#短歌の文語 百人一首篇

短歌向けの文語文法の解説が欲しいという声にお応えして、不肖未熟ながらやれるだけやってみることにしました。随時更新します。 私は国文学・国文法は専門外ですので、誤謬がありましたら詳しい方からのご指摘をたまわりたいと思います。
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小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/67】春の夜の夢ばかりなる手枕にかひなくたたむ名こそをしけれ(周防内侍) 「夢ばかりなる手枕」夢の中だけの腕枕 「甲斐なく立たむ名」現実の関係はないのに立つような恋の噂 「名こそ惜しけれ」→「名、惜し」の係り結び 平安貴族はやたら噂を気にしたらしい #短歌の文語

2013-06-20 23:45:41
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/68】心にもあらでうき世にながらへば恋しかるべき夜半の月かな(三条院) 「あらで」=「あらず」+「て」 「心にもあらで」想定外に 「ながらへば」→ハ下二なので「ながらへ」は未然形。「もし命をながらえたら」 〈命ながらえたら、この月が恋しくなるはずだ〉 #短歌の文語

2013-06-20 23:50:17
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/69】あらし吹くみ室の山のもみぢばは竜田の川の錦なりけり(能因法師) 「けり」詠嘆 在原業平「ちはやぶる…」にも詠まれているように、竜田川はもみじの名所 #短歌の文語

2013-06-20 23:56:39
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/70】さびしさに宿を立ち出でてながむればいづくもおなじ秋の夕ぐれ(良選法師) ここでは「ながむ」が珍しく現代語と同じ「眺める」意味で使われていますが、やはりぼんやりと物思いにふけるというニュアンスも含んでいると思われます。 #短歌の文語

2013-06-21 00:00:10
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/71】夕されば門田の稲葉おとづれて蘆のまろやに秋風ぞ吹く(大納言経信) 「夕されば」→「さる」には「去る」のほかに〈(季節などが)来る〉という同音異義語があってそっちのほう。 「音づれて」〈音がする〉。これは「訪れて」と似ていて紛らわしいですが #短歌の文語

2013-06-23 00:07:52
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/72】音に聞く高師の浜のあだ波はかけじや袖のぬれもこそすれ(祐子内親王家紀伊) 「音に聞く」は〈かの有名な〉の意味だがここでは波の音を連想させる 「かけじや」〈かからないようにしよう〉で句割れ。「じ」は「む」の打消。「や」は詠嘆(疑問ではない) (続 #短歌の文語

2013-06-23 00:14:06
小山芳立@念仏無間 @khoryu

承前)「〜もこそ」「〜もぞ」など、係り結びになる助詞に「も」を付けて強調すると「〜してしまうといけない」といった意味合いになる。「かけじや、袖のぬれもこそすれ」は〈波がかからないようにしよう。袖が濡れてしまうから〉 (続 #短歌の文語

2013-06-23 00:18:10
小山芳立@念仏無間 @khoryu

承前)72番の歌意は〈女ったらしで有名なあんたの言葉なんか信用したら、わたしの袖が濡れることになる(わたしが泣くことになる)から、取り合わないことにするわ〉ということ。 #短歌の文語

2013-06-23 00:20:01
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/73】高砂のをのへのさくらさきにけりとやまのかすみたたずもあらなむ(前権中納言匡房) 「をのへ」(尾の上)→小山の上のほう 「とやま」(外山)→「奥山」に対して「外山」なので里から見て手前の山 「あらなむ」→未然形+「なむ」で願望。〈霞は立たないでくれ〉 #短歌の文語

2013-06-23 00:23:37
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/74】憂かりける人を初瀬の山おろしよはげしかれとは祈らぬものを(源俊頼朝臣) 変な所に句割れがあって「憂かりける人を、初瀬の山おろしよ、はげしかれとは祈らぬものを」 「初瀬」長谷寺のある所 〈つれないあの人がもっとひどくなるようになんて祈ってないのに〉 #短歌の文語

2013-06-23 00:27:05
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/75】ちぎりおきしさせもが露をいのちにてあはれ今年の秋もいぬめり(藤原基俊) 「させも」ヨモギ 〈あなたの約束、よもぎの葉の露を命と思っていたのに〉 「めり」→伝聞「なり」が〈聞こえる〉のに対して「めり」は〈見える〉感じで、〈〜らしい〉〈〜ようだ〉 #短歌の文語

2013-06-23 00:31:50
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/76】わたの原こぎいでてみれば久方の雲ゐにまがふ沖つ白波(法性寺入道前関白太政大臣) 「わたの原」海原 「まがふ」間違える 「沖つ白波」沖の白波 この歌が面白いのは、三句「久方の」から読者の視線を上に上げさせておきながら、結句で沖に戻すところですかね #短歌の文語

2013-06-24 23:37:03
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/77】瀬をはやみ岩にせかるる滝川のわれても末にあはむとぞ思ふ(崇徳院) 「Aを」+〔形容詞語幹〕「み」→Aが〜なので。〈瀬の流れが速いので〉 「せかるる」→「せく」未然形+受身「る」〈せき止められる〉 岩で分かれる水流もあとで合流するようにあの人とも #短歌の文語

2013-06-24 23:41:28
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/78】淡路島かよふ千鳥の鳴く声に幾夜ねざめぬ須磨の関守(源兼昌) 文法的に正しくは「幾夜ねざめぬる、須磨の関守」です。当時はこの程度の間違いがあっても理解されたのです。現代の文語詠みが同じようなことをすると読者を混乱させますから、真似しないように。 #短歌の文語

2013-06-24 23:44:02
小山芳立@念仏無間 @khoryu

@asakusanotaisyo あ、書き方が悪かったですね。「幾夜ねざめぬる。須磨の関守」で四句切れ。

2013-06-25 00:34:42
浅草大将 @asakusanotaisyo

@khoryu とはいえ、連体形では句切れが明確にならないので終止形にした、というのが実情だとは思います。

2013-06-25 00:40:00
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/79】秋風にたなびく雲のたえ間よりもれいづる月の影のさやけさ(左京大夫顕輔) 「さやけさ」→形容詞語幹+「さ」は単に形容詞を体言化しているのではなく、詠嘆の意味を持ちます。 #短歌の文語

2013-06-24 23:45:53
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/80】長からむ心もしらず黒髪のみだれてけさは物をこそ思へ(待賢門院堀河) 二句切れ。 「長からむ心」〈いつまでも変わらないよと言うあなたの心〉 「黒髪の」→「乱れ」の枕詞だがここでは文字通り「黒髪の」の意にも 「物をこそ思へ」→「物を思ふ」の係り結び #短歌の文語

2013-06-24 23:51:06
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/81】ほととぎす鳴きつる方をながむればただありあけの月ぞ残れる(後徳大寺左大臣) 「月ぞ残れる」→「月、残れり」の係り結び 個人的には「だから何?」っていう歌 #短歌の文語

2013-06-27 23:11:37
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/82】思ひわびさてもいのちはあるものを憂きにたへぬは涙なりけり(道因法師) 「さても」=「さありても」そうであっても 百人一首の中でも「吹くからに…」と並んで指折りの駄作 #短歌の文語

2013-06-27 23:13:36
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/83】世の中よ道こそなけれ思ひ入る山の奥にも鹿ぞ鳴くなる(皇太后宮大夫俊成) 「道こそなけれ」→「道なし」の係り結び 「鹿ぞ鳴くなる」→「鹿鳴くなり」の係り結び。「なり」は「聞こえる」 〈鹿が鳴くのが聞こえる〉 #短歌の文語

2013-06-27 23:16:37
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/84】ながらへばまたこのごろやしのばれむ憂しと見し世ぞ今は恋しき(藤原清輔朝臣) 「ながらへば」→未然形+「ば」=仮定条件〈もし〜なら〉 「や」疑問 「世ぞ今は恋しき」係り結び 過去に嫌だったものが今は恋しいので、将来は今のことを偲ぶようになるのだろうか #短歌の文語

2013-06-27 23:19:53
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/85】夜もすがら物思ふころは明けやらで閨のひまさへつれなかりけり(俊恵法師) 「で」=「ず」+「て」 「明けやらで」なかなか明けきらなくて 「閨」寝室 「ひま」→時間的な暇の意も含むかもしれないが一義的には〈空間〉〈あなたがいてくれるはずの、私の隣〉 #短歌の文語

2013-06-27 23:23:34
小山芳立@念仏無間 @khoryu

《番外》古歌は男が詠んでいるからといって男の立場の歌とは限りません。また、僧侶でも歌会などで「恋」という題を与えられれば恋歌を詠みましたから、「坊さんなのに恋歌を詠んでる人多くない?」とか思わないようにw #短歌の文語

2013-06-27 23:27:44
小山芳立@念仏無間 @khoryu

《番外》慈円という高僧はあまりにも素晴らしい恋歌を詠んだため、本当に女と恋愛関係にあるのではないかと容疑をかけられ査問されたことがあります。その歌というのが「わが恋は松を時雨の染めかねて真葛が原に風騒ぐなり」。典型的な新古今調で現代人にはピンときませんが。 #短歌の文語

2013-06-27 23:31:11
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