8月8日の報道ステーションがとりあげた放射線の遺伝的影響をめぐって:動物実験結果を中心に

まとめ「8月8日の報道ステーションで取り上げられた広島大・鎌田七男名誉教授の研究の原著論文を探して読んでみました」(http://togetter.com/li/549170 )の姉妹編です。 2013年8月8日夜の報道ステーションの特集の放送後の議論を別まとめから切り出し、単独で読めるようにしました。 番組で取り上げられた野村大成・阪大名誉教授の次の論文の話が中心ですが、放射線の遺伝的影響を調べる動物実験では、どれほど凄まじい量の放射線が照射されているかご覧下さい。 Nomura T. Parental exposure to X rays and chemicals induces heritable tumours and anomalies in mice. Nature 1982;296:575-577. http://www.nature.com/nature/journal/v296/n5857/abs/296575a0.html
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nao @parasite2006

大阪大・野村大成名誉教授の1982年の論文http://t.co/P1pJK88lL5 から、X線照射マウスから生まれた仔マウスの発癌(出生8カ月後)への影響の図。照射線量の単位は100 rad=1 Gy。1Gy=1 Svで換算可 http://t.co/4ELk7CJYmR

2013-08-19 04:53:01
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nao @parasite2006

X線照射線量率は72 rad/min=4320 rad/h = 43.2 Gy/h。これを連続照射するか(黒丸)、1回30秒(32 radすなわち0.32 Gy)ずつ2時間間隔で繰り返し照射(白丸)。最大照射量は5.04 Gy。

2013-08-19 05:02:54

精子形成の段階:
精原細胞(spermatogonia)→精細胞(spermatid)→成熟精子細胞(単数spermatozoon, 複数spermatozoa)

卵形成の段階:
卵母細胞(oocyte)→卵細胞(単数ovum, 複数ova)

放射線の遺伝的影響をマウスで調べるときには、放射線照射から交配(排卵)までの時間を変えることにより精子形成(卵形成)の違った段階への影響を見ます。野村名誉教授の論文では以下の条件を採用していました。
成熟精子細胞:交配の1-7日前
精細胞:交配の15-21日前
精原細胞:交配の64-80日前
卵母細胞:排卵の1-14日前(雌マウスの場合は予測した排卵日から逆算して照射日を決めることになります)

nao @parasite2006

一番右のoocytes=卵母細胞とそのすぐ左のspermatogonia=精原細胞はDNA修復機能のある細胞で、2時間間隔の反復照射(白丸)では修復機能が働き発癌率が連続照射時より低下、ゼロ照射時の値5%周辺に。一番左は成熟精子細胞で修復が起こりにくく、反復照射も連続照射も同結果

2013-08-19 05:18:00

(↑図3では連続照射=黒丸実線と分割照射=白丸点線の差が大きいほど、DNA修復機能が強力に働いていることを意味します。左端の成熟精子細胞とその右隣の精細胞(=減数分裂が2回目まで終わって染色体数は半減しているがまだ運動性がない)の2つのグラフを比較すると、精細胞の場合はわずかなから連続照射と分割照射の発癌率に差がついているようにも見えますが、エラーバーが重なっているので事実上ほとんど差はないと言わざるを得ません)

nao @parasite2006

一方放影研による被爆二世への影響調査の対象となった被爆一世の方々の被爆線量の中央値は0.14 Gy http://t.co/JcPDb7Q2kt 野村名誉教授の実験http://t.co/4ELk7CJYmR で照射された最低線量0.36 Gyよりまだ低い。

2013-08-19 05:26:52
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nao @parasite2006

福島県民健康管理調査の基本調査最新結果http://t.co/F93t9dalFP によれば、2011年3月11日-7月11日の4カ月間の外部被ばく線量の推計値は1 mSv未満が66%、2 mSv未満が28.9%だから放影研の調査対象となった広島長崎の被爆一世の2桁下が94.9%

2013-08-19 05:39:32
nao @parasite2006

1 Gy=1 Svで換算してマウスの実験のグラフ http://t.co/4ELk7CJYmRと見比べてみてください。(この1982年の論文で実験に使われたマウスの系統はごく一般的な実験に使われるICR系で、とくに放射線に対して感受性の強いものではありません)

2013-08-19 05:46:53
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nao @parasite2006

また野村名誉教授の1982年の論文http://t.co/P1pJK88lL5 にはX線照射の影響が孫の世代まで及んだという実験結果が報告されていますが(肺癌を調べたのは発生頻度が最多だったため)、照射線量は最大量の5.04 Gyだけ http://t.co/DBR3y8jUz5

2013-08-19 05:57:55
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nao @parasite2006

照射線量を何通りか変えて、孫の代への影響が出始めるのはどのくらいの線量からか検討しておくべきでしょう(この論文はNatureに速報として掲載されていますので、ひょっとしたら実際には続報で実験しているのかもしれませんが)。

2013-08-19 06:06:43
nao @parasite2006

それにしても、野村大成名誉教授がこれほど量の議論がごそっと抜け落ちた話http://t.co/op9OsQ9AJT をして平気でいられる人だったとは驚き。(放射線の影響の話をするのに照射線量が全く出て来ないなんて)

2013-08-19 06:29:56

(追加解説ここまで)

Joss Fat @jossfat

野村大成教授(当時)の論文はセラフィールドの論争に引用されたりした。野村氏はNatureへの論文発表後、同誌に「Of mice and men ?(マウスとヒト)」という書簡を寄せており、マウスでの実験をそのままヒトに当てはめる事に対しては留保的姿勢だったよう。読んでみようかな。

2013-08-11 20:21:27
okamo41 JF1なんちゃら @okamo41

@jossfat どのぐらいの週齢まで追ったかでも結果は違ってくるかと、、分割照射の間隔でも大きく結果が違ってくるのは核医学やってれば簡単に予想がついたりします。

2013-08-11 20:16:12

(↑発癌の有無のチェックは生後8カ月、分割照射の時間間隔は2時間でした)

れもんた @montagekijyo

「調べた限り全ての生物で遺伝的影響が出ている」→「人間だけ影響が出ないなんてありえない」 http://t.co/kO5wln0bcK と結論づけているのですが、マウス以外の生物は何でしょうね?ショウジョウバエ? RT @jossfat: 野村大成教授(当時

2013-08-11 21:06:50
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Joss Fat @jossfat

@montagekijyo ショウジョウバエで奇形を見たのがそもそもの始まりですが、それ以外の種で継代的影響を観察したのはマウスしか見た事が無いです。サルを使ったものもあったと思いますがすぐ出てきません。すみません。

2013-08-11 22:12:22
nao @parasite2006

@jossfat @montagekijyo 横からすみません、野村教授のマウスの実験ですが、実験に使用したマウスの系統がどのような理由で選ばれているのか気になります。確か複数の系統が使用されていて、マウスは系統により放射線感受性に相当差があると小耳に挟んだことがあるのでなおさら

2013-08-11 23:15:59
津田和俊/急激に進行した網膜剥離と闘っています @kaztsuda

@parasite2006 @jossfat @montagekijyo すみません、具体的な論文まで辿り着いてないんですけど、この手の研究する時、そもそも発癌感受性の高い系統のマウスを選ぶような気がします。

2013-08-11 23:49:21
nao @parasite2006

@kaztsuda なるほど、実験をする時には影響を受けやすい生物材料を選べというのが約束事ではありますが、動物実験の対象選定にはこういう傾向があることを知った上で実験結果を読まないと判断を誤りますね。@jossfat @montagekijyo

2013-08-11 23:55:08
nao @parasite2006

@kaztsuda たとえば放射線防護の「線形閾値なし(LNT)」仮説の根拠となった実験は、雄のショウジョウバエの成熟精子細胞を使って行われたものでしたが、この細胞は普通の細胞と違ってDNA修復が起こりにくい非常に特殊な細胞です。@jossfat @montagekijyo

2013-08-12 00:03:40
nao @parasite2006

@kaztsuda DNA修復が起こりにくい細胞を選んで実験したからこそ、浴びた放射線の量に応じた影響が生じるのを修復による「妨害」を受けずに観察することができた。http://t.co/PFatURUNH2 @jossfat @montagekijyo

2013-08-12 00:11:12
まとめ LNT仮説はショウジョウバエを基にしてるから間違っているのか? タイトルどおりです。 僕の結論として、LNT仮説はショウジョウバエの結果のみを基にしているわけでもありませんし、ヒトを含む哺乳類でも「間接的に支持されている」ので、仮説としては妥当な仮説ですので『LNTはショウジョウバエの実験だから間違ってる』は的外れ。 『LNTはノーベル賞をとった研究を基にしているんだから正しい』というのも見かけたりしますが、それは論外です。 結構かぶった内容で、同時期に議論してた http://togetter.com/li/280796 もご参照。 結局、一つの論が何をどのような論拠で主張しているのかは、厳密に考えると結構ややこしいのです。それがあやふやなまま、解釈を間違えることがネット情報の共通の問題点なので、情報を読む力が各自に必要だと思いました。 http://amebl.. 12914 pv 132 7 users 4
もりちゃん(CV:毒蝮三太夫) @mollichane

マラー博士の実験ですね。@parasite2006 @montagekijyo @kaztsuda @jossfat たとえばLNT仮説の根拠となった実験は、雄のショウジョウバエの成熟精子細胞を使って行われたものでしたが、この細胞はDNA修復が起こりにくい非常に特殊な細胞です。

2013-08-12 00:09:38
もりちゃん(CV:毒蝮三太夫) @mollichane

@parasite2006 @montagekijyo @kaztsuda @jossfat DNAの損傷は正常な代謝活動だけでも一日辺り数十万回起こってます。それを修復するのがDNA修復機構。マラー博士がショウジョウバエを被験体に選んだのが間違いだったんです。特殊な生物だった。

2013-08-12 00:18:50