【邪悪の樹】決闘フェイズ――王の樹

『智の剣』陣営 『色欲』(@VIXI_atom) 『醜悪』(@kaituls) 『理の盃』陣営 続きを読む
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【物質主義】(キムラヌート) @Evil_Quim

カツカツと硬いものがぶつかる音を立てる壁の向こう、温度を落とした声に笑みを含んだ言葉を返す。 「じゃあ僕と一緒ならみんなで死んでくれるのかい?  僕だってひとりは嫌だよ。ましてやこんな茶番劇で」 その声音からも言葉からも好意は読み取れないだろう。

2014-08-31 22:20:19
【物質主義】(キムラヌート) @Evil_Quim

「……ここで僕らが遭わされたんだ、あの世とやらがあるなら『愚鈍』か『貪欲』のどちらかはいるだろうけど、さ」 よく聞けば、彼の憤りが向いた先は『智の剣』でなくこの場に存在しない何かだと気が付くかもしれない。

2014-08-31 22:20:32
【物質主義】(キムラヌート) @Evil_Quim

銀の壁から手を離し、地面に屈みこんでナイフを拾う。水面を流れていたそれを軽く振るい、返そうとでもしたように上へ放る。座ったままの姿勢で届くはずもなく、幾本かは落ちる花に当たり、幾本かは壁を越えて飛んでいった。視界を花に遮られ、壁の一部の膨らみには気づかない。

2014-08-31 22:20:46
【物質主義】(キムラヌート) @Evil_Quim

『禍罪』の供給を断たれた銀に穴が開く。その穴から飛び込んだ鳥の嘴は『物質主義』の右腕と壁に近かった足を貫いた。 「ッ、ア」 衝撃。灼熱感。穴の開いた白衣がじわりと赤く染まる。視認した瞬間、爆発するように広がる苦痛。

2014-08-31 22:36:00
【物質主義】(キムラヌート) @Evil_Quim

『物質主義』の手の届かない距離、赤く濡れたぬいぐるみは残らず潰れ鈍色に光る。 「ア、ツ、あ、ゃ、だ、」 吸気にぶつかり断続的な悲鳴に耳を塞がずいればその質が変わるのに気が付くだろう。 へたり込んだ『物質主義』に目をやれば、白衣に広がった赤が抜けていくのが見えるだろう。

2014-08-31 22:41:47
【物質主義】(キムラヌート) @Evil_Quim

あふれる血液が白衣の下の衣服を融かし足元の液体と混ざり合う。 赤みを帯びた銀色が草木を呑みこんでずぶずぶと広がる。 信仰は身の内にあれば支えとなるが、垂れ流せば毒でしかない。 かたかたと震え蹲る『物質主義』は、痛みではなく暴れる『禍罪』が漏れ出す感触に喘いでいる。

2014-08-31 22:47:37
『醜悪』カイツール @kaituls

壁の向こうから赤みを帯びた銀が広がって来ているのが見えた。それと共に聞こえる断続的な悲鳴。 双頭に預けていた頭を上げ、駆け寄りそうになる体を双頭が抑えつけた。唇を噛む。目を瞑る。分かっている。彼の傍に行けば、死に近づく。 「……ぼくは、」 どうしたらいい。閉ざしていた紫紺を開く。

2014-09-01 19:38:35
『醜悪』カイツール @kaituls

いっそ、殺意を剥き出しにしてくれたらよかった。敵意を露わにしてくれたらよかった。そしたら、何も抱かずに殺せた? 浮かんだ思考に首を振る。無理だ。結局、ぼくは変わらない。 「……一緒に死んであげたいけど、ぼくは生きたいんだ」 体を抑える双頭の腕を押し退け、地面に下りる。体を揺らし。

2014-09-01 19:38:51
『醜悪』カイツール @kaituls

白銀の向こう——『物質主義』に向かって歩き出した。後ろから双頭が付いていく。壁を回り込んで見えたのは、白衣の背中だった。赤に染まっていても、それを見間違うことはない。 広がり続ける赤を帯びた銀から、充分に距離を取って。 「……一緒に死んであげられない、だからせめて、君はぼくが、」

2014-09-01 19:39:18
『醜悪』カイツール @kaituls

マントからぬいぐるみを千切る。天使のような羽が縫い付けられた、うさぎのぬいぐるみ。その手には骨の鏃を持った弓矢。 「——らくに、してあげる」 頭の中で『同じ言葉』が反響する。痛い。それでも双眸は揺らぐことなく、白衣を見つめていた。 うさぎがぱたぱたと羽ばたき、浮き上がって、動く。

2014-09-01 19:39:59
『醜悪』カイツール @kaituls

ある程度の高さを保って、『物質主義』に近づき、宙に浮いて止まる。 うさぎは弓を引く。きりきりきり、と微かな音を鳴らしながら、強く長く引き絞る。『物質主義』の首を狙い、更に引き絞られ、放たれる。真っ直ぐに狙ったものを貫かんと矢は翔ける。 紫紺の双眸が、白衣から逸らされることはない。

2014-09-01 19:53:48
【醜悪(ヘスリヒ)】 @Akagachi_atom

「…甘ったれるなよ、人は死ぬとき等しく皆独りさ」 ゆらゆら、ぶらぶら。 金属の沼にしゃがみ込んだ相手の姿を確認して、至極つまらなさそうに『色欲』は呟く。 相変わらず色が曖昧な己の視界だが、何かしらの液体が彼の身体から溢れ出した所を見ると、『醜悪』の攻撃はちゃんと通ったのだろう。

2014-09-01 20:24:03
【醜悪(ヘスリヒ)】 @Akagachi_atom

苦しそうに喘ぐ彼の姿に密かに眉を顰め、『醜悪』が新たに放ったぬいぐるみに視線を移す。 優しい彼の事だから、きっと今この瞬間も、何か、思う所はあるのだろう。 悲しみか、迷いか、それとも別の何かか。 きっとそれは己には想像もつかない様な、己がこの瞬間には持ちえない様な感情に違いない。

2014-09-01 20:25:47
【醜悪(ヘスリヒ)】 @Akagachi_atom

小さく息をついて、ぐるりと体をブランコの上へと滑り込ませる。 頬杖をつく様にして、見下ろした下の景色はやはり彼には色あせて見えた。 ……つきり、と小さく胸が痛んだような気がしたが、それもやはり気の所為なのだろう。

2014-09-01 20:26:18
【物質主義】(キムラヌート) @Evil_Quim

外界から逃げるように小さく縮こまる『物質主義』に2人の表情は見えていない。 それでも。彼らの声は聞こえただろうか。弓を引く天使の羽音は聞こえただろうか。 強張りが解けた次の瞬間放たれた矢が肌を貫く。流れ出る赤が全身を染め、地と混じり色を変え、彼を巻き込んで平かになった。

2014-09-03 15:04:24
【物質主義】(キムラヌート) @Evil_Quim

『物質主義』を呑み込んだ液体はなおも広がり続けていたが、その色から赤が薄れるにつれて勢いを弱めていった。まもなく混じり気のない銀色を取り戻せば、もう他を食らうことはないだろう。そのどこかにこどもの死体が落ちているのか、跡形もなく消えたのかを確かめる術はない。

2014-09-03 15:10:11
『醜悪』カイツール @kaituls

矢が、『物質主義』を貫く所をずっと見ていた。目を逸らすことも、耳を塞ぐことも、出来なかった。 彼の体が地に伏せる。それに駆け寄ろうとして、双頭の腕が体を抱き上げ、慌てた様に『醜悪』を遠ざける。先程まで彼がいた所が、『物質主義』を呑み込んだ銀に染まった。 紫紺は、ただ銀を見つめて。

2014-09-03 15:36:21
『醜悪』カイツール @kaituls

涙は出なかった。ただ、ひたすらに頭が重い。体が重い。タールを呑み込んだように、心臓が重くて、痛くて。息をするのがつらい。 死体さえ、あれば。それに傷が残っていれば。縫って、ぬいぐるみにして一緒にいれた、のに。彼のそれは、どこにも、なかった。ないものを、縫うことは出来ない。

2014-09-03 15:37:02
『醜悪』カイツール @kaituls

抱き上げられたまま、暫く銀を見つめて。『醜悪』は双頭に頭を預けた。 ゆっくりと視線を上に、——『色欲』に向けて。 「……行こう」 それだけを、呟いた。 扉は何処にあるだろうか。何処でもいい。勝敗は決し、ぼくが『物質主義』を殺した。ならば、出向かずとも、現れるだろう。そう思考して。

2014-09-03 15:37:20
『醜悪』カイツール @kaituls

『らくにしてあげる』 頭の中で声が響く。それは『醜悪』が『物質主義』に言った言葉。それは『誰か』が『ぼく』に言った言葉。痛い。頭が痛い。 ——行こう。 目を瞑り、双頭に囁く。立ち止まることは許さない。生きると決めたのだから。 双頭は彼の意思に沿って、ただ扉を目指し、歩き出した。

2014-09-03 15:44:42
【醜悪(ヘスリヒ)】 @Akagachi_atom

「……君は優しいね。わからないや、僕には」 こちらを見上げ言葉を投げかけた『醜悪』に、『色欲』が返したのはそれだけだった。 何かが、何かと混ざり合い、溶け、消えていく。 確かに人の形をしていたはずの彼の姿が薄れていくのを、その最後の最後まで、『色欲』はただ静かに傍観していた。

2014-09-03 16:28:28
【醜悪(ヘスリヒ)】 @Akagachi_atom

紫紺の彼の様に、特に何かを思う事もない。脳裏に浮かんだのは「呆気ない」という酷く無機質な感想だけで、気味の悪い薄ら笑いも結局は最後まで張り付いたままだ。 そんな自分に、彼の心の内を理解することなど出来るわけもない。 「まぁ待っててよ、死ぬ時は独りでも、死んだらずっと一緒だから」

2014-09-03 16:30:11
【醜悪(ヘスリヒ)】 @Akagachi_atom

今は亡き彼にへむけて呟いたそれは、きっともう届いていないだろう。小さく溜息をついて、下へと降りる。 …間近でみても、やはり『物質主義』の姿は跡形もなかった 「いこ。きっともうすぐ、外に出れる」 『醜悪』に笑いかける。 その笑顔が彼にしては少し下手くそだった事は、気がつかないまま。

2014-09-03 16:35:52
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