#完全ノープラン艦これ与太話 【ライク・スティルバース、ライヴ・ティル・リヴァース】 #3

通し番号に磁気嵐のようなものが見える?あなたがたは、目に見える番号だけを信じ過ぎてはいないだろうか……順序とは、そういったディジタルなものではない……アナログ、自然界。そういった温かみを……宇宙的愛情……。 #1~#2: http://togetter.com/li/625848
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春魔解丼 @vespiking

#完全ノープラン艦これ与太話 【ライク・スティルバース、ライヴ・ティル・リヴァース】#3

2014-02-06 20:27:48
春魔解丼 @vespiking

(霧島に激しく詰め寄る羽黒を尻目に、それまで沈黙を保っていた飛龍の口が開いた。ぞっとするような暗い声がぽつり、と、羽黒の絶叫を塞き止めた。「そうしましょう。それでいい、と私は思います」)

2014-02-06 20:30:02
春魔解丼 @vespiking

羽黒は飛龍の言葉を聞いて一瞬硬直し、怒りの舳先を飛龍へ向けようとした。だが飛龍に顔を向けた瞬間、先の硬直とは比較にならぬ程に、全身が瞬時に凍り付いた。恐怖である。 01

2014-02-06 20:33:11
春魔解丼 @vespiking

飛龍の表情からは、なんの感情も読み取れなかった。飛龍と目が合った。羽黒は目を逸らした。飛龍の顔が、見えない。無表情。ぐちゃぐちゃになった感情をすべて押し込めて、能面で無理矢理ふたをしたような、おそろしい顔。怒っても笑ってもいない顔が、羽黒の肝をずたずたに裂いた。 02

2014-02-06 20:38:57
春魔解丼 @vespiking

「一旦出ましょう。羽黒ちゃんも、落ち着こう、ね?」すぐに、いつもの優しい飛龍さんの顔に戻った。羽黒は震える足で出口へ歩く。「霧島、何か掛けてあげてよ。その子、裸じゃ風邪ひいちゃう」「大丈夫ですよ。被検体の管理システムは万全なので」「あなた、最低よね」「お褒めの言葉として」 03

2014-02-06 20:45:31
春魔解丼 @vespiking

羽黒は少しほっとした気持ちで、飛龍と並んで歩いた。今の衝撃で、怒りも一旦飛んでいった。そうだ。今は冷静にどうすべきか考えよう。飛龍はとても優しい笑顔をしている。優しい笑顔。ドアを開けて出る。笑顔。先程から飛龍の表情が眉一つ動いていない事に、羽黒は必死で気付かぬふりをした。 05

2014-02-06 20:49:45
春魔解丼 @vespiking

廊下のベンチに座る。飛龍が隣に座る。呼吸が止まりそうなひととき。ここにいたくない。あの子のそばにも、この工廠にも、飛龍の隣にも。飛龍の方を向いた。飛龍の表情が変わっていた。飛龍の表情は 05

2014-02-06 20:52:55
春魔解丼 @vespiking

飛龍の表情は、先刻見た阿賀野のそれと同じだった。魂の抜かれた廃艦のそれと。 06

2014-02-06 20:55:15
春魔解丼 @vespiking

羽黒はもはや、恐怖すら感じていなかった。ただただ、時間だけが凍ったまま、流れる氷河のように、止まった時間が流れていた。突然、氷が割れた。飛龍の口が不意に開いた。「ね、雲龍」視線は宙に浮いている。 07

2014-02-06 21:00:11
春魔解丼 @vespiking

羽黒はすべてを理解した。理解したうえで、目の前の選択肢に押し潰されそうになった。胃の中の物がごろごろと渦巻き、焼け付くような酸が満ち引きを繰り返す。自分が浅はかだったのか。飛龍がまちがっているのか。そのどちらかを、決めなければ。あの子の人生を使って。 08

2014-02-06 21:04:54
春魔解丼 @vespiking

飛龍はもう、答えを出した。次は私だ。私が決めるのだ。あの子をどう、産むのか。産まれてすぐに、死ねというのか。あの子が死ぬほど悔いた人生を、また繰り返させるのか。それとも、心を壊して、身体を生かすのか。壊れた心で、死ぬまで生き続けるのか。 09

2014-02-06 21:13:38
春魔解丼 @vespiking

羽黒のなかで、ぐるぐると黒いものが渦巻いている。これは私か。私はこんなにも黒くて、こんなにもどろどろしていて、ぐるぐる溶けて、それがわたしの心なのか。わたしのこころはどこにある? 10

2014-02-06 21:16:30
春魔解丼 @vespiking

黒く濁った羽黒の視界に、一隻の艦がちらりと見えた。わたしより小さくて、わたしの隣で、隣にいた。いた。小さくなって、見えなくなった。わたしはあの子に、たしかにあの子に。そうだ。そのためにわたしは 11

2014-02-06 21:19:38
春魔解丼 @vespiking

羽黒はもう迷わなかった。「そうしましょう。それがいい。きっといい。死んでしまうより、ずっといい」霧島が機械のパネルをたたいた。びくん、と、阿賀野の身体が大きくのけぞった。丸くて大きな、真珠のような眼球が見開いた。 12

2014-02-06 21:23:17
春魔解丼 @vespiking

◆小休止◆【KANZEN NOPLAN】◆ごはんとかたべる◆

2014-02-06 21:24:25
春魔解丼 @vespiking

◆再開せよ◆【KANZEN NOPLAN】◆鰤大根美味◆

2014-02-06 22:41:17
春魔解丼 @vespiking

(羽黒はもう迷わなかった。「そうしましょう。それがいい。きっといい。死んでしまうより、ずっといい」霧島が機械のパネルをたたいた。びくん、と、阿賀野の身体が大きくのけぞった。丸くて大きな、真珠のような眼球が見開いた。)

2014-02-06 22:42:26
春魔解丼 @vespiking

きょとん、とした幼い顔が、目をぱたつかせて周囲をぐるりと見回した。赤子のような仕草。産まれたての赤子。そして、「あああーっ!あーんっ!」顔を真っ赤に染めて泣きじゃくる阿賀野。大人びた上品な船体におよそ似つかわしくない、肉体だけ成長した、赤子そのものの姿。異様。 13

2014-02-06 22:47:07
春魔解丼 @vespiking

羽黒は戦慄した。今日感じたどの恐怖よりも深い、根源から湧き出すような恐怖。戸惑い、そして、驚愕。胎児の奥底に眠る、夢の沈殿。原初的恐怖。生物としてありえない姿に対する、純粋な拒絶反応。だがしかし、羽黒は、「ごめんね。もう、大丈夫だよ」阿賀野を抱き寄せた。 14

2014-02-06 22:51:52
春魔解丼 @vespiking

「こわい、こわい」「こわくないよ」「こわい、こわい」「大丈夫だよ」「こわい、たすけて」「ごめんね、私が助けてあげるからね。私はね、ずっと味方だよ。阿賀野ちゃん」「あ、あ」羽黒は阿賀野の頭を抱き寄せ、そっとキスをした。強烈な薬物的興奮が全身を駆け抜ける。 15

2014-02-06 22:56:51
春魔解丼 @vespiking

同鎮守府には既に二番艦・能代が着任している。姉を彼女に任せる選択肢もあっただろう。だが、羽黒は、それを棄てた。否。奪い取った。能代から。阿賀野から。阿賀野を。阿賀野の人生を。すべてを背負い込んだ。それは彼女の優しさなのか、奉仕なのか、肉欲なのか。どれも違う。 16

2014-02-06 23:00:32
春魔解丼 @vespiking

羽黒は、恐怖に負けた。羽黒の心は、とうに壊れていた。 17

2014-02-06 23:01:23
春魔解丼 @vespiking

「まったく阿賀野姉はぁー!先輩もびっくりしてるじゃない!」「やーだー!羽黒センパイとケッコンするんだもぉーん!!」寝転がって駄々をこねる阿賀野を、能代が叱りつける。「まったく!ごめんなさい羽黒先輩、しーっかりお灸据えておきますから!」羽黒は我に返った。 19

2014-02-06 23:05:24