うぎゃあ @yugamiyousai さんによる與那覇潤・東島誠『日本の起源』覚書

うぎゃあ @yugamiyousai さんによる與那覇潤・東島誠『日本の起源』(太田出版)自分用覚書 出版社サイト http://www.ohtabooks.com/publish/2013/08/29153651.html
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うぎゃあ @yugamiyousai

・鎌倉幕府法における「法の支配」の芽。二つの裁判手続き。事案の理非を問う「入理非」と実質審理省略の「入門」。新田一郎は従来対立的に捉えられていたこの二つを「即決できるだけの規範」があったか否かという風に捉え直す。

2013-09-18 22:18:39
うぎゃあ @yugamiyousai

・元寇。日本史上ほぼ唯一の被侵略戦争が日本を一つの領域国家にした。主従制の「御恩と奉公」で動員、対処出来る規模を遥かに超えた外圧から、統治権的アカウンタビリティの形成(挙国一致体制への移行)を迫られる。

2013-09-18 22:19:26
うぎゃあ @yugamiyousai

・鎌倉時代を「統合」の時代と考えると中世の位置づけがややこしくなる。網野史観のブームなどでこれまで注目されてきた中世像は、下剋上、バサラ、かぶく等の「逸脱」の時代だったのでは。

2013-09-18 22:22:45
うぎゃあ @yugamiyousai

・網野が「民族史的転換期」と呼んだ南北朝時代。荘園や農村のような現代に繋がる農耕定住民の伝統社会とはまるで異なる、悪党や遊行民たちが徒花を咲き誇らせた「われら失いし」世界を復元する試み。

2013-09-18 22:23:46
うぎゃあ @yugamiyousai

・ただ、網野の本を普通に読んで印象に残るのは堺の自治都市や戦国の無縁所といった「共同体」の描写。『もののけ姫』でもフラフラ遊行するジコ坊より城塞築いてアジールを守るエボシ御前の方が格好良い。

2013-09-18 22:24:24
うぎゃあ @yugamiyousai

・南北朝も戦国も日本史上の転換期。だが間の室町まで転換期に含めてしまうのはどうか。室町は南北朝に芽生えた変革の要素(移動の自由や商業、金融の発展等)が失速した時代だったのでは。

2013-09-18 22:25:06
うぎゃあ @yugamiyousai

・「江湖(ごうこ)」という史料用語。この語は「開かれた自由な社会」を意味する言葉として日本史上3回流行する。一四世紀(南北朝)、一六世紀(戦国)、一九世紀末(幕末)と、いずれも社会の流動性が高まり身分秩序が揺らいだ時期。

2013-09-18 22:25:24
うぎゃあ @yugamiyousai

・網野や内藤湖南(を再評価した勝俣鎮夫)のいう転換期を発展段階としてリニアーに位置付けるのではなく、反復して社会秩序を揺り動かすムーブメントと捉え直してみてはどうか。

2013-09-18 22:26:01
うぎゃあ @yugamiyousai

・象徴天皇制の起源は中世後期の傘連判。人称のブラックホール、あれこそ「空虚な中心」そのもの。同様の構造は田楽、猿楽の桟敷の着席の仕方から連歌の講、天皇の禁苑にいたるまで室町文化のそこかしこに見出せる。 https://t.co/f78YcGkARO

2013-09-18 22:27:21
うぎゃあ @yugamiyousai

・戦国時代の東国大名(っていうか後北条)は「文書で直接郷村に命令できるようになった権力」。二頭制バッファーが長く残って権力集中が遅れた西国に比べて官僚機構が発達した強権的な開発独裁国。

2013-09-18 22:29:16
うぎゃあ @yugamiyousai

・後開発地域なので中間層が育っておらず、社会にノマドが生息する隙間がない。発給者のはっきりした公的な文書の力が強く、ノマドが振りかざす怪しげな由緒書は通用しない世界。 ・中間層が成長した西国も違った意味で住みづらい世界。下層農民は村請に土地を取られるし、ノマドも締め出される。

2013-09-18 22:29:53
うぎゃあ @yugamiyousai

・文書発給のインパーソナル化。文書発給の手数料を無償化して代わりに普段から重税を課した信長、受給申請がなくても「お前らの権限はここからここまでだ」と一方的に文書を頒布した秀吉。

2013-09-18 22:31:13
うぎゃあ @yugamiyousai

・花押と印判の使い分け。北条氏の朱印状の場合、領民の側から権利保障(安堵)を申請してきた文書には取次のサインが、ハンコだけ捺した文書は大名側が領内に一斉頒布したものに多い。 ・近世の起源は信長でも秀吉でもなく後北条?

2013-09-18 22:31:24
うぎゃあ @yugamiyousai

・印判状が普及すればするほど直筆サインの希少価値が増す。戦国時代の主従制から統治権への移行は結局徹底されなかった。

2013-09-18 22:32:02
うぎゃあ @yugamiyousai

・最近「変革者ではなかった」と評される事の多い信長。彼は中世的秩序のイノベーター(破壊者)というよりはインテグレーター(統合者)であり、コレクター。足利義満も同じタイプ。壊したのは信長ではなく秀吉。

2013-09-18 22:33:10
うぎゃあ @yugamiyousai

・秀吉には血統によるアカウンタビリティがない。代わりに試みたのは山室恭子『黄金太閤』で描写される聚楽第や大仏の普請、大茶会等のイベント演出。朝鮮出兵もその延長。

2013-09-18 22:34:01
うぎゃあ @yugamiyousai

・秀吉によるスラム・クリアランス。旧五条橋の中の島に集まる勧進者を強制移住させるべく、まずは東山に大仏殿というアミューズメントパークを作り、新五条橋を架橋してそちらに人々を誘導。この間、風流踊などのイベントを催し京の町衆に酒を振る舞い、人心掌握に余念がない。

2013-09-18 22:34:15
うぎゃあ @yugamiyousai

・信長と秀吉の政策の違い。一五七一年、信長は京都の各町に米五石を貸し付け、年率三割、毎月2.5%の利息を取って禁裏財政に充てた。元本の5石は返さなくても良いとはいえ三年四カ月で利息が元本と同じになるので実質課税と変わらない。

2013-09-18 22:35:27
うぎゃあ @yugamiyousai

・同じ方式を秀吉も採用。一五九二年の「四千貫文貸付制度」。但し利息は年率わずか5%。集めた金は洛下の橋の造営(それは勧進者たちの既得権益だった)に用いるという。傑出したポピュリストっぷり。

2013-09-18 22:36:02
うぎゃあ @yugamiyousai

・「羽柴がこねし天下餅」。秀吉自身が勧進者に限りなく近い身分の出身者だったとすれば、それは彼の「原風景」の否定。中世的ノマド世界のヒーローだったはずの秀吉がその猥雑で自由な世界を誰よりも憎悪し、抹殺する事で近世的秩序を産み落とした。

2013-09-18 22:37:53
うぎゃあ @yugamiyousai

・「起源以前のもの」が忘れ去られてゆく事であらゆる起源は成立してゆく。

2013-09-18 22:38:26
うぎゃあ @yugamiyousai

と、こんな感じで【近世】【近代】【戦前】【戦後】と全6章立てで対談が続いてく本です。面白いのでみんな買えば良いと思う(小並)。 >『日本の起源』

2013-09-18 22:43:01
うぎゃあ @yugamiyousai

全体の印象としましては、こう、「中国化」的なワンワードでざっくり歴史を腑分け出来そうな気配になる度に「いやまぁそうとは言い切れないこういう例外も~」っつって史学的に正しいお預け食らうのが伝奇者的に「いる?その焦らしいります?!何プレイよこれ?」と若干ストレスフルではありました。

2013-09-18 22:46:15