「ボマー・ガール・フー・カーズス・ア・ストーム」

秋の大規模作戦の終わった鹿屋に、嵐がやってくる!
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Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

リカルドは深く椅子に腰かけ、嵐を見た。「オリジナルってのは、大抵意識や自分に対する認識が艦だ。船は砲を撃ち、魚雷を放ち、艦載機を飛ばす。だから、カラテには然程興味が無いか、軽蔑してる奴が多い。“無駄”だってな」リカルドは息を吐いた。「だが、艦娘にその理屈は通じん」 22

2015-12-08 22:59:16
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「……」嵐は黙ってリカルドの言葉の続きを待つ。「艦娘は人の姿で軍艦の力を振るい、かつ敵の大きさも人と同等か少し大きいくらいだ。敵も味方も嘗ての大戦とは前提からまず違う。艦の意識のままイクサやってれば、どうしても齟齬が出る。致命的な齟齬が」リカルドはシリアスだ。 23

2015-12-08 23:03:04
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「だからこそ、俺は。いや俺達は、だな。『ノーカラテ、ノー艦娘』を訓示に掲げた。死なせないために。イクサに勝つためにな」リカルドはサングラスを外す。青い瞳が嵐を見た。「だからこそ、オリジナルの、艦の記憶から直接生まれたお前さんが、この艦隊を希望するってのがちょっと不思議でな」 24

2015-12-08 23:06:20
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「あぁ、成程」嵐は得心がいったとばかりに頷いた。「俺みたいのは珍しいのか」「そうなるな」「俺の理由は簡単さ…」嵐は立ち上がり、沈み行く夕日を睨んだ。嵐は拳を握り締め、言った。「守りたい奴がいるからさ。今度こそ、な」その目には強い決意が灯っていた。 25

2015-12-08 23:11:11
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

リカルドはその瞳を見、頷くとサングラスを掛け直した。「それがお前さんのエゴか」「エゴ…いや、決意だな」嵐はそう言った。「俺の、絶対に曲げられない決意だ」「ならばエゴだ、それはな」リカルドは笑った。「エゴがあるなら、カラテの素質も大丈夫そうだな」 26

2015-12-08 23:14:16
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「本当か!」嵐はリカルドに詰め寄ろうとした。「そう言って貰えると安心だ!さぁ、早速訓練を…」リカルドが手で制する。「まぁ、今日は休め。長旅で疲れてるだろ」「け、けど!」嵐が抗議しようとするが、それを遮るように嵐の腹がグルグルと鳴った。「腹減ってるみてぇだしな」「うぅ…」 27

2015-12-08 23:17:21
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

己の腹の音を聞き、嵐は赤面する。「今は食堂が開いてるだろ」リカルドが立ち上がった。「飯持ってきてやるよ」「えっ!いや、上官にそんなことさせるのは」「お前食堂の場所知らんだろ」「あっ…」嵐は黙ってソファーに座り込んだ。「何が欲しい?」「麦飯と味噌汁があれば」「そうか」 28

2015-12-08 23:21:16
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

司令室からリカルドが退室する。嵐は息を吐き、ソファに全身を投げ出した。「あぁー…初日からこれで大丈夫か俺ェ…」嵐はぼんやりと沈み行く夕日を見た。夜が来る。あの恐ろしく憎たらしい夜が。「でも、ようやくスタートラインだ」嵐は拳を夕日に向け突き出した。 29

2015-12-08 23:25:58
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「強くなって。今度こそ。お前を守るぜ。“はぎ”」嵐はそう呟き、疲労から来る瞼の重みに逆らわず、目を閉じた。 30

2015-12-08 23:28:28
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

10数分後、リカルドが部屋に戻って来た。「へいA定食おまちどう…嵐?」リカルドは料理を乗せたお盆を己の机の上に置き、嵐の顔を見た。「……」嵐はすうすうと寝息を立て、眠りに落ちていた。「仕方ねぇな」リカルドは己の上着を脱ぎ、嵐に掛けた。「……はぎ」寝言が聞こえる。 31

2015-12-08 23:31:39
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

リカルドはその寝顔を見、期待を込めて呟いた。「さて、この嬢ちゃんはどんな嵐を連れてくるのかね?」リカルドは窓から沈み行く夕日を見た。夜が来る。一日が終わる。明日が訪れる。可能性に満ちた明日が。 32

2015-12-08 23:33:52
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ボマー・ガール・フー・カーズス・ア・ストーム」#1 おわり #2 へ続く

2015-12-08 23:34:13

#2

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ボマー・ガール・フー・カーズス・ア・ストーム」#2

2015-12-11 21:36:10
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「アアアアーッ!アアアアアアアアアアーーーッ!!!」窓ガラスの向こう、嵐は叫びを上げる少女を見た。ここは何処だ。嵐は思い出す。無機質な白い壁。マジックミラーとか言う向こうから此方が見えない窓。そしてガラスの向こう、白い拘束服に身を包んだ紫髪の少女。「はぎ」嵐は呟く。 1

2015-12-11 21:40:04
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

『ブッダファック!またか』『急ぎ取り押さえろ!』白衣を着た複数の男女が暴れ狂う“はぎ”を取り押さえる。「アアアアアアアアアアーーーッ!夜!夜!夜夜夜夜!!!!アアアアアアアアアアーーーーッ!!!!」“はぎ”はこの世のものとは思えぬ形相で、絶叫した。その首筋に注射針が刺さる。 2

2015-12-11 21:42:48
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

注射器の中身が”はぎ”の体中に注ぎ込まれる。「夜…コワイ…コワイよぉ…」“はぎ”は涙を流し、それっきり動かなくなった。白衣の人間たちが“はぎ”を抱え、連れていく。 3

2015-12-11 21:45:38
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

そこで、目が覚めた。嵐は己に与えられた一室のベッドの上に横になり、天井を睨んでいた。外はまだ暗い。「はぎ」嵐は天に右手を翳した。そして強い意志を込め、拳を握り締めた。 4

2015-12-11 21:48:12
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「やっぱり、可笑しいわよね…」「神通ちゃんもそう思う?」正午、鹿屋基地食堂。混雑した食事場の一角で、那珂と神通が何事かについて話し合っていた。「そう思うってことは」「うん、那珂ちゃんの所でもそんな感じ」「やっぱり、リカルド提督に相談した方が」「俺がどうかしたか」後方から声。 6

2015-12-11 21:52:02
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

神通が振り向く。そこには、お盆を持ったリカルドと吹雪が居た。「リカルド提督」「あっ、吹雪ちゃんお疲れさまー」「お疲れ様です、那珂さん」「隣いいか?」リカルドが神通に問う。「ええ、大丈夫ですよ」「悪いな」そう言い、リカルドは神通の左隣に腰掛ける。吹雪は那珂の隣だ。 7

2015-12-11 21:55:17
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「それで、何の話を?」麦飯を箸で摘まみながら、リカルドが問うた。「んーとね、嵐ちゃんの事なんだけど」「嵐?」吹雪がほうれん草のおひたしを頬張りながら首を傾げる。「そういやお前はまだ会ってなかったな」とリカルド。「新しい仲間ですか」「そうだ…で、その嵐がどうしたってんだ?」 8

2015-12-11 22:00:32
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「どうもちょっと、無理してるっぽくて」那珂がそう言う。「無理?」「さっきのわっちや舞風ちゃん、そして嵐ちゃんと一緒に出撃したんだけど」「ほう」那珂が箸を弄びながら言葉を続ける。「船団護衛任務だから敵を追い払うだけでいいんだけどさ、嵐ちゃん、何回か敵を深追いしかけてて」 9

2015-12-11 22:06:14
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「深追いねぇ…」「それだけだったらまだ注意喚起でどうにかなるんだけど」那珂が神通に視線を向ける。「どうも、かなりオーバーワークをしているようで」「オーバーワーク」リカルドが神通を見た。「お前さんの口からそれってことは、よっぽどだな」「ええ、よっぽどです」 10

2015-12-11 22:10:09
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

『鬼百合』神通。彼女の訓練は苛烈であるともっぱらの評判である。基礎のなっていない者が無理についていこうとすれば、たちまち己の吐瀉物に塗れることになる程である。その神通をしてオーバーワーク。ただ事ではない。 11

2015-12-11 22:12:42
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