ウタウスレイヤー「ヴィデオ・キル・ザ・レディオスター」 #utslyr
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「……ハイ、ということでそろそろ今日のゲストをご紹介したいと思います。皆さんもご存知で、そしてお待ちかねでしょう、どうぞ!」ネオデーテームに流れるラジオ「強く揺らす」だ。ヨタモノに人気のあるこの番組が、今日も電波を走る。 1
2014-10-28 21:28:19「ウェーイ!どーだ皆張り切って酸性雨浴びてるぅ?今日はこのヒビキ・シンジ様がこの街の電波を俺色に染め上げるぜぇ?振り落とされねぇようにマッポビークルのボンネットにしーっかりしがみ付いておけよぉ?」 2
2014-10-28 21:30:10ハイテンションでまくし立てるその声を小型ラジオで聴きながら排気ダクトの中を腹這いで進むのは、蒼黒のニンジャ装束に「歌」「殺」の鋼鉄メンポを身に纏った女性。賢明な読者諸君は既にご存知であろう、ウタウスレイヤーである。 3
2014-10-28 21:32:12腹這いの匍匐前進とは思えないほどの速度で、音も立てずに彼女は進む。時折立ち止まり通風孔からオフィスを覗き込む。そしてまたすぐに動き出す。「シンジさんのマイブームはなんですか?」「ブームぅ?そんなもの、俺様自身がブームに決まってるだろう!」 4
2014-10-28 21:34:29ウタウスレイヤーは小型端末の電源をオフにする。「フゥー……」静かになったラジオを懐に仕舞うと目を閉じ、三ヶ月前の事を思い出していた。 5
2014-10-28 21:36:17ナゴネ・マコは仕事の同僚であり恋人でもあるアマネ・ルナと共にイケブクロ・スゴイカガヤクタワーに来ていた。ここでクリスマスにデートをするのは二人にとって毎年の行事であり、今年もそれに来ていたのだ。 7
2014-10-28 21:38:15「また今年も来れてよかったね」そう笑いかけるルナ。普段オフィスではスーツに身を包む二人も、今日は気軽な私服だ。ルナはガーリーなワンピース、マコはマニッシュなパンツである。「予約取るの、大変だったのよ」 8
2014-10-28 21:40:47「DIY」「揚げた美味しさが」「油」などの極太オスモウ・フォントで縦書きされたノボリが広い店内にイナセに踊る。セルフテンプラ・レストラン「ダイコクチョ」二号店、ここは二人にとって思い入れの深い店であった。クリスマス装飾の電子ボンボリが年の瀬感を演出する。 9
2014-10-28 21:42:09「去年のクリスマス・イブもこんな感じだったね」テーブルに据え付けられたカーボン土鍋に火をつけながら、ルナが笑う。「今年も来れた、来年もまた同じだといいわね」マコも微笑み返す。 10
2014-10-28 21:44:33ネオデーテームには闇が多い。それは厳然たる事実だ。しかし、路地裏の闇に飲み込まれず、アカウシやカイブツの罠に嵌らなければ……小さくとも幸せは確かに手に入るものなのだ。願わくばこんな日々が続きますように……沸き始めた油を眺めながら、マコはそう思う。 11
2014-10-28 21:46:13「ドーモ!活きの良いのが入ってますよ」と、フェイク・イタマエが声をかけて去ってゆく。「ネタはあっちにあります、セルフでどうぞ!」「ドーモ」と2人はオジギする。「何から食べるかは……ルナ、任せた」「任された!」 12
2014-10-28 21:48:28店内には他にも家族連れやカップルも多くいる。「ニンジャだぞー!ニンジャだぞー!」「やれやれ、トチノキはニンジャが大好きだな」漏れ聞こえてくる声。今だけは誰もが、その小さな幸せを噛み締めているのだ。その声の向こうで、ルナがこれから揚げるべきネタを選んでいた。 13
2014-10-28 21:50:09KA-DOOOOOOOM……!突如巻き起こる暴力的な爆発。マコの胸に突き刺さるノボリの棒。遠くから聞こえる誰かの声。瓦礫と化したセルフテンプラ・レストラン。その瓦礫の向こうに見える、どこかで見たはずの、しかし赤く染まったワンピース…… 15
2014-10-28 21:54:45マコは……ウタウスレイヤーは頭を振ってヘイキンテキを取り戻した。今は過去に浸っている場合ではない。また次の部屋の通風孔を確認する。 20
2014-10-28 21:58:35通風孔の覆いを蹴り破ると、ウタウスレイヤーは空中で一回転して部屋の中にエントリーした。部屋には多数の配電盤、そしてUNIXサーバー。サーバーの過熱を防ぐため、強力クーラーがゴウゴウと音を立てている。 21
2014-10-28 22:00:07