暗礁艦隊その５

CF型マシニーカhir @hir_CF

「ところでここはどこ？」 川内の問いに答えられる者はいない。 「とりあえず歩くしかねぇな」 こんな敵地、しかも地底で救助は期待できないから、動き続けるしかない。 「で、どっち？」 霞の疑問。 「この洞窟は水の流れでできたもんだ。なら下流に行けばいつか海に行ける」 #暗礁艦隊

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「潜水しないといけないかも？」 「そん時ゃ８、お前が助け呼んでこい」 「分かったわ」 方針が決まり、一同は傾斜の下がる方へ歩き出した。 「うー。ぬめぬめする…きゃっ！？」 川内がすっころんだ。 「これ以上明かりなしは無理だよ」 仲間の意見に天龍も考え込む。 #暗礁艦隊

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「どこまで続いてるんだろうね…」 探照灯が照らす道を黙々と下る。 ところどころ非常に狭い隙間を抜けることもあった。 「おい、龍田大丈夫か？」「うん、大丈夫～」 彼女の食いちぎられた腕の断面からは妖精さんが顔を出し、トンテンカンと応急処置している。 皆が疲労していた。 #暗礁艦隊

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「…くそっ！行き止まりか」 十数時間歩いた後。 もうこれ以上進めない、というところまで来て、彼女らは行き詰っていた。 ―と。 「待って。これ…」 川内が指を舐め、上にあげた。 「空気が流れてる…あっちだ」 一同の視線がその方向へ集中する。 「……これの向こうか？」 #暗礁艦隊

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視線の先には巨大な岩盤が横たわっている。 一人が手をかけ、二人、三人と続く。 「一気に行くぞ？さっきの浜風の時の要領だ！」 一同が位置につくと、天龍は 「おらぁ！」 艦むすの強大なパワーが岩盤に押し当てられる。 わずかずつ、地響きをさせながら岩が動いた。 #暗礁艦隊

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―星の灯 そこが外であることを認識し、一同は歓喜に包まれた。次々と喜びの声が上がる。 「よっしゃあ！出たぜ！」 「うふふ、これで一息つけるわねぇ」 磯の香り。眼前に広がるのは海。背後を見れば岩の壁。 予想通り海に繋がってのだ。 「とりあえず帰るぜ――」 #暗礁艦隊

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キラッ 「ん？何か光っ――」 天龍の体が爆裂した。 「散って！」 咄嗟に水面へ飛び降りると、一同は散開。 「ひゃっはー！夜戦だー！」 ただ一人川内だけはテンションが高い。 「待ち伏せ？どこから来てるの！？」 幸い全員が電探を持っている。闇は敵ではない。味方だ。 #暗礁艦隊

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暗礁艦隊は疲弊の極みにあった。 攻撃側である深海棲艦からもそれは明らかであった。昼間の地上砲撃などさほどの損害ではない。故に戦艦を含む戦力による夜襲で、徹底的にとどめを刺す意図で、強力な艦隊が組織されていた。 ちょうど出撃した彼女らと、天龍達が鉢合わせたのは偶然だ。 #暗礁艦隊

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「どうしますか！？」 怒鳴る浜風。魚雷は残念ながら今回持って来ていない。 「決まってるでしょ？こうすんのよ！」 魚雷どころか砲すら積んでいない霞は突貫する。 と。 直撃。爆発。 霞は哀れ轟沈か。そう思った直後。 「効かないわよ！」 両腕の鉄塊は、砲弾に耐えきった。 #暗礁艦隊

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敵までおおよそ５００ｍ。海戦では至近距離だ。駆逐艦の最大速力でなら、ほぼひとまたぎといったところか。 「おらぁ！」 激突。 リ級フラグシップの胴体中央に、霞の拳がめり込んだ。そのまま上下に泣き別れる。 轟沈。 #暗礁艦隊

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夜戦はこういう大番狂わせが起こるから面白い。 川内の信念だ。 「ひゃっほぅっ！川内見参！」 夜風が気持ちよい。体が思いのままに動く。集中力が高まる。砲弾が見える。 まるでバレエを躍るかのように海面を滑る川内。 迫る１６インチ砲弾をイナバウアーで回避。14㎝砲装填。斉射 #暗礁艦隊

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こちらはル級フラグシップ。 １発。２発。５発まで命中。小揺るぎもしない。それでいい。砲の妖精さんに再装填を命じる。14㎝は1分に10発も撃てるのがいい。さらに斉射。 ル級頭部に命中弾。目のレンズが砕ける。顔面にヒビ。深海棲艦は本当に見せかけだけ人間。艦むすとは違う。 #暗礁艦隊

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徹甲弾は効果が薄い。焼夷弾に切り替え。連射。さらに連射。 相手の再装填はまだ。接近しつつ斉射。波が静かだ。心が落ち着く。 ル級の砲塔に炎。頭部、胴体、脚部。全身が燃え上がる。まるで松明。目立つ。 効果はない。ない？いや、十分だ。炎で奴は夜目を失い、電探も熱にやられる。 #暗礁艦隊

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ル級が砲を16インチを動かす。再装填が済んだか。のけぞる。同時に発砲。砲弾が川内を掠める。損害なし。もう間に合わない。副砲に切り替えた。撃つ。撃ってくる。命中。川内の腹部にポッコリと穴が開く。覗けば向うが見えるだろう。見ないけど。もう距離がない。０だ。ル級の髪を掴む。 #暗礁艦隊

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「シャーッ！」 ル級の髪は長い。美しい。目茶目茶に切り裂いてやりたい。蹂躙してやりたい。時間はない。匂いを嗅ぐ。手櫛で梳く。精一杯楽しむ。急いで殺す。 慣性のまま背後に回る。衝撃。掴んだ髪に引っ張られる。のけぞるル級。踵に向けて斉射。外しっこない。スクリュー破壊。 #暗礁艦隊

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もう立てない。ル級は動けない。深海棲艦が海の上で動けない！笑いがこみあげる。笑ってる場合ではない。撃つ。文字通りの距離零。撃つ。撃つ。撃ちまくる。ALL or nothing 非装甲部分。この距離なら狙える。撃つ。貫通。爆発。少しずつ少しずつ。威力より手数だ。 #暗礁艦隊

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滅多撃ち。ル級はゆっくりと死ぬ。滅びる。くたばれ！ 川内は即応弾―砲塔内にあらかじめ準備された砲弾―を撃ち尽くして、ようやく正気に返った。ル級は動かない。とっくの昔に死んでいる。 またやった。やりすぎた。楽しすぎるんだからしょうがないよね。 仲間たちの方へ目をやる。 #暗礁艦隊

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８は天龍の残骸を抱いて潜水中。龍田は魚雷で半壊しながらも雷巡2隻を潰した。浜風は右胸に大穴があいているが駆逐艦を撃破。敵は残り1隻。 ―戦艦棲姫。 あんな大物まで？ 霞が接近を試みていたが既に両腕の武装を失い戦闘力を喪失。離脱する機動だ。 奴も負わない。目が合った。 #暗礁艦隊

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いいの？やっちゃっていいの？あんな大物一人で殺っていいの？独り占めだよ？誰にもあげないよ？やだ、濡れてきた。最高！ 艦娘には性欲はないが、代わりに戦闘で快楽を感じる。ひょっとしたら性的快感とはこんな風なのかも？ だとすると川内は艦娘版色情狂なのかもしれない。 #暗礁艦隊

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「ヒャッハー！夜戦さいっこぉぉっ！」 頭の中がプッツンする。真っ白。何も見えない。何も聞こえない。分かる。そんなものなくたって。感じ取れる。読める。空気の分子１つ１つの動きまで見通せる。最高の気分。奴の主砲が来る。撃った。外れる。大丈夫だ。着弾。ほら外れた。次が来る。 #暗礁艦隊

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水柱。姿が隠れる。奴が見えない。奴からも見えない。すぐ消える。見えた。再び目があう。照射。探照灯だ。奴の目に入る。のけぞる。目が潰れた。本当に？引っかかったと信じてるフリ。接近する。撃ちまくる。照射停止。再度奴の斉射。正確。右足が消える。大丈夫。まだ1本ある。 #暗礁艦隊

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頭がふっ飛んだ。次は左腕。それで終わった。体ごとぶつかる。凄い。パワーでも勝てない。そのまま抱きつぶされる。胸殻が砕ける。機関が止まる―これが狙い。 ボイラーが爆発。残った弾薬に引火。爆発。爆発。さらに爆― ブチッ #暗礁艦隊

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「ああ―川内……」 あまりにも壮絶な川内と戦艦棲姫の最期。生き残った浜風はただ茫然としているだけだ。 他の仲間たちも集まってくる。 「これ……浮いてたわぁ」 龍田が差し出したのは川内の右足。これで復元できるだろうか？いや、やるしかない。皆、重傷だが、生きて帰るのだ #暗礁艦隊

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その頃の仮設鎮守府は大騒ぎになっていた。 海上では戦闘音が響き渡ったかと思うと十分ほどで沈黙。 かなり派手な戦いがあったと思われるが送り込める兵力が足りない。 市街地に警告を出すと、水際に残っている艦むすを配置した。 果たして―― #暗礁艦隊

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やがてやってきたのは―送り出した偵察艦隊。 張りつめた緊張が一気に緩和される。 「無事だったか」 無事とは言い難い姿の一同を、提督は出迎えた。 「はい。大変な目にあいましたが―天龍と川内を急いで修復してやってください」 「分かった。時雨」「うん」 #暗礁艦隊