黄昏ハザエル

診断ゲーム「黄昏町の怪物」の診断を元にしたSS群ハッシュタグ #たそがれはざえる にて、連載していたものの結末。
0
劉度 @arther456

(これからSSを投下します。TLに長文が投下されますので、気になる方はリムーブ・ミュートなどお気軽にどうぞ。感想・実況などは #ryudo_ss をお使いいただけると大変ありがたいです。忙しい方はtogetterまとめ版をどうぞ。それでは暫くの間、お付き合い下さい)

2015-12-20 20:36:04
劉度 @arther456

鳥居の先に夜が続いている。黄昏町の西の果て。この先は、外の世界。月も星も無い夜空を見つめていた俺は、後ろから吹いてきたそよ風に意識を引き戻された。この街で目を覚ましてから、もう三ヶ月以上経っている。結局、記憶が戻らないままこの町を出ることになる。 1

2015-12-20 20:38:35
劉度 @arther456

鳥居を見上げながら、この町での日々を思い返す。竜の住む学校。死体だらけの病院。人間と化物が殺し合う町。何度も死んだ。蘇りはしたが、死ぬ瞬間の痛みと、冷たさと、喪失感は忘れられない。首を振って、嫌な思い出を振り払う。もうここを出るのだから、そんなことを思い出す必要はない。 2

2015-12-20 20:41:53
劉度 @arther456

鳥居に手を伸ばす。先には見えない壁があり、俺を弾き返そうとする。結界だ。以前来た時は、これに阻まれて先に進めなかった。だが、今は違う。バンダナをずり上げ、額の三つ目を開く。二つの目では見えない、結界に張り巡らされた魔力の流れを知覚する。その中に隠された、結界の解れ目も。 3

2015-12-20 20:45:22
劉度 @arther456

結界の隙間に爪を突きこみ、力を込める。「う、ぐ……」力を入れるほど、結界の力が電撃となって襲い掛かってくる。だが怯まない。負けるわけにはいかない。歯を食いしばり、力を込め続け。「オオォォッ!」ありったけの力を込めて、俺は腕を振り下ろした。結界が音もなく紙のように千切れた。 4

2015-12-20 20:48:40
劉度 @arther456

突然、風が吹き始めた。夜の方へすさまじい風が吹いていく。空気すらこの黄昏町から逃げ出そうとしているのか。突風の中、俺は一度だけ後ろを振り返る。黄昏町は、今も逢魔ヶ時の中にある。記憶のないまま、あの夕暮れの中を歩いた記憶を確かめてから、俺は夜へと向かって歩き出した。 5

2015-12-20 20:51:55
劉度 @arther456

街を出る吊橋を渡った先は、鬱蒼と生い茂る森だった。夕日はほとんど届かない。おまけに夜へ進んでいるから、辺りはどんどん暗くなる。二つの目は勿論、三つ目を使っても見通しが利かない。「懐中電灯でも持ってくれば良かったか……」独りごちるが、今更後悔してもしょうがなかった。 6

2015-12-20 20:55:20
劉度 @arther456

こういう時、一人なのは辛い。今日の夜に何を食べようか、話しながら歩くだけでも楽しいものだ。「……え?」脳裏に浮かんだイメージに、自分自身で驚いた。そうした記憶がある。あの時は確か、町を歩きながら話していて、隣には青い瞳の女がいた。ああ、間違いない。記憶が戻ってきている。 7

2015-12-20 20:58:31
劉度 @arther456

足が自然と早くなる。森は更に暗くなるが、構わない。町から離れれば離れるほど記憶が戻ってくる。空の記憶は虫食いになり、穴の中に砂が溜まっていくように、散らばっていた記憶が一人でに集まっていく。モノクロの景色に色がつき、ハッキリとした体験となって俺の心を満たしていく。 8

2015-12-20 21:01:43
劉度 @arther456

戦車で野原を駆け、侵略してくる敵国を迎え撃った日々。狭間の世界では、そこを管理する魔王の下で色々な厄介事を押し付けられてきた。初めて任務を終えた後は、体の震えが止まらなかった。脳裏に浮かぶ色鮮やかな風景。魔王の娘が住む古城。桂陽の未開拓林。どれもよく覚えている。 9

2015-12-20 21:04:54
劉度 @arther456

怯えた顔で俺を見上げる妹の首筋。それに噛み付こうとして、既の所で意識を保ち、アルラウネの蔦を避ける。「……え?」遥か東の海からやってきた月の姫は、門から突き落とされ、死体も残らずバラバラになった。予言通りだ。「何だ、これは」俺の記憶のはずの映像が、重なる。混ざり合う。 10

2015-12-20 21:08:03
劉度 @arther456

足がもつれて、その場に倒れこむ。ばしゃん、と水が顔を打った。いつの間にか足元は浅い沼地になっていた。三ツ目を使っても周りが見えない。ただ、水の感触だけが辛うじて俺の存在を保証している。もがいている間にも記憶は流れ込み、心を内側から押し広げていく。 11

2015-12-20 21:11:24
劉度 @arther456

鳥かごの中に押し込められた、青い髪の彼女。違う、そこにいたのはお前じゃない。俺が住んでいたのは平野と砂漠が広がる国で、熱帯の木々が生い茂るジャングルなど見たこともない。なのに、どちらもはっきり体験している。記憶は遂にビジョンになって、あの日を追憶させる。 12

2015-12-20 21:14:32
劉度 @arther456

振り下ろされた鉤爪が肩当てを吹き飛ばした。山刀を振るい、追撃の牙を追い払う。その場から飛び退り、後ろから飛びかかってきた獣を避ける。二頭の虎を前にして、俺はゆっくりと息を吸い込んだ。虎はどちらも傷を負っているが、致命傷には未だ届いていない。止めを刺さなければ。 14

2015-12-20 21:17:45
劉度 @arther456

腰の獲物を気にしながら、俺は一歩後ろに下がった。そいつを機と見て、虎が動いた!左の虎の頭に山刀を突き出す。虎はこれを横っ飛びで避けた。代わりにもう一頭が俺の頭を噛み砕こうと飛びかかる。なら、山刀を投げつける!刃は回転して虎の胴に突き刺さった。だが、これでも奴は死なない。 15

2015-12-20 21:20:58
劉度 @arther456

腹に剣を刺された虎の横を駆け抜ける。走りながら、俺は腰に提げてあった弓を手にとった。背中の矢立に残るは二本。外せない。後ろから吠え声が聞こえたところで、俺は立ち止まった。振り返りながら矢を番える。目前に虎の頭。恐怖を押し殺し、矢を放つ! 16

2015-12-20 21:24:12
劉度 @arther456

矢は一匹目の心臓を正確に射抜いた。巨獣の体から力が抜け、俺の前に倒れ伏す。その影から現れたのは、胴体に山刀を突き刺されたもう一頭の獣。先の虎を囮にして、俺に隙を作らせようとしたのか。だが、迎え撃つ準備はもうできている。一射目を放った瞬間、俺は既に二射目を番えていた。 17

2015-12-20 21:27:24
劉度 @arther456

弦が鋭い音で鳴る。矢は風を切って、虎の喉に突き刺さった。虎は二、三度宙を掻く仕草をしてから、どう、と地面に倒れ伏した。「――ッハァッ、ハァッ……!」忘れていたように、俺は荒い息を吐く。命懸けの猛獣狩りをしていたという恐怖が、今更になって体に押し寄せてきた。 18

2015-12-20 21:30:36
劉度 @arther456

「ハァ、ハァッ……」それでも虎たちからは目を離さない。野生の獣はいきなり起き上がることがあるというのを、俺はよく知っている。「はぁ……はぁ……」10呼吸待っても、虎たちは動かなかった。「……ふぅ」ようやく、呼吸が落ち着く。すると、俺の後ろの茂みがガサガサと鳴った。 19

2015-12-20 21:33:49
劉度 @arther456

「鮑隆!無事か!」飛叉を手に飛び出してきたのは、官軍の鎧に身を包んだ髭面の男。「お前か……驚いたぞ」俺は番えかけた弓を降ろす。同僚の陳応だ。敵じゃない。「虎は!?」「仕留めた」俺の後ろの虎を見て、陳応は目を見開いた。「おう、もう終わってたのかよ」「すまん。出しゃばった」 20

2015-12-20 21:37:04
劉度 @arther456

「構わねえよ。倒したんなら文句はねえ。よっしゃ、戻ろうぜ!趙の旦那も心配してるだろうしよ!」「ああ。明後日は零陵の太守殿も遊びに来るからな。準備しなければ」ここは桂陽、漢の国土の南端。俺はこの地で、主君の桂陽太守の下、一軍を率いる将として生きている。 21

2015-12-20 21:40:18
1 ・・ 4 次へ