく野」→「行く野」に「生野」を掛ける 「ふみもみず」→「文も見ず」に「踏みもみず」を掛ける 歌意のためには背景説明が必要なので詳述します(私の一番のお気に入りですしw) (続 #短歌の文語

2013-06-17 00:02:39
小山芳立@念仏無間 @khoryu

承前)小式部内侍は早くから歌を詠むのがうまいと評判でした。しかし歌のやりとりは手紙でなされるので、彼女の上手な歌は母親が代作しているのではという噂が立ちました。というのも彼女の母親は女流歌人として名高い和泉式部だったからです。(続 #短歌の文語

2013-06-17 00:06:25
小山芳立@念仏無間 @khoryu

承前)そんな小式部内侍もついに社交界デビュー、歌合に出る日がやって来ました。たぶん10代前半。緊張してなかなか詠めずにいる彼女の元へ藤原定頼というオッサンが来てからかいました「お嬢ちゃん、丹後にいるママから、歌を書いた手紙はまだ届かないのかい?www」(続 #短歌の文語

2013-06-17 00:10:42
小山芳立@念仏無間 @khoryu

承前)そこで小式部内侍はすかさず切り返したのです 「大江山いく野の道の遠ければまだふみもみず天の橋立」 ダブル掛詞に歌枕も入れられて即座にやり返され、定頼のオッサンたじたじ。彼女の歌が母親の代作という噂はきれいさっぱり消えてしまいましたとさ。 #短歌の文語

2013-06-17 00:12:54
小山芳立@念仏無間 @khoryu

婉曲・未来「む」について 古語では時制が妙に厳密なところがあり、未来のことについてはほぼ必ず「む」を使います。「また来る折には」と現代語では「来る」という場合でも、古語では「また来む折には」といいます。これ、ちゃんと使わないと読む側が混乱しますのでよろしく。 #短歌の文語

2013-06-17 00:18:02
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/61】いにしへの奈良の都の八重桜けふ九重に匂ひぬるかな(伊勢大輔) 余裕っすね。一応言っておくと 「九重」宮中のこと。ここでは平安京の宮中で、「八重」との対比を掛ける 「匂ふ」古語では基本的に色が映える様子を言い、香るという意味で使われることは少ない #短歌の文語

2013-06-18 22:21:42
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/62】夜をこめて鳥のそらねははかるともよに逢坂の関はゆるさじ(清少納言) 「夜をこめて」夜の明けないうちから 「鳥の空音」鶏の鳴き声の真似 「謀る」現代語と同じ 「よに」否定表現を強調。〈全く〜ない〉 「じ」→「む」の打消(=ざらむ) #短歌の文語

2013-06-18 22:24:53
小山芳立@念仏無間 @khoryu

清少納言「夜をこめて…」は背景事情を知らないと意味が分からない歌なので説明します。 まず中国の孟嘗君の故事で、早朝に一番鶏が鳴いたら門を開けることになっていた函谷関の関所を、孟嘗君の部下が鶏の声の鳴き真似をして開けさせた、という話があります。これを踏まえて(続 #短歌の文語

2013-06-18 22:29:13
小山芳立@念仏無間 @khoryu

承前)ある夜、藤原行成という男が遅くまで清少納言と一緒に語らっていたのですが「わりい、俺あした早いから」って帰っちゃったわけです。清少納言も女ですから、なにそれあり得ないんですけどって感じでプンプン。(続 #短歌の文語

2013-06-18 22:32:28
小山芳立@念仏無間 @khoryu

承前)で翌朝、行成が清少納言に手紙をよこしました。「昨夜は君とずっと一緒にいたかったんだけど、鶏の声にせき立てられて帰ってしまったよ」と。それに対して清少納言は「夜をこめて鳥のそらねははかるともよに逢坂の関はゆるさじ」という歌でやり返したわけです。(続 #短歌の文語

2013-06-18 22:34:42
小山芳立@念仏無間 @khoryu

承前)清少納言の歌意:「函谷関は鶏の声のモノマネにだまされて開けたっていうけど、逢坂の関(わたしとの逢瀬のための関所)は絶対そんなに甘くないんだから! どう、わたしすごいでしょ。漢籍に通じてるのよ。海外事情に詳しいのよ。なめないでほしいわ。その辺の女とは違うの」(続 #短歌の文語

2013-06-18 22:39:07
小山芳立@念仏無間 @khoryu

承前)一方、行成もこんな歌をやり返しました「逢坂はひと越えやすき関なれば鳥鳴かぬにもあけて待つとか」。これを受け取った清少納言、カンカン。ところが、行成があちこちで「清少納言すげーわ。知的で素敵な女性だわー」と言っていると聞き、まんざらでもなかったとさ。 #短歌の文語

2013-06-18 22:43:00
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/63】いまはただ思ひ絶えなむとばかりを人づてならで言ふよしもがな(左京大夫道雅) 「絶えなむ」絶ってしまおう 「と」→助詞なのに三句の頭。今風なら句またがりだが古歌でそれはあり得ないので、古語「と」は副詞扱いと解する 「ならで」=「ならず」+「て」 #短歌の文語

2013-06-18 22:51:34
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/64】朝ぼらけ宇治の川霧絶え絶えにあらはれわたる瀬々の網代木(権中納言定頼) うーん、これは解説不要かと。 #短歌の文語

2013-06-18 22:52:43
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/65】うらみわびほさぬ袖だにあるものを恋にくちなむ名こそをしけれ(相模) 「ほさぬ袖」涙で濡れて乾かない袖 「名」評判、噂 「恋に朽ちなむ名」恋バナのゴシップのネタにされてボロボロになるわたしの評判 「名こそ惜しけれ」→「名、惜し」の係り結び #短歌の文語

2013-06-18 22:56:15
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/66】もろともにあはれと思へ山桜花よりほかに知る人もなし(前大僧正行尊) 〈山桜よお前だけが知己だ〉みたいな歌。文法解説はいらないと思いますが一点「あはれ」について。現代語「哀れ」と違ってワイルドカード、意味多岐。「素敵」みたいないい意味にも #短歌の文語

2013-06-20 23:40:27
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