モーリー・ロバートソンさんによる音楽家とその選択のお話

音楽方面の表現者に感じている個人的な疑問に対して、とても参考になるお話だったのでまとめました。
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モーリー・ロバートソン @gjmorley

「音楽家である以上、反体制な思想を持つのは当然だよな?」という同調圧力に屈したり沈黙してしまったら、それはもはや音楽家の抜け殻。あくまで裸の自分で考えるのが音楽。 Morley Robertson Show #blockfm block.fm/program/Morley…

2014-07-06 18:11:25
モーリー・ロバートソン @gjmorley

夕方にツィートした「反体制への同調圧力に屈したら、音楽家は終わり」にもう少しニュアンスを補足します。「音楽至上主義」ということよりも、音楽表現に伴う内なる葛藤が政治的な正しさや倫理的な正義へと集約されると、出口のない迷宮がそこにはあり、さらに依存性が高くなるという考えです。

2014-07-07 00:01:33
モーリー・ロバートソン @gjmorley

音楽家が同調というよりも、自身の深いところで目覚めがあって政治的な流れ、時代の流れにコミットし、熱狂すると才能が発揮されるのは歴史の常です。ワーグナーの場合はそれがドイツ民族優位主義を伴うものでした。ジミヘンの音楽はベトナム戦争の背景がなければ成り立たない、文脈の中の爆発でした。

2014-07-07 00:06:21
モーリー・ロバートソン @gjmorley

電子音楽の「父」の座を占めるカールハインツ・シュトックハウゼンも逸脱した言動で生涯を駆け抜け、自身を神とする宗教も始めていたような話を聞いたことが有ります。晩年には9.11同時テロが「悪魔の芸術」だと発言し、世間の顰蹙を買うも最後まで自分を中心にした壮大な宇宙観を貫きました。

2014-07-07 00:08:32
モーリー・ロバートソン @gjmorley

つまり、音楽家が自分自身の内面から否応なく析出したチョイス(選択)として特定のイデオロギー、政治運動、宗教観、エコロジーにコミットするのは、外からの批評を越えた次元にあると思います。いずれにせよ、その音楽家自身が最終的にはすべてのツケを自分で払うことになりますから。

2014-07-07 00:10:03
モーリー・ロバートソン @gjmorley

そこに問題は感じておりません。おそらく「放射能がやってくるのに、子供のことをなんとも思わないのか」「戦争がやってくるのに、子供のことを…」といった「一般市民」目線のプレッシャーや罪悪感を感じ、「いい人」でいようとして音楽のテーマを「正義」へとチューニングし直す行為に対する危機感。

2014-07-07 00:11:59
モーリー・ロバートソン @gjmorley

「不法外国人は出て行けロック」や「シングルマザーへの社会保障の充実を訴えるポップス」も、あっていい。それが現実社会の中でどのような化学反応をもたらし、結果が発信者の身にどう跳ね返るかは未知数。ぼくの感覚的な言い方をするなら、それを個人が引き受けるのなら、どんどん冒険すべきだ。

2014-07-07 00:14:49
モーリー・ロバートソン @gjmorley

左・右のマニフェストを理路整然と掲げる音楽家たちが増えています。「どう考えても集団的自衛権の件はおかしいだろう」「どう考えても日本人がばかにされているだろう」共にそれぞれ一貫性があり、論旨を辿って行くとどちらもすっきりしている。逆説的に言うと、そのすっきりが音楽にとってはリスク。

2014-07-07 00:19:36
モーリー・ロバートソン @gjmorley

ところが今「辺野古への移転反対ソング」や「日本人でよかったソング」を打ち出すのは、必ずやその楽曲を礼賛する党派の支持層がいて、予定調和的に褒められる。敵対する陣営からは無視されるか攻撃される。こういう中に音楽家が飛び込むのは果たして最善の選択だろうか?という自問があってほしい。

2014-07-07 00:17:22
モーリー・ロバートソン @gjmorley

詳細な解説・考察は後日に回したいのですが、20世紀の前衛音楽の巨人の一人にコーネリアス・カーデューという英国人がいました。当初はジョン・ケージなどの提唱したチャンス音楽を天才的に実現。ある時点で極左政党に入党、活動内容が一転する。 theguardian.com/music/tomservi…

2014-07-07 00:23:07
モーリー・ロバートソン @gjmorley

カーデューが所属した政治組織は「Revolutionary Communist Party of Britain (Marxist-Leninist)=英国革命的共産党・マルクス・レーニン派」でした。カーデューはかつての自身の全作品を否定、労働者が決起するための作曲家を志向。

2014-07-07 00:25:30
モーリー・ロバートソン @gjmorley

共産主義に転向した後はブルジョアな現代音楽を全否定。かつて自分自身がシュトックハウゼンのアシスタントであったことも攻撃的な自己批判の対象となり「シュトックハウゼンは帝国主義の御用音楽家だ」という「作品」を展開。シュトックハウゼンのツアー先でピケを張って野次る場面も。

2014-07-07 00:29:58
モーリー・ロバートソン @gjmorley

その後1981年に不審な交通事故で死亡、英国政府による暗殺説もあります。そして没後、長い時間を経て息子たちが生前のカーデューに関して証言した回想記事が出ました。それによるとカーデューは最後まで「労働者の気持ち」を理解しようとしながら、一回も接点を確保できていなかった。

2014-07-07 00:32:03
モーリー・ロバートソン @gjmorley

記事ソースに関して記憶をたどっているので、後日URLを探します。極左団体のデモは当時の英国で盛り上がらず、息子たちにパンク・ロックのバンドをやらせ、動くトラックの後ろにアンプやドラムセットを立てて演奏させていたそうです。トラックが曲がる度に振り落とされそうになる危険な作業。

2014-07-07 00:33:37
モーリー・ロバートソン @gjmorley

骨の髄までクラシック仕込みだったカーデューはロックやポップスのシンコペーションがまったく身につかず、それなのに顔を歪めて一生懸命わかろうとして痛々しかった、との証言も。労働者の解放という大きな目的、壮大なものがたりを優先させた。そしてかなり不器用な状態へと自身を追い詰めた。

2014-07-07 00:35:43
モーリー・ロバートソン @gjmorley

カーデューが作曲したと思われる「英国労働者階級のための歌」を聴いてみてください> Cornelius Cardew - Song for the British Working Class: youtu.be/UXEDZy4Z8os

2014-07-07 00:37:20
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モーリー・ロバートソン @gjmorley

こちらも> Cornelius Cardew: Thälmann Variations (1/2): youtu.be/qcRQQ2i89Q8

2014-07-07 00:40:15
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モーリー・ロバートソン @gjmorley

そしてこれが極左政治に転向する前のカーデューの作品。1961年から> Cornelius Cardew ~ Octet '61: youtu.be/N0dYZWAzTZI

2014-07-07 00:43:15
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モーリー・ロバートソン @gjmorley

転向後、カーデューはかつて恩恵を被った相手をも傷つけるような「自己批判パフォーマンス」を行い、思想的な純粋さを優先。音楽は「大衆の心に響くこと」を再優先させた結果、いわばキメラの姿へと固着していった。ぼくが音楽家に訴えたいのは、ここまでです。どちらかを選んで下さい。

2014-07-07 00:45:23
モーリー・ロバートソン @gjmorley

昨夜へのさらなる補足です。音楽家に対して「シュトックハウゼンになるか、コーネリアス・カーデューになるかのどちらかを選べ」と言っているのではありません。当たり前ですが。短絡した正義など、熱狂できる動機をその都度注入する表現活動を続けるのか、それとも補助輪なしでやっていくのか。

2014-07-07 08:19:59
モーリー・ロバートソン @gjmorley

これを内面で選択する時がやってくるだろうという勧告です。また「ポリティカルなコミットをした音楽家なのかノン・ポリなのかをきちんと表明しろ」と迫っているのでもありません。なんだろう?聖域を取っておいてほしいのかな?これは各自で見つけるべき平野だと思うのであとはお任せします。

2014-07-07 08:23:06

ニューヨーカーのブライアン・イーノの記事にタイムリーなカーデューの名前が。

カーデューの活動と主張、当時の世界情勢がもたらした表現者たちへの影響などの考察。

モーリー・ロバートソン @gjmorley

あーあ、コーネリアス・カーデューから逃げられなくなった。アンビエント音楽の創始者ブライアン・イーノは1969年ロンドンに移住、カーデューが主催するハプニング集団「Scratch Orchestra」に参加していたそうです。 newyorker.com/arts/critics/a…

2014-07-07 22:25:07
モーリー・ロバートソン @gjmorley

翌1970年、イーノは「ロキシー・ミュージック」創設にかかわる。これはまだコーネリアス・カーデューが極左活動に転向する前の時期みたいです。その後イーノはNo New Yorkをプロデュース、デビット・ボウイ、トーキング・ヘッズ、U2など数々の大作を世に出す。

2014-07-07 22:30:22
モーリー・ロバートソン @gjmorley

カーデューの詳しいキャリアを追いかけたのは今回が初めてなのですが、1970年代初頭に主催していた「スクラッチ・オーケストラ」は非音楽家や素人をパフォーマンスの前面に立たせるという一種のアナーキスト・ユートピアンな試みだったようです。同時期には前衛集団FLUXUSも活発でした。

2014-07-07 22:41:48