ニンジャスレイヤー二次創作【テンダー・ホワイト・ドラゴン・アンド・ブルタル・レッド・ブラック・ドラゴン】#2

◆無名のサンシタ @MMMwithbe 第一作◆公式と関係が一切ない◆身勝手◆ #1:http://togetter.com/li/963105 #2:このまとめ #3:http://togetter.com/li/969615 続きを読む
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プロキオン @MMMwithbe

「このリングへ、カラテの頂点、掴みに来いやァ!!」タダオーーン!! 過剰演出ファンファーレ! 乱れ飛ぶ極彩色のサーチライトとレーザー! 「「ワオオオオオーッ!」」「「「「トーシン! トーシン! トーシン! トーシン!」」」」 サクラが始めたコールは熱狂する観客全体へ瞬く間に伝播!

2016-04-17 13:12:53
プロキオン @MMMwithbe

【テンダー・ホワイト・ドラゴン・アンド・ブルタル・レッド・ブラック・ドラゴン】#2

2016-04-17 13:13:07
プロキオン @MMMwithbe

恒例となったヤマ・マサカツ氏の決め台詞で、第9回TKグランプリのオープニングセレモニーは終了した。リング上のタイコを撤去し試合準備を整える間、短い休憩時間となる。ヤマ氏は一旦奥に引いた。「統括本部長」の彼は、メインイベントを含む後半の数試合で再登場し、リングサイドで試合を見守る。

2016-04-17 13:13:46
プロキオン @MMMwithbe

リョウゴク・コロシアム2階席ムコー・ショーメン・エリア、一番奥の立ち見自由席から、フジキドはセレモニーの様子を見ていた。計算し尽くされた熱狂への誘導。敵ながら巧みな手際。こうした技術は、放送業界に大きな影響力を持つカラカミ・ファンド傘下の映像制作会社が提供したものに相違あるまい。

2016-04-17 13:14:04
プロキオン @MMMwithbe

フジキドは立ち見席を離れ、トイレへ向かう人の流れを自然な動作で避けながら通路を移動し、会場全体の様子を探る。ペク・ファランが出場するのはセミファイナルの前、第12試合。テコンドーの華麗なムーブ、スリリングな試合展開、柔和で美的な容貌。観客人気が彼の地位を一気に押し上げた。

2016-04-17 13:14:22
プロキオン @MMMwithbe

フジキドはオープニングセレモニーの時間から入場したが、実はセレモニーより前の時間にも多くの試合が行われた。ダークマッチ、すなわち公式試合プログラムには記載されない前座試合。無名の格闘家たちが成り上がりを目指してシノギを削る。リングマットに点々と残る赤い染みがその激しさを物語る。

2016-04-17 13:14:40
プロキオン @MMMwithbe

ダークマッチは実際オスモウの伝統を踏襲した試合形式である。最近の過剰演出ショーアップが施されたオスモウ興行であっても、ホンバショ(訳注:リキシ・リーグ決勝トーナメント)の行われるゴールデンタイム以前、午前中から無名スモトリの何百という無演出試合が組まれているのは昔と変わらない。

2016-04-17 13:14:56
プロキオン @MMMwithbe

無名の格闘家たちが、同じ道を目指す者たちとユウジョウを育み、あるいは嫉妬や憎悪をぶつけ合い、ダークマッチの勝敗によって本戦に上がる者とふるい落とされる者との明暗が分かれる、NSTV独占放映のリアリティ・ショー。これもTKグランプリの重要なコンテンツであり主催者収入の一角を占める。

2016-04-17 13:15:28
プロキオン @MMMwithbe

ファランもそうした厳しい競争を勝ち上がってきた格闘家の一人である。昨日聞いたミナの話によれば、TKグランプリのオファーが来るまでのペク家の生活は、ドージョー・オーナーといえど比較的慎ましく堅実なものであったという。テコンドーというカラテ流派自体、日本では全く有名でなかったからだ。

2016-04-17 13:15:41
プロキオン @MMMwithbe

ファランを脅迫し門下生を襲撃した輩が、アマクダリ・セクトに属する者か、否か。それがニンジャの行為であるか否か。まずそれを確かめねばならない。関係のないモータルのヤクザクランであれば、証拠を揃えてマッポに提出すればよい。ニンジャであれば、インタビューの上で殺す。慈悲はない。

2016-04-17 13:15:58
プロキオン @MMMwithbe

休憩時間が終わり、第1試合の出場選手の入場が始まった。ニンジャ観察力をもってしても、万を超える観客の中から不審者を見つけ出すのは容易ではない。試合中にうろついて会場セキュリティに見とがめられるのは避けたい。フジキドはやむなく、2階席ヒガシ・エリアの立ち見席に紛れ込んだ。

2016-04-17 13:16:12
プロキオン @MMMwithbe

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2016-04-17 13:16:22
プロキオン @MMMwithbe

「これより第12試合を行います!」リングアナウンサーが手元のメモを読み上げる。観客の歓声と期待の熱につられて、アナウンサーの声も若干昂ぶっている。既に両選手は入場し、それぞれのコーナーで臨戦態勢を整えている。

2016-04-17 13:16:36
プロキオン @MMMwithbe

「青ーコーナー、208センチ・170キロ。太平洋の荒波に鍛えられた、反逆のポリネシアン・スモトリ! ミナミノーウミーー!」「ドッソイ!」コールを受け、ミナミノウミは両拳を高く突き上げる! 浅黒い肌、短い癖毛の金髪、盛り上がる筋肉と脂肪がベストミックスされたスーパーヘビー級の肉体!

2016-04-17 13:17:24
プロキオン @MMMwithbe

「赤ーコーナー、178センチ・85キロ。『トーシン・ドラゴンズ・デン』シーズン1優勝者! 華麗なるテコンドーの貴公子! ペク・《ザ・マジシャン》・ファーラーーン!」本人が与り知らぬところで二つ名が与えられる! だが戸惑いを一切見せず、ファランはミナミノウミに一分の隙もないオジギ!

2016-04-17 13:18:07
プロキオン @MMMwithbe

両者はレフェリーに呼ばれてリング中央に歩み寄る。試合ルールの最終確認である。この試合は、TKグランプリ公式バーリトゥードルールで行われる。バーリトゥードとは即ち「ナンデモアリ」の意。金的攻撃や目つぶし、噛みつき、髪つかみといった明らかな反則行為を除いて、全ての攻撃が有効となる。

2016-04-17 13:18:33
プロキオン @MMMwithbe

歯をむき出して見下ろし威嚇するミナミノウミに対し、ファランは闘志を瞳に宿しながらも奥ゆかしさを失わない態度で見上げる。マツタケ・カットに整えた柔らかな栗色の髪をキマジメめいて中分け。切れ長の瞳、通った鼻筋、やや太い眉。襟元を黒く縁取ったジュー・ウェアの胸元には引き締まった大胸筋。

2016-04-17 13:18:47
プロキオン @MMMwithbe

近代格闘技史の知識をお持ちでない読者の皆様のために、ここでテコンドーというカラテ流派の概要について触れておかねばなるまい。テコンドーとは、日本のトラディショナル・カラテの複数流派を分析し統合して、第二次世界大戦以降に技術体系を確立した、近代的で躍動的なカラテ流派である。

2016-04-17 13:19:05
プロキオン @MMMwithbe

テコンドーの最大の特徴は、多種多様にして変幻自在のチャギ・キックを主体とする点だ。ジャンプしながらの攻撃も多い。ワザの修得にはしなやかな柔軟性が不可欠。どっしりと地面に根を下ろして構え、セイケンヅキやケリ・キックの直線的な突破力を重点するトラディショナル・カラテとは対照的である。

2016-04-17 13:19:26
プロキオン @MMMwithbe

カラテ・パンチに類するワザもあるが、あくまでもワン・インチ距離の攻防を捌くためのもの。テコンドーの武器は、スピードと長いリーチ、そして見切りにくい動作を併せ持つ各種チャギ・キックである。一方、投げ技や関節技は技術体系からオミットされている。打撃技を突き詰めて特化したカラテなのだ。

2016-04-17 13:19:40
プロキオン @MMMwithbe

ペク・ファランはこれまで出場したTKグランプリの全試合にKOもしくはTKOで勝利しているが、すべて打撃ルールの試合であった。当然である。一旦地面に組み伏せられたら、彼が勝てる可能性は限りなく低い。だがこの試合、ミナミノウミ側が要求したバーリトゥードルールを、ファラン側は受けた。

2016-04-17 13:20:20
プロキオン @MMMwithbe

格闘技評論家の間でも、このマッチメイクに関しては「無謀」「危険」との声が少なくなかった。身長差30センチ。体重差は実に2倍、85キログラム。ジュドーやオスモウ、ボクシングなどを愛好される読者の方ならば、体重差が打撃の威力や寝技での圧力にダイレクトに影響することはおわかりであろう。

2016-04-17 13:20:38
プロキオン @MMMwithbe

打撃ルールだとしても非常識なマッチメイク。ましてやバーリトゥードルール。このルールでは、打撃技、投げ技、絞め技、関節技――そして、マウントポジションでの攻撃も、危険すぎるヘッドバットを除いて認められている。ミナミノウミは既にこのルールでのファイトに適応し、何度も勝利している。

2016-04-17 13:20:54
プロキオン @MMMwithbe

リング上で向かい合う二人の驚くべき体格差。高い女性人気に支えられ、全勝街道を走るペク・ファランが、今度こそは惨敗を喫するのではないか。不安と、不謹慎な期待が、リョウゴク・コロシアムの万を超える観客にも、自宅やスポーツバーでNSTVの独占ペイ・パー・ビューを視聴する人々にも広がる。

2016-04-17 13:21:08