猫神博士の人間豹シリーズ（ツイッター小説）

八本正幸 @nekogamihakase

人間豹は飢えていた。繁華街の外れで、ひっそりと万華鏡を売っている少女がいた。一本買って覗いてみると、吸い込まれそうなほど深い闇が見えた。「見えた？」と少女が訊いた。「何が？」「永遠が……」 #twnovel

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人間豹は飢えていた。今宵の獲物は顔を包帯でぐるぐる巻きにしていた。「お久しぶりです」声に聞き憶えがあった。女は自らの手で包帯を解いた。そこには何も見えない。「おまえ、生きていたのか？」「かろうじて……」見えない空間が、少し赤らんだように見えた。 #twnovel

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人間豹は飢えていた。今宵の獲物は迷彩服を着て地面に伏せていた。「あんた」と女は小声で叱るように言った。「そんなところに突っ立っていたら敵に見つかるわよ！」そのまま匍匐前進で去って行った。敵ってどんな？人間豹には想像もつかなかった。 #twnovel

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人間豹は飢えていた。深夜の路地裏を歩いていると、カラカラという音とともに少女の笑い声が聴こえた。月明かりでくっきりと、輪回しをする少女のシルエットが舗道に壁に映し出される。それを追っていくうちに、ガランとした広場へ出た。そこで少女の影を見失った。 #twnovel

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人間豹は飢えていた。今宵の獲物は企画女優と呼ばれる名もなきAV嬢だった。路上でいきなり押し倒した。「カメラはどこ？」「そんなものはない」「じゃあ今夜泊めてくれる？」「それも駄目だ」「ならせめて何か食べさせてよ」涙目で訴えられて往生する人間豹だった。 #twnovel

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人間豹は飢えていた。深夜の路地裏で、うら哀しいギターの音が聴こえてきた。聴きおぼえのある音色だった。迷路のような路地を抜けてゆくと、年老いた男が古ぼけたギターでブルースを弾いていた。神の手と呼ばれた男だった。今夜はひとりで呑もうと人間豹は思った。 #twnovel

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人間豹は飢えていた。今宵の獲物は外人女子プロレスラーだった。いかつい身体のわりには童顔だった。人間豹はかつて一世を風靡した可憐なロック歌手の名前を口にした。「人違いだよ」と言って彼女は寂しく笑った。「そんな名前、憶えているのはあんたくらいだよ」 #twnovel

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人間豹は飢えていた。今宵の獲物は出勤途中の風俗嬢だった。馴染みの客に別れを言いたいと店に入った彼女が、化粧を落として出て来た顔を見て、一挙に食欲をなくした人間豹は、気がつかないふりをして彼女が通り過ぎるのをやりすごしたのであった。 #twnovel

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人間豹は飢えていた。今宵の獲物は出勤途中の風俗嬢だった。「お願い、大事なお客さんにお別れを言いたいの、少し待ってちょうだい」言って彼女は店に入ると、急いで化粧を落とした。まるで別人の顔になった女は、気づかない人間豹の前を通って逃げおおせた。 #twnovel

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人間豹は飢えていた。今宵の獲物は後ろ向きに歩いていた。どうも変だとよく見ると、胴体と首が逆の方に向いているのだった。「ごめんなさい」と言いながら彼女は自分の手で首を１８０度回転させるのだった。「時々自分がどっちを向いているのか解らなくなるの」 #twnovel

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人間豹は飢えていた。今宵の獲物は猫の衣裳を着たダンサーだった。そのしなやかで敏捷な身体の動きは、とても人間とは思えず、まるでネコ科の動物のようだ。「君も猫族なのか？」「これを見れば解るわ」と、ミュージカルのチケットを買わされてしまった。 #twnovel

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人間豹は飢えていた。今宵の獲物は大きな鞠を抱いた白いドレスの少女だった。夜の公園で一人で遊んでいた。どうも様子がおかしいので「お嬢ちゃん、その鞠を見せてごらん」と言うと、少女はニコリと笑って鞠を差し出した。それは人間の生首だった。 #twnovel

八本正幸 @nekogamihakase

人間豹は飢えていた。今宵の獲物は大金持ちの女だった。札束をばらまいて、女は命乞いをしたが、人間豹はそれには眼もくれず「おまえの値段はそれっぽっちか」と冷たい笑みを浮かべた。 #twnovel

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人間豹は飢えていた。近頃帝都を騒がせていた蜘蛛男と名乗る連続強姦殺人魔が半殺しの状態で発見された。背中には鋭い爪痕で「生き恥を晒せ」と書かれていた。蜘蛛男の証言は支離滅裂で「豹に襲われたんだ」と繰り返したが、それを信じる者はひとりもいなかった。 #twnovel

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人間豹は飢えていた。地下鉄でうたた寝をしているうちに目的の駅に着いていた。あわてて電車を降り、地上に出た。そこはネオンが瞬く夜の巷だ。「さて、今宵の獲物はどいつにするか？」眼の前を肌も露わな夏服の娘たちが通り過ぎる。人間豹は音もなくその後を追った。 #twnovel

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人間豹は飢えていた。「この町はもしや……」「そう、黄泉のくにじゃよ」と猫又は答えた。「お主が来るには、ちと早すぎる」「それじゃ何故？」「時代じゃよ。人間と猫族の幸福な時代は、もう終わりかけておる。残された時間を大切にするんじゃな」猫又の眼が光った。 #twnovel

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人間豹は飢えていた。案内された邸宅の奥座敷に尾が二股に分かれた巨大な雉猫がいた。彼がこの町の長老なのだろう。「よく来たの。お主も猫族の一員、いわばキャットピープルじゃから、いつかはこの町の住人になるじゃろう。猫ならとっくに猫又になってる齢じゃ」 #twnovel

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人間豹は飢えていた。猫娘に案内されて、黄昏の猫町を歩いてゆく。ところどころで猫が集会を開いていて、見慣れぬ人間豹をチラリと見るが、敵意は感じられない。やがて大きな日本家屋の前にたどり着いた。門には「猫又」と表札が出ている。「どうぞ」と猫娘が言った。 #twnovel

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人間豹は飢えていた。その街は全体が黄昏色に染まり、時間が止まっているように見えた。そしてとても懐かしい気持ちがした。帝都の摩天楼がひとつもなく、木造の民家の彼方に、茜色に染まる東京タワーが見えた。「長老がお待ちです」と猫娘が言った。 #twnovel

八本正幸 @nekogamihakase

人間豹は飢えていた。振り返るとそこにメイド服を着た猫娘が立っていた。「どうぞこちらへ」地上に出る長い階段を昇ってゆくと、ふいに視界が開けて黄昏の街に出た。地下鉄に乗った時は深夜に近かった。自分が時間を飛び越えたのか、遡ったのか、人間豹には解らない。 #twnovel

八本正幸 @nekogamihakase

人間豹は飢えていた。地下鉄でうたた寝をしているうちに、乗り過ごしてしまった。あわてて下りると、そこは妙に古びたホームで、人の気配がない。駅名を見ると「猫町」と記されている。音もなく、背後に気配が近づいた。振り返ると……。 #twnovel

八本正幸 @nekogamihakase

人間豹は飢えていた。深夜の路地裏で、大きな卵を見つけた。人間が入れるくらいの大きさだ。見るうちに卵は発光し、殻が割れたかと思うと、中から全裸の美女が現れた。ヴィーナスの誕生かと思う間に、美女は上空に静止したＵＦＯに吸い込まれて、夜空に消えてゆく。 #twnovel

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人間豹は飢えていた。土砂降りの雨の夜、超能力者の抹殺を目的とした政府直轄の秘密組織の工作員三名が惨殺された。帝都の路地裏へテレパス火田七瀬を追い込んだ工作員たちは鋭い爪痕で頸動脈を切られて絶命していた。この事件、犯人は解らず報道もされていない。 #twnovel

八本正幸 @nekogamihakase

人間豹は飢えていた。今宵の獲物は今どき珍しいエレベーターガールだった。「下へまいります」「えっ？」声と同時に、人間豹の身体はものすごい勢いで奈落へと落下をはじめた。眼が醒めるとそこはデパートの地階だった。「ご利用ありがとうございます」「？」 #twnovel

八本正幸 @nekogamihakase

人間豹は飢えていた。今宵の獲物はサーカスの女曲芸師だった。とても柔軟な身体で、抱きしめても考えられない角度で身体が曲がり、すり抜けてしまう。まるで軟体動物だ。格闘するうちにだんだん薄気味悪くなった人間豹は、ついに捕獲を諦めて言った「いい身体してるぜ」 #twnovel