コーパスとソムリエと犬と鹿

タイトルだけだと何がなにやらですね。 深夜の雑多なお話です。
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きっかけは「コーパスって何?」というフォロワーさんの疑問。

ラテン語たん @Latina_tan

corpus はラテン語で「」を意味します。二次的に「死体」も意味しますが、元の意味は「」。人間や動物の胴体部分、という意味が元ですが、「本」とか「脳下垂」というときの「体」のように、ある程度まとまったカタマリのことも corpus と表現し得ます。

2014-02-18 01:52:29
ラテン語たん @Latina_tan

言語学などでよく言われる「コーパス」というのは、たとえば日本語の新聞や雑誌なんかの文章を何十年分もテキストデータにして保存したものなんかが「日本語コーパス」ですね。これを機械検索することで、「日本語で『流れる』と『流るる』の使用頻度の差は?」みたいな研究ができます。

2014-02-18 01:57:17
ラテン語たん @Latina_tan

コーパスを機械的に検索できるようになる前は、これをやろうとしたら学者さんが膨大なテキストを何日もかけて手作業でしらみつぶしでしたから、これができるようになったことは研究手法に大きな変革をもたらしたんですよ?

2014-02-18 01:58:02
ラテン語たん @Latina_tan

コーパス研究をなさってる方に見られたら、印刷したコーパスの束で張り倒されそうですけども。あくまで概略です、概略。

2014-02-18 01:58:52

ここから語源話

ラテン語たん @Latina_tan

ちなみに英語の corpse が「死体」だけを専門に指しているのは、英語にもともと body という単語が存在していたこと、そして近代の人間が死体に接するのが主に「葬儀」「教会」といった『ラテン語に近い場所』だったことが要因として推測できますー

2014-02-18 02:00:45
ラテン語たん @Latina_tan

こういうこと、たまーにあります。

2014-02-18 02:01:38
ラテン語たん @Latina_tan

英語で獣は beast ですね。 あくまで「獣、ケダモノ」です。蔑んで言うときはこちら。対する animal は、ラテン語の anima 「魂、息」からの関連もあるように、「神によって命を吹き込まれた、尊厳あるもの」という印象です。「エコノミックアニマル」は蔑称ではないのです。

2014-02-18 02:04:12
ラテン語たん @Latina_tan

「人間は社会的動物である」という表現も、英語では social animal です。そこに蔑んだ印象はありません。「動物」という日本語の一歩下に見た感じよりは、「生き物」「生きとし生けるもの」みたいな表現です、animal は。 もし見下すなら economic beast

2014-02-18 02:06:03
ラテン語たん @Latina_tan

さて、マクラはこの辺にいたしまして。 beast という言葉はラテン語由来です。ラテン語の bēstia ベースティアが元ですよ。フランス語に beste で入ったものを受け継ぎました。現代フランス語では bête と s が消えましたが。

2014-02-18 02:08:16
ラテン語たん @Latina_tan

なお、このフランス語の bête を用いた表現、bête de somme が「ソムリエ」の由来ともなるんですが…、まあそれはいずれ。

2014-02-18 02:10:00
ラテン語たん @Latina_tan

bēstia そのものの変遷に関しては取り立てて特別なこともないですが…、ちょっと振り返って考えてみましょう。 beast はラテン語由来です。 animal もラテン語から。 …あれ?昔のイングランド人は、「動物」をなんと呼んでいたんでしょうか?

2014-02-18 02:11:26
ラテン語たん @Latina_tan

イングランド人が古い時代に「動物全般」を指していた単語というのは、dēor という単語です。今のみなさんにもわかりやすい単語で言うと、これ、 deer のことです。

2014-02-18 02:15:11
ラテン語たん @Latina_tan

deer っていうとあれですよねー、そう、鹿です。昔は動物すべてを示していた言葉が、どうして今や一種族の名前格下げ」してしまったんでしょ?

2014-02-18 02:16:00
ラテン語たん @Latina_tan

この deer なる言葉、「息、魂」という意味の言葉ともつながりがあります。ロシア語のわかるかたなら、 душа (ドゥシャー)ですね。先の animalanima」から来ているのと似た意味の変化を遂げているのが面白いですね。

2014-02-18 02:17:37
ラテン語たん @Latina_tan

言ってみれば「軒を貸して母屋を取られる」っていうんですか、「じわじわと乗っ取られる」っていうんですか。こういう現象、英語でも結構起きております。

2014-02-18 02:20:14
ラテン語たん @Latina_tan

ラテン語由来の animalbeast が入ってきた結果、不要になった deer は「鹿」のところに収まりました。

2014-02-18 02:20:53
ラテン語たん @Latina_tan

他のゲルマン語派を眺めてみれば、ドイツ語の Tier ティーア 「動物」、オランダ語の dier ディエル「動物」、アイスランド語の dýr ディール 「動物」など、こっちが本来だったことが見えてきます。

2014-02-18 02:22:28
ラテン語たん @Latina_tan

そういえば、本来「犬」を意味していた hound が、どこからか現れた dog に意味を乗っ取られ、hound dog「猟犬」というより狭い意味になっていくのもおんなじですね。他の欧州諸言語を見渡せば、hound の系統が多いことがわかりますー。

2014-02-18 02:24:09
Simon_Sin @Simon_Sin

dogはどこからきたのでしょうか?RT @Latina_tan: そういえば、本来「犬」を意味していた hound が、どこからか現れた dog に意味を乗っ取られ、hound dog「猟犬」というより狭い意味になっていくのもおんなじですね。

2014-02-18 02:24:46
ラテン語たん @Latina_tan

@Simon_Sin よくわかんないんですよね、dog がどこからきたのか。

2014-02-18 02:31:17
ラテン語たん @Latina_tan

ドイツ語のHundであるとか(ダックスフントのフントですね)。 この h はラテン語あたりでは c ですので、ラテン語で犬を意味する canis, その末裔たるフランス語の chien, イタリア語の cane なんかも同じ系統です。

2014-02-18 02:26:15
ラテン語たん @Latina_tan

前にすこーしお勉強した「対格からの継承」、覚えていますか? canis対格canem 「犬を」。 ここから語末の -m がとれたのがイタリア語の cane ですねー。

2014-02-18 02:27:11
ラテン語たん @Latina_tan

有名なポンペイの遺構には、「犬のゆか絵」というのがありまして、床に犬の絵と、ラテン語で CAVE CANEM犬に気をつけよ(猛犬注意)」と書いてあるんですが、そう、この canem です。 日本語では「~注意する」ですが、ラテン語では「~注意する」なんですね。

2014-02-18 02:30:52