スパイスを探しに#1

冒険者の二人がスパイスを取りにあるダンジョンを訪れたときの話です。そこには不思議な老人がいて…… #2はこちら http://togetter.com/li/801267 #3はこちら http://togetter.com/li/807614 #4はこちら http://togetter.com/li/809985 続きを読む
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二人はさらに坑道の奥へと侵入した。坑道は山のふもとに開けられた長い横穴の構造になっている。一定の間隔で十字に脇道が伸びており、その向こうもやはり草原だった。工場のシステムが生きているのは、中央の道を真っ直ぐ行った奥らしい。迷うこともなく、二人は奥へと行けるはずだった。 22

2015-03-21 21:42:15
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しかし、二人の前に待ちかまえていたのはスパイスでも、化け物でもなく……一人の門番であった。 23

2015-03-21 21:48:42
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ミェルヒとエンジェは坑道をしばらく進んだ先で、一人の老人を見かけた。彼はボロボロの作業服を着ていて、一本の鉄パイプを杖代わりに持っている。白髪はほとんどが抜け落ちていた。じろりと二人を見上げて、ゆっくりと立ち上がる。「通行料を払ってもらおうか」 そう言ってきたのだ。 24

2015-03-22 20:08:13
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「通行料?」 エンジェとミェルヒは顔を見合わせた。二人ともそんな話は聞いたことないと言った感じだ。「いくらなんです?」 「5シリング払ってもらおう」 5シリングと言えば、1週間の食費になるくらいの額である。払えないことは無いが、理由もなく払える額ではない。 25

2015-03-22 20:10:31
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二人は再び顔を見合わせて、肩をすくめた。「おじいさん、僕らは村役場からの要請で来てるんです。仕事の邪魔をしないでくれませんか。それに、この工場はとても危険なんですよ? おじいさん、余生を無駄にしないうちに村に戻って句会にでも参加しては?」 ミェルヒは説得する。 26

2015-03-22 20:13:58
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ミェルヒが通せんぼしている老人を退かそうと近寄った時である。草むらが風でなびき、緑の葉が宙を舞う。気付いたときには、ミェルヒは草むらに沈んでいた。何が起こったのかさえ分からない。ただ、この老人に倒されたことは分かった。「強い……」 ミェルヒは痛みを感じながら呻いた。 27

2015-03-22 20:15:53
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エンジェが驚いてミェルヒの傍へかけよる。「大丈夫!? ミェルヒ……」 「ああ。柔術か何かか……信じられないほど速かった」 ミェルヒはバシネットのフェイスカバーを開いて鎧を点検した。どこもへこんでいない。傷も付いていない。老人を見る。彼は片手に鉄パイプを持ったままだ。 28

2015-03-22 20:18:21
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「片手でやられるとは……ご老人、かなりの腕のようですね」 ミェルヒは感嘆していった。老人は得意顔で仁王立ちしている。「分かったかい。ワシは強い。お前さんよりな。心配は無用だ。さ、通行料を払わないなら、帰ってもらおうか。若いの」 ミェルヒは悔しそうにする。 29

2015-03-22 20:22:14
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しかし、タダでは帰れない。ミェルヒ達には任務があるのだ。スパイス工場で行方不明になった者たちを探さなければならない。「ご老人、この工場で最近ひとが行方不明になっているのです。何か知っていませんか? 僕らは、行方不明者を探しに来たのです」 しかし老人は道を譲らない。 30

2015-03-22 20:25:25
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「知らんな。大方、ワシに通行料を払いたくなくて、魔法かなんかで侵入したんじゃろ。自業自得じゃ。ワシの助けなしに、あの地獄を生きて帰れるかい」 「地獄? それはどういう……」 「通行料」 通行料を払わねば、解ける謎も解けないらしい。ミェルヒはやれやれと財布を開いた。 31

2015-03-22 20:27:25
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エンジェはそんなミェルヒを小突いて笑う。「大丈夫よ。後で役場に経費ってことで請求すればいいのよ。払わなくちゃ、どうしようもないんだから」 5シリングを受け取った老人は、満足げな顔でそれを財布にしまった。「付いてくるがいい。決して離れてはならんぞ。地獄だからな」 32

2015-03-22 20:31:47
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しばらく3人は草原になった坑道を進んだ。果たしてその先は……やはり、老人の言っていた地獄だったのだ。 33

2015-03-22 20:34:37
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――スパイスを探しに#1 (了) #2へつづく

2015-03-22 20:34:51