渡瀬線周辺、奄美大島における温暖化傾向

生物地理区の旧北区と東洋区の境界に近い奄美大島における気候変動を気象庁の過去データから振り返ってみました。
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1.琉球弧と渡瀬線

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今井長兵衛 @medanjin

渡瀬線はトカラ列島南部の悪石島と小宝島の間に東西に引かれた生物地理区の境界線で、以北は旧北区、以南は東洋区とされる。渡瀬庄三郎が1912年に提唱した。

2016-02-01 19:45:02
今井長兵衛 @medanjin

渡瀬線はトカラギャップに一致し、20万年前から2万年前まで陸橋でつながれていたが、それ以後、急激に沈降して現在では最深部で水深1000 mに達するそうだ。海峡を渡れない陸生ほ乳類などでは、渡瀬線が分布境界になっている種も多い。

2016-02-01 19:52:23
今井長兵衛 @medanjin

移動性のある生物では、地形的障壁だけでなく気象条件が分布を制限している場合も考えられる。そのような場合には、渡瀬線付近における気候変動が生物の北上や南下に影響を及ぼす可能性があるだろう。

2016-02-01 19:58:56
今井長兵衛 @medanjin

奄美大島の名瀬測候所は1896年に設立され、翌1897年から現在まで、1945年の敗戦前後3~9月を除き、通年観測が続けられている。位置は、北緯28度22.7分、東経129度29.7分、標高は2.8 mである。

2016-02-09 09:55:13

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2.年平均気温、年間降水量および年間日照時間

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今井長兵衛 @medanjin

奄美大島名瀬の年平均気温の推移をグラフ化した。回帰直線より、100年あたり年平均気温上昇率は0.91℃と推定される。全球平均気温の100年あたり上昇率0.74℃より若干高いようだ。 pic.twitter.com/rbOzV1mAhq

2016-01-09 20:15:55
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今井長兵衛 @medanjin

奄美大島名瀬における年間降水量の推移を図示した。100年あたり306mmのペースで減少している。それにしても大阪などと比べると降水量が多い。 pic.twitter.com/CsewGFP0L1

2016-02-11 11:12:21
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今井長兵衛 @medanjin

奄美大島名瀬の年間日照時間の推移を図示した。測定法の異なる1985年までのデータは補正されているが、それでも1898~1985年と1986~2015年でギャップがあり、両期間とも日照時間に有意なトレンドは検出されなかった。 pic.twitter.com/QaZjjgXZIG

2016-02-11 11:24:47
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今井長兵衛 @medanjin

したがって、奄美大島名瀬における年平均気温の上昇には、降水量の減少が関係している可能性が考えられるが、日照時間が直接関連しているとは考えにくい。

2016-02-11 11:28:01

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3.最寒月・最暖月の気候変動

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今井長兵衛 @medanjin

奄美大島名瀬における最寒月(1月または2月、1916年のみ3月)の平均気温の推移をグラフ化した。上昇率は0.75℃/100年と推定される。年平均気温上昇率0.91℃/100年より若干低い。 pic.twitter.com/IVGAzL8pkW

2016-02-03 14:25:09
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今井長兵衛 @medanjin

奄美大島名瀬における最寒月(1月または2月、1916年のみ3月)の日最高気温月平均の推移をグラフ化した。統計的に有意なトレンドは検出されなかった。 pic.twitter.com/HtBgJfQacj

2016-02-03 14:30:41
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今井長兵衛 @medanjin

奄美大島名瀬における最寒月(1月または2月、1916年のみ3月)の日最低気温月平均の推移をグラフ化した。上昇率は0.87℃/100年と推定される。年平均気温上昇率0.91℃/100年と同等の上昇率である。 pic.twitter.com/ycLM5bSF4j

2016-02-03 14:37:47
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今井長兵衛 @medanjin

奄美大島名瀬の最暖月平均気温の推移をグラフ化した。回帰直線より、100年あたり月平均気温上昇率は1.27℃と推定される。奄美大島では、冬より夏のほうが気温上昇率が大きかったようだ。 pic.twitter.com/v2Ab1zvVhG

2016-01-11 11:00:19
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今井長兵衛 @medanjin

奄美大島名瀬の最暖月(7月または8月)の日最高気温月平均の推移をグラフ化した。回帰直線から100年あたり上昇率は0.85℃と推定される。この値は最暖月平均気温の上昇率 1.27℃/100年より小さい。 pic.twitter.com/0ZiGNdBOCr

2016-01-12 20:34:47
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今井長兵衛 @medanjin

奄美大島名瀬の最暖月(7月または8月)の日最低気温月平均の推移をグラフ化した。回帰直線から、100年あたり上昇率は1.73℃と推定される。この値は最暖月の上昇率1.27℃/100年より大きい。 pic.twitter.com/w6sVK8fJ3D

2016-01-12 20:45:51
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今井長兵衛 @medanjin

奄美大島名瀬における最寒月・最暖月の気温上昇率(℃/100年)を図示した。図示したなかでは上昇率を比較すると、最暖月の気温上昇が最寒月より高く、日最低気温月平均が日最高気温月平均より高い。 pic.twitter.com/wXOTyB15Yk

2016-02-03 14:51:58
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今井長兵衛 @medanjin

このように、奄美大島名瀬では、夏期の日最低気温の上昇が温暖化に強く関連しているように見える。正確には、全ての月の気温の推移を検討すべきだが、それにはさらに若干の時間が必要だ。

2016-01-12 20:57:16

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4.渡瀬線の「気候的北上」?

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今井長兵衛 @medanjin

トカラギャップに位置する渡瀬線は、主として陸生ほ乳類の分布境界として1912年に提唱された。当然ながら、海底地形がそれからの100年で大きく変化したことはないので、渡瀬線の位置は現在も同じである。

2016-03-15 19:42:12
今井長兵衛 @medanjin

しかし、気候変動のみを取り上げると、この100年余の期間の温暖化で、渡瀬線以北の気温が上昇しており、いわば「渡瀬線の気候的北上」生じているはずだ。

2016-03-15 19:50:09
今井長兵衛 @medanjin

そこで、渡瀬線が提唱された頃の20年、すなわち1897~1916年の名瀬の気温と名瀬より北、鹿児島までのいくつかの地点の現在(1996~2015年)の気温(年平均気温と最寒月の日最低気温平均)とを地図に落としてみた。

2016-03-15 19:56:07
今井長兵衛 @medanjin

地図で見ると、「気候的」には渡瀬線は種子島まで北上したように見える。屋久島は2000m級の山がそびえるためか、平坦な種子島よりやや気温が低いが、南部の平地では気温上昇は同等と考えても良かろう。分布境界線は本当に北上しているだろうか。 pic.twitter.com/2ghby493WM

2016-03-15 20:06:06
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