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(20)この時戦車競争で優勝したのはボイオティア人のチームだったのですが、その戦車はスパルタ人リカスが譲ったものでした。彼は「これはワシのものだ」と誇示すべく競技場内に入場した為、エリス人達につまみ出されてしまいました(Thuc. 5.50; Xen. Hell. 3.2.21.
2015-12-28 00:19:07(21)リカスの時もそうですが、戦車競走については馬主が共同で参加することもありました。前480年にはトンダスとアルシロコスの二人が戦車競走の馬主として、騎馬競争はアルゴスのポリスの馬が優勝者リストに記録されています。(Oxyrhyncus Papyri 222.i.5-6.)
2015-12-28 00:21:19(22)競技以外の使われ方にはパレードに用いるというのがありました。やはり戦車は見栄えがいいのでしょう。シリア王アンティオコス4世は戦車142台をパレードに使いました(Ath. 194c-f; Polyb. 30.25.1-11.) pic.twitter.com/IbbzdqGd3K
2015-12-28 00:23:31(23)それほど信用できる史料ではありませんが、ペルシアのダレイオス1世は親しい兵たちに金銀製品のほか、黄金の戦車を贈る約束をしたという伝承があります。黄金製ですから実際の戦争には使いたくないものです…(Josephus, Antiquitates Judaicae 11-35)
2015-12-28 00:24:45(24)と、ここまでアレコレと史料を紹介してきましたが、実際の戦いの話題が出てこないとお気づきの事と思います。残念ながら、ギリシア世界において戦車は象徴的な役割しか果たさず、実際の戦場でそんなに活躍しませんでした。
2015-12-28 00:25:57(25)それでもペルシアでは移動手段として活躍しましたし(Xen. Anab. 1.2.16-17)、アルタクセルクセス2世は「鎌付き戦車」なるものを使っていました(Xen. Anab. 1.7.12; 1.8.10; Diod. 14.22.7; Plut. Artax. 7)
2015-12-28 00:26:48(26)マケドニアのアレクサンドロス大王と戦ったダレイオス3世も、車輪に鎌を付けた戦車を投入してきました(Diod. 17.53.1-2; Chrtius 4.9.5)。しかし、大した戦果を上げることなくマケドニア軍にやっつけられてしまいました(Arr. Anab. 3.13)。
2015-12-28 00:27:39(26 補足)鎌付き戦車はPlut. Alex. 33; Diod. 17.58.2-5; Chrtius 4.15.3-17もご参照下さい。この兵器の評価、そしてガウガメラの戦いの解説は、森谷公俊『アレクサンドロス大王』講談社選書メチエ 2000, 150-87頁をご覧ください
2015-12-28 00:28:41(27)ところで、ローマにおいても戦車競争は人々を惹きつけたようで、市民の娯楽として機能しました。ただ、熱狂のあまり、敵陣営の戦車に「コケろ~、落馬しろ~」と呪いをかけるような人もいたようです。 pic.twitter.com/HKL2UednWG
2015-12-28 00:30:10(27 補足)古代ローマの戦車競争に関しては井上秀太郎「チルコ・マッシモ」『ローマ帝国と地中海世界を歩く』18-36頁を、古代世界の呪いについてはゲイジャー, J.G.『古代世界の呪詛板と呪縛呪文』京都大学学術出版会 2015の第1章をご覧ください。
2015-12-28 00:31:17(28)脱線に脱線を繰り返しましたが、まとめましょう。古代ギリシアにおいて戦車競走とはお金持ちたちのステータスを競う、まさに「戦い」でした。競技祭で優勝することはたいへんな名誉でしたし、政治の世界に利用されもしました。実用性については…まぁ、微妙…といったところでしょうか。
2015-12-28 00:32:20(29)と、いったところです。ありがとうございました。 【主な邦語参考文献】 スパイヴィ, N.『ギリシア美術』岩波書店 2000 桜井万里子・橋場弦(編)『古代オリンピック』岩波新書 2004 本村凌二(編)『ローマ帝国と地中海文明を歩く』講談社 2014
2015-12-28 00:33:43そういえば、ビザンツの時代も戦車競争は行われていました。年間に百日以上、一日当たり数十レース開催されたらしいので、今年の府中競馬場の競馬開催日が48日だった事を考えると、市民がいかに戦車競争に熱中していたかが比較しやすくなると思います。
2015-12-28 00:47:33追記・略号一覧
【古典文献】
Apollod. Epit.: アポロドロス『摘要』
Arr. Anab.: アッリアノス『アレクサンドロス大王東征記』
Ath.: アテナイオス『食卓の賢人たち』
Diod.: ディオドロス『歴史叢書』
Chrtius: クルティウス・ルフス『アレクサンドロス大王伝』
Hdt.: ヘロドトス『歴史』
Hom. Il.: ホメロス『イリアス』
Isoc.: イソクラテス
Josephus, Antiquitates Judaicae: フラウィウス・ヨセフス『ユダヤ古代誌』
Paus.: パウサニアス『ギリシア案内記』
Pind. O.: ピンダロス『オリュンピア祝勝歌』
Plut. Ages.: プルタルコス『アゲシラオス伝』
Plut. Alc.: プルタルコス『アルキビアデス伝』
Plut. Alex.: プルタルコス『アレクサンドロス伝』
Plut. Artax.: プルタルコス『アルタクセルクセス伝』
Plut. Numa.: プルタルコス『ヌマ伝』
Polyb.: ポリュビオス『歴史』
Soph. El.: ソフォクレス『エレクトラ』
Thuc.: トゥキュディデス『歴史』
Xen. Ages.: クセノフォン『アゲシラオス』
Xen. Anab.: クセノフォン『アナバシス』
Xen. Hell.: クセノフォン『ギリシア史』
【碑文集】
IG: Inscriptiones Graecae, Berlin, 1873-.
IvO: Dittenberger, W. & Purgold, K.(Hrsg.), Die Inschriften von Olympia, Berlin, 1896.
【断片集】
FGrH: Jacoby, F.(Hrsg.), Die Fragmente der griechischen Historiker, Berlin, 1923-.
【雑誌】
BCH: Bulletin de Correspondance Hellénique