ニンジャスレイヤー二次創作【テンダー・ホワイト・ドラゴン・アンド・ブルタル・レッド・ブラック・ドラゴン】#5

プロキオン @MMMwithbe

「確かに私はカラテカではない。だが私にも、ニンジャにとってドージョーがどういう意味を持つものかは分かるつもりだ。それを失うことの重大さも」ニンジャスレイヤーは痙攣するセジョンデワンを見下ろした。「動機がどうであれオヌシの殺人行為は到底看過できぬ。アマクダリ・ニンジャ、殺すべし」

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ニンジャスレイヤーはゆっくりと足を持ち上げた。「ハイクを詠め。セジョンデワン＝サン」セジョンデワンはどうにか仰向けになって、己をカイシャクせんとする人型の災厄を見上げ、不敵に笑った。「『テコンドー／真の恐怖は／この先な』」「イヤーッ！」「サヨナラ！」セジョンデワンは爆発四散した。

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深夜の住宅街に、無遠慮な電動モーター音が響いた。ドージョー玄関の特注装甲雨戸が、左右にゆっくりと開いてゆく。招き入れる意図は明白であった。ニンジャスレイヤーは躊躇することなくドージョー内に足を踏み入れた。彼が通過すると、装甲雨戸はゆっくりと元通りに閉じた。

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ドージョー天井には最新のオナタカミ社製LEDボンボリが輝き、中は十分に明るい。メイン練習場の中央に、ペク・ファランが正面を向いてザゼンしていた。襟元を黒く縁取った純白のテコンドー用ジュー・ウェア。赤黒のニンジャの姿を認めても、その見事なザゼン姿勢は微動だにしない。

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「ドーモ、ヤマモト＝サン。いや、イチロー・モリタ＝サンとお呼びするべきでしょうか。昼間はお世話になりました」ファランは微笑んだ。ドージョーにはテコンドー試合フィールドの範囲を示すため、薄い緑と濃い青の二種類のタタミが敷かれている。ニンジャスレイヤーはフィールドの外側で足を止めた。

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「貴方が帰った後、妻から電話がありました。門下生が襲われた件について、妻が貴方に調査を依頼していたそうですね。結果はどうなりましたか」「襲撃者の身元を調べ、壊滅させた。ひとまずこれ以上の脅迫はあるまい」「アリガトゴザイマス」ファランはザゼン姿勢のまま小さく頭を下げた。

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「セジョンデワン＝サンはたった今、私が殺した」「そのようですね。相手が貴方では、さすがに分が悪い」ファランは動じない。「エゴのために暴力を振るい市井の人々を脅かすニンジャを無視することはできぬ。セジョンデワン＝サンを殺人のために差し向けたのは、オヌシか」「ハイ」

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「ドージョーのためか」ニンジャスレイヤーの突き刺すような視線に対し、ファランは微笑みを消して真正面から見つめ返す。「一つはそうです。もう一つは、家族との暮らしのためです。私が格闘家ペク・ファランとして家族と一緒に生活を続けるために、ドージョーを脅かす者は排除する必要がありました」

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「ミナ＝サンは、オヌシがニンジャであることを知らぬようだな」「ハイ。死が私たちを分かつまで、この事実を伝えるつもりはありません。愛する者が人外のモンスターであると、妻や息子たちに知らせるのは残酷すぎる。避難させたのは、門下生を襲ったニンジャとの殺し合いに巻き込まないためです」

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「よもや、妻のほうが先に貴方と出会っていたとは、さすがに思いもよりませんでしたが」「子供がいるということは、ディセンションは最近のことか」「『トーシン・ドラゴンズ・デン』シーズン1の決勝戦直前です。ニンジャの力を得なければ、私はあのアイキドー使いに勝てなかったでしょう」

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「つまりTKグランプリのオヌシの試合は全て、ヤオチョ・フィクスド・ファイトだな。オヌシは全力で闘っているふりをして試合時間を調整する。その裏でアマクダリが高額の暗黒賭博を運営する」「……ヤオチョと言われれば、否定はしません。ニンジャとモータルでは、そもそも勝負になりませんから」

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ファランの言葉を聞く限り、マネーのために自分からヤオチョに加わったわけではない様子だ。ニンジャスレイヤーは問いを重ねる。「オヌシはなぜ、アマクダリに加担する？　妻や子への愛情、門下生たちへの支援、何もかもが世間を騙すための偽りの姿というわけではあるまい」

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「……ヤマ・マサカツ＝サン」ファランは呟き、唇を噛んだ。苦々しげに表情を歪めて、続ける。「あの人に目をつけられた時点で、私の運命は決まっていたのでしょう。私は彼に勝てなかった。妻と息子を、ドージョーを、テコンドーを守り通す手段は、彼の命令をこなす以外になかったのです」

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ニンジャスレイヤーは試合フィールドに一歩足を踏み入れた。ファランはまだザゼン姿勢を解かない。「一つ、問う。ペク・ファラン＝サン」改めて宣言する。古のニンジャ作法「問い返し」。後で己が抱える秘密を暴露することになるが、それでも明確にしておかねばならぬことがあった。

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「TKグランプリ統括本部長ヤマ・マサカツ＝サン。奴のニンジャネームは何という？」ファランは隠し立ても引き延ばしもせず、素直に問いに応じた。「スパルタカス＝サンです」ニンジャスレイヤーは両目をわずかに見開いた。

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ナンシーと共に調査を続けている、強大なる暗黒管理組織、アマクダリ・セクト。その最高幹部「12人」の中にスパルタカスという名のニンジャがいる。恐るべきカラテ強者であるということ以外、なかなか情報が出てこなかったが……いま、スパルタカスの社会的な身元が確定した。非常に重要な情報だ。

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「では問います。フジキド・ケンジ＝サン」ファランはそう呼びかけた。『ニンジャスレイヤー＝サン』ではなく。『イチロー・モリタ＝サン』でもなく。フジキドは問いに対しニューロン内で身構える。だがファランの「問い返し」は、予想外のものだった。

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「貴方はなぜ、戦いを続けているのですか？　このネオサイタマではソウカイ・シンジケートを、キョート共和国ではザイバツ・シャドーギルドを、貴方は既に滅ぼしました。貴方の仇といえる者は皆、サンズ・リバーを渡ったのでしょう？　それでもなお、アマクダリ・セクトと敵対する理由は、何ですか？」

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数秒の沈黙。互いに相手の目から視線を逸らさぬ。――そしてフジキドは、ゆっくりと答えた。「私が、フジキド・ケンジであり続けるためだ」

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「オヌシの言う通り、復讐は既に終わった。今、私が戦う理由は二つある。一つは、ニンジャの暴力によって人間から人間らしさを奪い、暗黒管理社会に押し込めようとするアマクダリの策謀を阻止するため。もう一つは、私に宿ったニンジャソウルの暴威に対して、人間性という手綱をとり続けるためだ」

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ファランは深く頷いた。「だから貴方は、暗黒非合法探偵という立場に身を置いているのですね。命を落とすリスクを抱えながらも、マネーのためでなく、ニンジャの暴力にさらされ傷ついた人々のために働くことで、人間社会と関わり、人間としてのスピリットを保とうとしている。――よく、判ります」

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「……しかし、私は貴方をここから逃がすわけにはいかない。アマクダリ・セクトの外で、私がニンジャであることを知っているのは貴方だけです。それに遅かれ早かれ、私が貴方と接触したことはスパルタカス＝サンに知られる。そうなれば改めて、アクシスの最精鋭に同行しての抹殺指令が下るでしょう」

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ファランのまとうアトモスフィアがはっきりと変わった。ザゼン姿勢を解き、ゆらりと立ち上がる。「フジキド＝サン。貴方のこれまでの人生と、現在の生き様に敬意を表して、余人の立ち入らぬこのドージョーで、一対一のイクサを申し込みます。ルールはもちろん、ニンジャの流儀に則って」

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ニンジャの流儀。即ち「ナンデモアリ」。アンブッシュのないこの状況では、開始時のアイサツのみが絶対のルールである。ファランのジュー・ウェアはいつの間にか、襟元を黒く縁取った純白のニンジャ装束に変わっていた。頭巾はない。栗色の髪と虹彩は、真冬のドサンコで見られる霧氷の如き銀白色へ。

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静かな殺気を宿した白装束のニンジャは、同じ白色のメンポを懐から取り出して装着した。中央には、赤と青、二種の鮮やかな原色で描かれた神秘的トモエ図形。その図形を挟んで左右に、ミンチョ・フォントで丁寧にカンジが刻み込まれている。向かって左側に「跆」。右側に「拳」。