【心中天の網島】木ノ下裕一の補綴日誌まとめ

木ノ下歌舞伎主宰・木ノ下裕一による『心中天の網島』の補綴日誌まとめ。 ーーーーー 木ノ下歌舞伎『心中天の網島』 2016年9月16日(水)〜20日(日)アトリエ劇研 2016年9月24日(木)〜10月7日(水)こまばアゴラ劇場 続きを読む
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木ノ下裕一 @KINOSHITAyuichi

【補綴日誌80】ですから、別段、日誌にするようなことは無いのであります。「さしたることなし。黙々と作業す。」の一行で終わっちゃう。でも、それじゃあ読み物になりませんので、何かひねり出します。あ、そうそう、この機会に、この日誌にもたびたび登場する稲垣助手の紹介でもしましょうかね。

2015-07-29 01:05:02
木ノ下裕一 @KINOSHITAyuichi

【補綴日誌79】補綴も終盤になりますと、黙々と作業、また作業…ですので、お互い、時々、ちょっとした相談や確認のために言葉を交わす程度になってきます。ですから地味。話すべきこと、相談すべきことは「補綴ノート(設計図)」を作成(【補綴日誌27】参照)する段階で大方済ましてますからね。

2015-07-29 01:01:41
木ノ下裕一 @KINOSHITAyuichi

【補綴日誌78】7/13(月)。5日ぶりの補綴会議。と云うのもその間、稲垣助手は自分の劇団の本番に、木ノ下は論文に、それぞれ専念していたのでした。この日は二人のスケジュールの関係で、東京の新宿で補綴会議。お互い観たい芝居もあろうに、昼日中から喫茶店に籠もるなんぞ因果なことですな。

2015-07-29 00:51:06
木ノ下裕一 @KINOSHITAyuichi

【補綴日誌77】さて、論文のゴタゴタでサボっていた『心中天の網島』の補綴日誌を再開しましょうかね。二日分(7/13、14日分)溜めているので纏めて書きます。もはや遠い記憶ですな。思い出せるかな?

2015-07-29 00:42:12
木ノ下裕一 @KINOSHITAyuichi

【補綴日誌76】(7/8豆知識)また、白洲作品で言えば『道』(新潮文庫)収録の「日本の橋」もおススメ。記紀の時代から中世、近世まで様々な橋(実在した橋、神話上の橋、絵画や文芸に描かれる橋など)を網羅的に取り上げながら、縦横無尽に論じた快作です。「橋づくし」についても少し言及あり。

2015-07-09 04:51:28
木ノ下裕一 @KINOSHITAyuichi

【補綴日誌75】(7/8豆知識)他にも『私の古寺巡礼』(講談社文芸文庫)「葛城山をめぐって」を合わせて読むとより楽しめると思います(役行者、修験道についての記載多し)。『かくれ里』の後日談のようでもあり、また違った視点から、葛城の神話と歴史が紐解かれています。

2015-07-09 04:45:20
木ノ下裕一 @KINOSHITAyuichi

【補綴日誌74】(7/8豆知識)「葛城」に異常なほどの愛着を見せたのは随筆家の白洲正子。氏の代表作である紀行文(評論)集『かくれ里』(講談社文芸文庫)「葛城から吉野へ」には、葛城の岩橋について詳しく書かれております。(名著!超おススメです。特に冒頭「油日の古面」がサイコー)。

2015-07-09 04:38:37
木ノ下裕一 @KINOSHITAyuichi

【補綴日誌73】「世界の広がりを見せる」ダイナミックでレトリックの冴えた地の文のみを厳選して残しております。これに糸井さんの楽曲をぶつけることで「劇世界を広げて」いこうというのが補綴者の目論見なのですが、こればかりはやってみないとわかりません。さて本番ではどうなっているでしょう?

2015-07-09 04:25:58
木ノ下裕一 @KINOSHITAyuichi

【補綴日誌72】だから実に惜しいのですね。古典歌舞伎として上演するなら頑なに残すべきだと思いますが、現代演劇ではそうはいかない。もっと他の手で、「神隠れ」的な世界の広がりを表現せねばならず、このあたりが実に悩ましいのです。ちなみに今回の補綴は、ト書き的地の文は極力カットしてます。

2015-07-09 04:17:59
木ノ下裕一 @KINOSHITAyuichi

【補綴日誌71】話が脇に、随分それてしまいました。「葛城の神隠れ」の地の文に戻すと…。この一文、実に捨て難いのですが、現代人に共有されている文化的記憶ではなくなっているし、言葉を接いで説明したところで、単なる知識、情緒には訴えかけませんから、原文をママ残しても機能しないでしょう。

2015-07-09 04:12:54
木ノ下裕一 @KINOSHITAyuichi

【補綴日誌70】いづれにせよ、近松が描く心中物は、近代劇的〈純愛譚〉でも、また市井の人々をリアルに描いた単なる〈世話浄瑠璃〉でも、〈義理と情〉のみで構成された前近代的作品でもなく、もっと豊かなポテンシャルを秘めた〈大きな物語〉として取り扱わなければならないのではないでしょうか。

2015-07-09 04:08:19
木ノ下裕一 @KINOSHITAyuichi

【補綴日誌69】それらは結局、観客にゆだねられているように思えてならない(近代以降様々な画期的な解釈、学説があるのは承知の上で、私はあえて『心中天の網島』の結末が「救い」なのか「挫折」なのか作者からは明示されていない〈物語〉だと思っている。またそのほうが解釈の幅ができて面白い)。

2015-07-09 04:04:17
木ノ下裕一 @KINOSHITAyuichi

【補綴日誌68】作者は市井の世話レベルで神話を描き直すことを目論んだのか、又は、神々(一言主神)にできなかった〈架け橋〉を、人間の治兵衛が「橋づくし」で達成してしまうという逆転現象の面白さなのか。恋が成就しない男女とは「治兵衛・小春」のことか、又は「治兵衛・おさん」のことなのか。

2015-07-09 03:58:11
木ノ下裕一 @KINOSHITAyuichi

【補綴日誌67】「恋が成就しない男」という意味も、治兵衛に重ねているのだ。また「神隠れして」の「神」は、紙屋治兵衛の「紙」に通じていると取ることもできる。もう一つ、肝心なのは、これだけ重層的に意味やイメージを重ねながら、近松は〈ある余白〉をちゃんと残しているところだ。

2015-07-09 03:51:22
木ノ下裕一 @KINOSHITAyuichi

【補綴日誌66】例えば「葛城の岩橋(久米の岩橋)」という言葉は、和歌の世界では男女の恋(契り)が成就しなかったことの比喩として使用される。一言主神が橋を完成さすことができなかったことに由来するのであろうか(これには諸説あり、完成したとする説も有るようだ)。いづれにせよ、

2015-07-09 03:44:28
木ノ下裕一 @KINOSHITAyuichi

【補綴日誌65】よくあることだし、本歌取りが劇作の基本姿勢であったのだから、さして珍しいことではない。しかし、近松の筆が巧みなのは、その意味において、音韻において、イメージにおいて、何重もの必然性を持って〈神話(大きな物語)〉と〈世話(心中事件)〉を繋ぎ合わせている点だと思う。

2015-07-09 03:35:36
木ノ下裕一 @KINOSHITAyuichi

【補綴日誌64】『心中天の網島』には、このような箇所が実はまだまだたくさんある。ざっと挙げても『景清』、自作の『国性爺合戦』、『椀久』、百人一首の和歌、道真(天神)の伝説などなど、様々な大時代の物語、美しい物語、伝説・神話が、織り込まれている。それ自体は他の作者による浄瑠璃にも

2015-07-09 03:29:22
木ノ下裕一 @KINOSHITAyuichi

【補綴日誌63】近松はこの伝説を踏まえて治兵衛を描こうとしている。一言神主が人目を忍びながら岩橋を架けたように、治兵衛もまたこのあと、有名な「橋づくし」の道行で、大坂の橋々を巡り、死への“橋”を架けていく。〈神話〉のイメージが〈世話(リアル)〉の世界に重ねられ、重層的に描かれる。

2015-07-09 03:16:15
木ノ下裕一 @KINOSHITAyuichi

【補綴日誌62】役行者(修験道の開祖)が神々を使役して、葛城山から吉野の金峰山に巨大な岩橋を架けようとした時に、葛城山の神(一言主神)は容貌が醜いことを恥じて昼間は隠れ、夜だけ働いた。それを怒った役行者は法力で、罰として一言主神を葛城の谷底深くに封じ込めた…という伝説。

2015-07-09 03:06:18
木ノ下裕一 @KINOSHITAyuichi

【補綴日誌61】現代語に直訳すると「治兵衛は辛くて、葛城の神隠れのように身を隠してやり過ごした」。では、なぜわざわざ、韻を踏んでまで、葛城の神隠れに例える必要があったのか。そもそも〈葛城の神隠れ〉とは何か。「葛城」は大和の葛城山のこと。そこには有名な古の伝説が伝わっている。

2015-07-09 02:54:23
木ノ下裕一 @KINOSHITAyuichi

【補綴日誌60】その様子を近松は地の文でこう表現している。「我にはつらき葛城(かつらぎ)の。神隠れして遣過(やりすご)し。」ー実に素晴らしい…。古典になじみの無い方には、ちょっと解説が要るかもしれませんね。治兵衛の〈辛い(“つら”い)〉身と〈葛城(か“つら”ぎ)〉が掛かっている。

2015-07-09 02:45:46
木ノ下裕一 @KINOSHITAyuichi

【補綴日誌59】さて下巻(大和屋)の執筆中、悔しいながらも補綴稿で削らざるえなかった〈惜しい箇所〉を紹介。心中の覚悟を決めた治兵衛が小春に忍び逢いに来る。内にいる小春に自分が来たことをこっそり知らせるために、外から咳払いをする治兵衛、そこに火の番が通る。慌てて身を隠す治兵衛。

2015-07-09 02:34:41
木ノ下裕一 @KINOSHITAyuichi

【補綴日誌58】写真は出来立てホヤホヤの補綴稿。青字が木ノ下、緑字が稲垣。こうして、同じ原稿を交換しながら、互いに筆を入れ合う。最終判断権は木ノ下にあるが、意見の異なる箇所は徹底的に話し合うことを心掛けている。それがまた楽しからずや。 pic.twitter.com/WKMqEuRGuW

2015-07-09 02:18:48
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木ノ下裕一 @KINOSHITAyuichi

【補綴日誌57】その間、彼はメキメキとスキルを上げ、今では(場面によっては)補綴の叩き台(※翻訳で云えば“下訳”のようなもの)まで作れるようになった。何より、一言えば、七、八ぐらいはわかってくれる、息の合い方が嬉しい。この助手に甘えて楽を覚えべからず、と思う木ノ下なのであります。

2015-07-09 02:12:25
木ノ下裕一 @KINOSHITAyuichi

【補綴日誌56】そして上巻(河庄)の前半に手をつける。あとに残ったのは「河庄」後半とクライマックスの「大長寺」。時間との戦い。さりながら、補綴作業の速度が回を重ねる毎に早くなっているのは、ひとえに稲垣助手のお陰である。『黒塚』『東海道四谷怪談』『三人吉三』、今回が四度目のタッグ。

2015-07-09 01:59:13
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