古代ギリシアの「地道な生活のすすめ」 ヘシオドス『仕事と日』の生活訓

農耕生活を描いたヘシオドスの『仕事と日』。 この作品には様々な生活訓も記されています。 その中から、特に現代でもなお通用しそうな部分を抜粋してみました。
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ギリシア語たん(自転車操業中) @Hellenike_tan

(承前)全体で「与える者には某か与えた、与えない者には何も与えなかった」となります。

2013-10-12 13:05:14

与えることと奪うこと

ギリシア語たん(自転車操業中) @Hellenike_tan

【356行】"δὼς ἀγαθή, ἅρπαξ δὲ κακή, θανάτοιο δότειρα." "δὼς"は「与えること」という意味の女性名詞…とされていますが、用例はここくらいしかなく"δώτης"の異形とみられています。"ἀγαθή"は「善い」です。(続きます)

2013-10-12 13:30:16
ギリシア語たん(自転車操業中) @Hellenike_tan

(承前)"ἅρπαξ"は「奪うこと」。"δότειρα"は「与える女」という意味で、"θανάτοιο δότειρα"で「死を与える女」となります。「女」に対応するのは、直近の女性名詞"ἅρπαξ"。全体で「与えることは善で、奪うことは悪く、市を与える女である」となります。

2013-10-12 13:35:14
ギリシア語たん(自転車操業中) @Hellenike_tan

【ちなみに】岩波の松平訳では、"δὼς"(ドース)と"ἅρπαξ"(ハルパクス)を「神格化されているとみられる」として括弧書きしています。

2013-10-12 13:40:14

与える人は元気になる

ギリシア語たん(自転車操業中) @Hellenike_tan

【357行】"ὃς μὲν γάρ κεν ἀνὴρ ἐθέλων, ὅ γε, κεἰ μέγα δοίη," "ὃς"は関係代名詞男性形単数主格、"μὲν"は「確かに」、"γάρ"は「だから」、"κεν"は"ἄν"の異型で「~となるだろう」といった意味の小辞です。(続きます)

2013-10-12 14:00:22
ギリシア語たん(自転車操業中) @Hellenike_tan

(承前)"ἐθέλων"は"ἐθέλω"(~しようとする)の現在分詞能動態男性形単数主格。"κεἰ"は"εἰ"(もし)の異型で"δοίη"は"δίδωμι"(与える)の希求法アオリスト三人称単数能動態です。(続きます)

2013-10-12 14:05:14
ギリシア語たん(自転車操業中) @Hellenike_tan

(承前)全体を直訳すると「確かにだから与えようとする者はこうなるだろう、もし多くを与えたら」となります。

2013-10-12 14:10:14
ギリシア語たん(自転車操業中) @Hellenike_tan

【358行】"χαίρει τῷ δώρῳ καὶ τέρπεται ὃν κατὰ θυμόν:" "χαίρει"は"χαίρω"(喜ぶ)の直説法現在三人称単数能動態、"δώρῳ"は"δῶρον"(贈与)の単数与格です。(続きます)

2013-10-12 14:30:17
ギリシア語たん(自転車操業中) @Hellenike_tan

(承前)"τέρπεται"は"τέρπω"(活気づく)の直説法現在三人称単数中・受動態。"κατὰ θυμόν"は「心に沿って」。全体を直訳すると「贈与に喜び心に元気づけられる」となります。

2013-10-12 14:35:16
ギリシア語たん(自転車操業中) @Hellenike_tan

【357~358行】全体を通してみると、「確かにだから与えようとする者は、もし多くを与えたとしても、その贈与に喜び、心が活気づくだろう」となります。

2013-10-12 17:16:30

奪う人は心が凍る

ギリシア語たん(自転車操業中) @Hellenike_tan

【359行】"ὃς δέ κεν αὐτὸς ἕληται ἀναιδείηφι πιθήσας," "ἕληται"は"αἱρέω"(とる)の接続法アオリスト三人称単数中・受動態。"ἀναιδείηφι"は"ἀναίδεια"(恥知らず)の複数与格。(続きます)

2013-10-12 15:00:42
ギリシア語たん(自転車操業中) @Hellenike_tan

(承前)"πιθήσας"は"πείθω"(促す)のアオリスト分詞能動態男性形単数主格。全体で「恥知らずに促されて自ら奪い取る者は」となります。

2013-10-12 15:05:16
ギリシア語たん(自転車操業中) @Hellenike_tan

【360行】"καί τε σμικρὸν ἐόν, τό γ᾽ ἐπάχνωσεν φίλον ἦτορ." "σμικρὸν"は「小さい」、"ἐόν"は"εἰμί"の現在分詞能動態。(続きます)

2013-10-12 15:30:22
ギリシア語たん(自転車操業中) @Hellenike_tan

(承前)"ἐπάχνωσεν"は"παχνόω"(凍らせる)の直説法アオリスト三人称単数能動態。"ἦτορ"は「心」。全体で「そして小さいものを、愛する心を凍らせる」となります。

2013-10-12 15:35:15
ギリシア語たん(自転車操業中) @Hellenike_tan

【359~360行】全体を通してみると、「恥知らず(な心)に促されて自ら奪い取る者は、それが小さいものであっても、心を凍らせる」となります。この「心を凍らせる」については、①奪った者の心がすさむ、②奪われた者の心が落ち込むの二説があるそうです(岩波の松平訳は前者を採用)。

2013-10-12 15:40:15

わずかずつでもこつこつ貯めれば、やがて大きな財産になる

ギリシア語たん(自転車操業中) @Hellenike_tan

【361行】"ὃς δ᾽ ἐπ᾽ ἐόντι φέρει, ὃ δ᾽ ἀλέξεται αἴθοπα λιμόν:" "ἐπ᾽ ἐόντι"は、エリジオンされた前置詞"ἐπί"に支配された"εἰμί"の現在分詞能動態が男性又は中性単数与格をとります。(続きます)

2013-10-12 16:30:18
ギリシア語たん(自転車操業中) @Hellenike_tan

(承前)与格支配の"ἐπί"は「~の上に」「~の傍らに」といった意味です。ここでは「現にあるものの上に」となります。"φέρει"は"φέρω"(運ぶ)の直説法現在三人称単数能動態。すなわち「現にあるものの上に運ぶ」となります。(続きます)

2013-10-12 16:35:17
ギリシア語たん(自転車操業中) @Hellenike_tan

(承前)"ἀλέξεται"は"ἀλέξω"(避ける)の直説法現在三人称単数中・受動態。"αἴθοπα"は"αἶθοψ"(燃えるもの)の単数対格で、"λιμόν"は"λιμός"(飢餓)の単数対格。(続きます)

2013-10-12 16:40:15
ギリシア語たん(自転車操業中) @Hellenike_tan

(承前)全体で「現にあるものの上に更に運び込む者は、燃えさかる飢餓を避けられる」となります。「現にあるものの上に更に運び込む」とは、現に有する蓄えに更に上乗せしていくような態度のことを指します。

2013-10-12 16:45:17
ギリシア語たん(自転車操業中) @Hellenike_tan

【362行】"εἰ γάρ κεν καὶ σμικρὸν ἐπὶ σμικρῷ καταθεῖο" 与格支配の"ἐπί"は前行と同じ用法です。"καταθεῖο"は"κατατίθημι"(据える)の希求法アオリスト二人称単数中動態。(続きます)

2013-10-12 17:00:26
ギリシア語たん(自転車操業中) @Hellenike_tan

(承前)全体で「もし少ないものの上に少ないものをお前が据えていったなら」となります。「お前」として二人称単数で示されるのは、ヘシオドスの弟ペルセースです。

2013-10-12 17:05:15