◆5月某日 狭間と天雄 彼女の死について

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狭間 駿 @c_yu_n

狭間】そしてふと、自分がこの相手にまだ言わないのは、『彼』を損ないたくなくて、『彼』に対して心配だったのと、同じ気持ちではないんだなと妙に実感する。そして、それから…、接続詞が間違っているかもしれないけれど、この相手とのこの沈黙を好み、惜しむ気持ちもあるんだろうな、と自分で思う。

2015-10-03 15:51:45
チョロ松 @_choro_m_

@c_yu_n 天雄】「呼んでみただけです」 こちらも動かしたのは視線だけ、ちらりと横を見れば同じようにしている少年が見える。本当に特に意味もなく、それだけの呼びかけだった。長袖の上着からは指先しか見えておらず、小さく頬を掻いた。

2015-10-03 15:52:39
狭間 駿 @c_yu_n

@TIS_lam 狭間】「そですか、」 横目を向けたままフッと気が抜けて笑い、頬を掻く指先のつめを見て、それからまた、視線を前に戻す。 「……天雄さん。あの子、死んじゃいました」 唐突にぽつんと、流れるように、告げる。伝える。

2015-10-03 15:55:32
狭間 駿 @c_yu_n

@TIS_lam 狭間】いまその爪が引っ掻いていた頬に、木漏れ日の柔らかい影。実際の視界から外れて、その映像がふしぎと視覚に残る。

2015-10-03 15:56:12
チョロ松 @_choro_m_

@c_yu_n 天雄】ああ、言ってしまった。頬を掻く指は止まり、少年の声を何度か頭の中で繰り返す。あの子、死んじゃいました。シュレディンガーの猫。 「………そうですか…」 ベンチの背凭れに寄り掛かる。ぎしりと、重たげに軋んだ。

2015-10-03 15:58:45
狭間 駿 @c_yu_n

@TIS_lam 狭間】こく、と、前を向いたまま頷く。背を屈め、丸めたまま。正面を向いたまま、振り返らずに。…そしてまた沈黙。背後の木のうえで、すずめが枝で、騒ぐ声。な

2015-10-03 16:00:46
狭間 駿 @c_yu_n

@TIS_lam 狭間】ながれてゆく、ゆるやかな風。

2015-10-03 16:01:04
チョロ松 @_choro_m_

天雄】悲しみも涙も溢れない。彼女がもうこの世のどこかで生きている姿を見かけることもなく、匂いは風化してしまう。その事実が浸透していく。じわりじわりと、見えない彼女が。

2015-10-03 16:02:46
チョロ松 @_choro_m_

@c_yu_n 天雄】深く座りながら顔を上げる。陽光が葉擦れの隙間から見え隠れする。なにかが横切り、鳴きながら飛び立っていった。小さな鳥。一生懸命に生きていくのだろう。 「……」 またぼんやりと、あの子、死んじゃいました。と再生する。

2015-10-03 16:06:44
狭間 駿 @c_yu_n

狭間】知らない他人は、知らずに、あたりまえに目の前で遊んでいる。なんとなく、彼らの方向からみたこちらの姿を想像する。公園の片隅の、木陰のベンチに、ただ黙ってぼんやり座っている二人の人間。 (……、) その想像の光景の中で、やたらに自分たちはぽつんと、小さい。

2015-10-03 16:07:01
狭間 駿 @c_yu_n

@TIS_lam 狭間】「………、………。」 互いにただ黙ったまま、さらさらと、風が流れていくのと同じように、時間が流れてゆくのをぼんやり、眺めている。

2015-10-03 16:10:20
チョロ松 @_choro_m_

@c_yu_n 天雄】「………」 感想も言葉も思い浮かばず、過ぎ去っていくのは風と時間ばかりである。なにもないが、彼女が自分の涙や悲しみを欲するとも思えない。きっとこれくらいで良いのだろう。そう思うと、肩が少し下がる。

2015-10-03 16:15:51
狭間 駿 @c_yu_n

狭間】淡々と、ただ淡々と、この日のこの時間が、流れてゆく。それを惜しいと思い、そして同時に、ぜんぜん惜しくないとも思う。

2015-10-03 16:16:12
狭間 駿 @c_yu_n

@TIS_lam 狭間】「…あの子に」 ふと思いついて、そのまま、ただ思いついたままの調子で口を開く。ことさらに沈んだ調子でもなく。 「…りんどうを、あげました。俺。」 そうしてちょっと、相手を振り返る。別に何か答えが欲しいわけではない。ただそれは、昔自分が彼に貰ったなと思って、

2015-10-03 16:20:25
狭間 駿 @c_yu_n

@TIS_lam 狭間】…それを伝えてどうというわけでもないけれど、ただ単純に、思いついたら言ってみたくなって、それだけの単純な理由で口にする。振り返るのと同時に、すこし身体を起こす。相手の青年の表情を、ごくあたりまえに、まともに見る。

2015-10-03 16:22:04
チョロ松 @_choro_m_

@c_yu_n 天雄】「……竜胆を。」 こちらを見る目と目が合った。ぱちくり、と瞬く。自分が少年にあげたことのある花、それが別の形で彼女にも渡っていた。繋がっていった先で、でもこれ以上は決して繋がらない。 「あの子は、喜んでいましたか?」

2015-10-03 16:23:49
チョロ松 @_choro_m_

@c_yu_n 天雄】視線をまっすぐ捉える。やっとまともに顔を向き合わせた気がする。

2015-10-03 16:24:19
狭間 駿 @c_yu_n

@TIS_lam 狭間】「…りんどうっていうか、」 顔を合わせて苦笑する。 「…りんどうの花を描いた櫛を。たぶん喜んでくれたけど、生きてるうちに、どっちを喜んでくれたのかは、」 花か櫛か。わからない、と、笑って首を振る。それから、ちょっとだけ上を向いて、顔の横あたりで天を指差す。

2015-10-03 16:26:41
狭間 駿 @c_yu_n

@TIS_lam 狭間】「……花は。死んじゃったあとに、あいつといっしょに、送ってみたけど。」 ぽつ、ぽつと、言葉を切るように言う。それから目を戻し、相手を見、肩を竦めて苦笑する。 「届いたかは、俺は、わかんない。」

2015-10-03 16:28:48
チョロ松 @_choro_m_

@c_yu_n 天雄】少年の苦笑する顔が、苦笑とは少し違って見えるのは深読みしすぎているだろうか。死後の世界は判らない。想像すればしただけの死後の世界は存在する、それと同時に存在しない。届いている、と声をかけるのは、なんだか安っぽく感じる。 「…判りませんよ」

2015-10-03 16:34:35
狭間 駿 @c_yu_n

@TIS_lam 狭間】「ですね、」 言って笑う。笑ってから、しみじみと相手の表情を見る。木漏れ日はやっぱり、陽射しによって降りおちて、ゆらゆらとモノの表面に溜まって揺れている。

2015-10-03 16:36:02
狭間 駿 @c_yu_n

狭間】物質。モノ。質感がある。光があって、見える。…しんみりと、不思議だなあ、と思う。感情とはまた遠く、ゆるやかに穏やかに感じる。

2015-10-03 16:38:39
狭間 駿 @c_yu_n

狭間】その感慨とはまた別に、相手の表情や、そこにある感情は、どんなふうなんだろうな、と、ただそれを、暴きたいわけでもなく知りたくて、相手の顔をゆっくりと見る。

2015-10-03 16:40:09
チョロ松 @_choro_m_

@c_yu_n 天雄】「……教えてくれて、ありがとうございます」 視線を相手から逸らし、足元を見ながらいつもと同じ調子に述べる。はっきりと意味は伝わっているけれど、まだ実感が沸かないでいる。日常的に居ない方が当たり前の存在であるからか、感触がないものを掴もうとしている気分だ。

2015-10-03 16:42:21
チョロ松 @_choro_m_

@c_yu_n 知りたかったわけでも、知りたくなかったわけでもないが、彼は伝えるかどうか悩んだだろう。そう思うと、自然と口から零れた。

2015-10-03 16:42:33