初代当主は「自分自身の世界を築きあげる」べく、外の世界から容赦なく美を奪い、それを満たして迷宮めいた邸宅を建造した。彼の末裔たちは、その屋敷にこもって来たるべき終末を待ち受けるのだ。
2016-01-16 20:16:02「終末の具体的な原因」はあきらかにされない。啓示のように〔空から、大地から、海から危険はやってくる〕〔黒い炎と赤い水のなかで、大地はねじれ曲がり、世界は悲鳴に満ちる。それが起こるのだ〕と告げられるだけだ。
2016-01-16 20:16:24最初のうちは半信半疑の者もあったが、その屋敷のたたずまい、敷地内で起こる不吉なできごと、予感や霊感めいた気配などが積み重なって、誰もが宿命と受けとめるようになっていく。
2016-01-16 20:17:57読みながらしだいに空間が歪むような感じを覚えるが、どこがどう歪んでいるとは言えない。そこがジャクスンの凄さだ。怖さだ。
2016-01-16 20:18:36NEWS本の雑誌「今週はこれを読め! SF編」更新されました。こんかいはガレス・L・パウエル『ガンメタル・ゴースト』(創元SF文庫)を取りあげています。 webdoku.jp/newshz/maki/20…
2016-01-19 11:01:42書評のさわり―― アクアク・マカークがAIではなく生身の猿になって、2059年の抗争に参戦するのだ! (略)真相を知らされた彼は怒り心頭。「お前にゲームのキャラにされた者の気持ちがわかるか!」とばかり、セレステ社のクソどもに復讐を webdoku.jp/newshz/maki/20…
2016-01-19 11:02:05NEWS本の雑誌「今週はこれを読め! SF編」更新されました。こんかいはシャーリイ・ジャクスン『日時計』(文遊社)を取りあげています。 webdoku.jp/newshz/maki/20…
2016-01-26 11:19:41書評のさわり―― この空間は何に支配されているのだろう? 初代当主の野望? ファニーおばさまの妄念? ファンシーの残酷なイノセンス? ハロラン夫人の無意識? グロリアの霊感? あるいはゴシック・ロマンス的な因果? webdoku.jp/newshz/maki/20…
2016-01-26 11:20:03フランク・ハーバート『デューン 砂の惑星〔新訳版〕』(ハヤカワ文庫SF)読了。あいやー、デューンってこんなに面白かったっけ? 酒井昭伸さんのこなれた訳文のおかげか、それともぼくの読みかたが変わったのか。
2016-01-26 16:52:53旧版初訳で読んだとき、ぼくは生意気盛りの中学生で、皇帝とか公爵とか妾妃とか剣術の稽古とか仇討ちとか「古っ! これってロマンチック?」と思ったものでしたが……
2016-01-26 16:53:49こんかい新訳版を読んでみて、環境改造をめざす科学者とか、人類の選択的遺伝子改良と目論む秘教的学院とか、宇宙の交通・物流を掌握しているギルドとか、さまざまな文化や価値観がせめぎあって複雑な綾をなしていることがわかって、がぜん面白くなった。
2016-01-26 16:54:37そのかわりに「これはどうなの?」と思うところも見えてきた。悪の巨魁ハルコンネン男爵が終盤でけっこうヘナチョコになってしまうとか、戦略的思考に長けたスフィル・ハワトが情況証拠だけでレディ・ジェシカを憎しみつづけるとか。
2016-01-26 16:55:51ここらへんのキャラクターはストーリーのために都合よく使われている印象がする。
2016-01-26 16:56:01宮内悠介『アメリカ最後の実験』(新潮社)は、謎・陰謀・犯罪・捜査があってミステリの要件を備えているのだけど、事件が解決へと向かうのではなく、物語の進行とともにより根源的な謎が立ちあらわれていく
2016-01-29 20:45:54主題となるのは〈音楽〉〈アメリカ〉〈家族〉だが、それらがバラバラではなく抜き差しならぬかたちで結びついている。
2016-01-29 20:46:36まさに巻を措く能わず。次々に局面が動きそれを追っていくだけで一気に読まされてしまうのだが、この小説自体が音楽的だという事情もある。テーマやモチーフの提示→変奏がいくつもの層でなされるので、その構成をじゅうぶんに味わおうとすると、どうしても中断なしに読みたくなるのだ。
2016-01-29 20:47:53また、音楽を聞きこむように、再読によって発見されることも多いはずだ。さりげなく作りこまれている。
2016-01-29 20:48:20『アメリカ最後の実験』はプロットがくっきりしていて、さらりと読むだけでもじゅうぶんに面白い。主人公の脩は、失踪した父を追ってアメリカの難関音楽学院〈グレッグ音楽院〉を受験する。試験が何段階かあるのだが、これがみな風変わり、しかし音楽や演奏の本質に関わる内容・形式なのだ。
2016-01-29 20:49:26失踪した父・俊一の消息も謎めいている。俊一はピアニストで、かつては技術はあるが、腕は二流だと言われていた。しかし、家族を残してアメリカに渡ってから変わったらしい。俊一も〈グレッグ音楽院〉を受験したが、合格後から「人の手に、音楽を取り戻してやるんだ」と口走るようになったという。
2016-01-29 20:50:12その俊一が考案したのが〈パンドラ〉という楽器だ。いっけん普通のシンセサイザーだが、玄妙な響きを奏でる。しかも俊一はいっさいの録音を許さなかった……。
2016-01-29 20:51:00カレン・ラッセル『レモン畑の吸血鬼』(河出書房新社)読了。待望の第二短篇集。表題作は倦怠期を迎えた吸血鬼カップルの物語で、やるせないというかなげやりというか絶妙のペーソスがある。それにしてもレモンを囓ると牙に沁みるんじゃないかと心配になりますね。
2016-01-30 16:06:37その次に収録されている「お国のための糸繰り」は、明治時代の日本の製糸工場を舞台に、女性労働者の非人間的な――文字通り「人間じゃなくなる」――労働状況を描く。篠田節子『絹の変容』、セサル・アイラ「文学会議」につづく、第三の蚕バイオホラーだ。
2016-01-30 16:07:13三島浩司『ウルトラマンデュアル』(早川書房)読了。ぼくは初代ウルトラマンをリアルタイムで観た――ウルトラQの後番組として始まるのを待ちかねた――世代だ。当時、ハヤタとウルトラマンが命を共有しているのがどういう状態か首を捻ったものだが、この作品を読んでそれを思いだした。
2016-01-30 19:27:10面白いのは、そうした命/精神/身体の共有が、ウルトラマンと地球人の英雄的人物だけでなく、侵略者である悪玉宇宙人とそれに簒奪される地球人とのあいだでもあることだ。もっとも、共有の状態はだいぶ違っていて、それがストーリーにも関係してくる。
2016-01-30 19:28:49また、ウルトラマン/侵略者/地球人の関係もすっぱり正義と悪と割りきれず外交問題的にねじれていて、それが人間関係を複雑にしている。そうした微妙な陰影を含みながらも、ちゃんと怪獣退治のスペクタクルが描かれる。なんだかずいぶんトクした気分になる。
2016-01-30 19:29:51