ケンペイ天狗「ヒア・マイ・ネーム、フレンド。ワレアオバ」

アナ・イゴール @KNPITNG

『アイエエエ！』コワイ！冷酷な提督スラングだ！電話越しでも臓腑を貫く殺気にクロマロは小さく失禁した。「クズめ。情報操作は貴様の仕事だ。戦力も与えた。総力を挙げ子ネズミを捕まえMOを処分しろ。不手際があれば貴様もケジメ、いやセプクだ！」『ヨ、ヨロコンデー！』　7　#ケンペイ天狗

アナ・イゴール @KNPITNG

◆　　　　◆　　　　◆ 8　#ケンペイ天狗

アナ・イゴール @KNPITNG

―――10分後。夜の闇に敷かれた光の帯、ネオヨコスカを貫く深夜のサークル・ハイウェイにおいて中型バイクが貨物トラック達の隙間を縫い走行している。その速度……およそ時速160キロ！9　#ケンペイ天狗

アナ・イゴール @KNPITNG

オレンジ色の瀟洒なフォルムはリバーウェスト社の名作にして迷作の二輪自動車「シウン」の先行試作型だ。跨っているのは青葉……当然、飲酒運転である！「アイエエエ！」座席の後ろで菊月が目を回し叫ぶ！「もっと飛ばしますよ！」バイクは無慈悲にも更に加速！10　#ケンペイ天狗

アナ・イゴール @KNPITNG

これは教育に悪い！皆様には決して真似しないで頂きたい！「は、速――」「敵は海軍上層部！モタモタしてたら追いつかれます！」ギャルルル！車体を傾け巨大トラックから１インチの距離を通過！「アイエエ！」菊月は青葉の艤装にしがみつく！猛烈なアルコール臭！「アイエエエ！」11　#ケンペイ天狗

アナ・イゴール @KNPITNG

あの後、菊月が話した情報は非常に青葉の記者魂をくすぐる話だった。あの痛ましい難民船轟沈、その責任を取らされたイワミ提督は冤罪であり黒幕は他にいるというのだ。「本当ならスクープですよ！」「間違いない！ソナーに敵潜水艦反応は無かった！私は司令の屈辱を晴らしたい！」12　#ケンペイ天狗

アナ・イゴール @KNPITNG

青葉には聞かなかったことにするつもりは毛頭無かった。真実は晒す。即断だ。別に菊月のルビーの瞳からこぼれ落ちた、提督を想う涙にほだされた訳ではない。青葉にあったのはもっと単純な、真実に対する記者としての意地だった。あとは多少の因縁と八つ当たり、そして酒の勢い！13　#ケンペイ天狗

アナ・イゴール @KNPITNG

結果がこの逃走劇である！「で、黒幕の鍵を握るのがそのMOって訳ですか！」「中身は当時の周辺航跡記録だ！上層部から削除命令が出たからその前に持ちだした！」「良い判断です！敵さんが再生する暇をくれないみたいですけどね！」バックミラーに映るはクローンイ級満載ジープ！14 #ケンペイ天狗

アナ・イゴール @KNPITNG

ともあれ青葉は戦うと決めた！まだ見ぬ黒幕に義憤と八つ当たりの拳を叩きつけることに決めたのだ！「記者として許せないですねえ！アー、”元”記者として許せないですねえ！」青葉はニューロン内で自己完結しフルスロットル再加速！イ級ジープを引き離す！「アイエエエエエ！」15 #ケンペイ天狗

アナ・イゴール @KNPITNG

「青葉＝サン！どこに！どこに向かって？」「青葉の職場……じゃない！元職場に行きます！今は民間委託になってるからホントウ・モダン社！MOディスクも見る機材もあるし、そのままIRCニュース発信もできます！」16 #ケンペイ天狗

アナ・イゴール @KNPITNG

「私が言うのもなんだが大丈夫なのか？もうクビになったんだろう？」「まだ社員証データの書き換えも済んでないだろうし酔いの勢いが続くまでは大丈夫！……ッ！」青葉が舌打ちする。艦娘視力が遠く前方から逆走してくるバイク搭乗イ級達を捉えたのだ！ナムサン！挟み撃ちだ！17 #ケンペイ天狗

アナ・イゴール @KNPITNG

「菊月＝サン、しっかり捕まっててくださいね！」「ワッザ！？青葉＝サン、何を」ギャルギャルギャル！青葉はハンドルと同時に思い切りブレーキをかけ、バイクの後輪を派手にスピンさせた！バイクが鋭くU字ターンを描く！「アイエエエ！」18 #ケンペイ天狗

アナ・イゴール @KNPITNG

傾いた車体がアスファルトを掠め火花を吹く！「アイエエエ！」菊月の絶叫をBGMに青葉は艦砲を起動、後方から迫るイ級満載ジープの運転席めがけ射撃した！「イヤーッ！」BOOM！BOOM！「アバーッ！」イ級運転手が直撃を受け爆散！19 #ケンペイ天狗

アナ・イゴール @KNPITNG

CRAASH！コントロールを失ったジープがスピン、道を塞ぐように横倒しになる！「「グワーッ！」」搭載されていたイ級がまとめて死亡！そしてハイウェイ上でデモンズウォールと化した横転ジープに対し、青葉はウィリー走行で防音壁とジープの間を掠めすり抜けた！ワザマエ！20 #ケンペイ天狗

アナ・イゴール @KNPITNG

たまらぬのは前方から高速巡航してきたイ級バイク達である！慌ててハンドルを切り、あるいはブレーキを踏むが間に合わぬ！「アバーッ！」次々とジープに激突炎上！そして遂にジープの燃料に引火し爆発四散！「イキュアバーッ！」ナイスコンボ！噴き上がる炎が夜の闇を照らしだす！21 #ケンペイ天狗

アナ・イゴール @KNPITNG

「ヒューッ！道路交通法無視の示威行動！これも記事に出来そうですねえ！」ギャリギャリギャリ！青葉がバイクの体勢を立て直す。「ザ、ザッケンナイキュー！」辛うじて生き残ったクローンイ級が５インチ砲を構える。「スッゾイキュー！」22 #ケンペイ天狗

アナ・イゴール @KNPITNG

「イヤーッ！」「アバーッ！」だがイ級が砲撃するより早く青葉の砲撃がイ級の頭部を貫いた！「恐縮ですが、青葉の方が早かったですねえ…」頭部を失ったイ級がバイクごと倒れコンクリートに削られながら後方へ消えていく。これでこの場の追手は全滅である！ゴウランガ！23 #ケンペイ天狗

アナ・イゴール @KNPITNG

「ア、アイエエエ……す、すごい……」巡航状態に戻ったバイクの上で菊月は青葉の艤装にグッタリと寄りかかる。「ふふ、こう見えても青葉は熟練艦娘ですから。火力以外には自信があるんですよ」「ああ。でも……ウプッ、流石に乗り物酔ッ」「えっ！ちょっ！待っ！」……ALAS！24 #ケンペイ天狗

アナ・イゴール @KNPITNG

◆　　　　◆　　　　◆　　　　　25 #ケンペイ天狗

アナ・イゴール @KNPITNG

雪が降り出していた。夜は深まり時刻は間も無く日付が変わる頃合い。艦娘二人を乗せたオートバイはハイウェイを走り続ける。ネオヨコスカの都心を貫き高層ビル群の合間を縫うように架けられたサークル・ハイウェイは、まるで光の帯の上を走るかの如き幻想的夜景を作り出していた。26 #ケンペイ天狗

アナ・イゴール @KNPITNG

「BIG安いBIG安いBIG安い……」「3000円出せばガチャが実際無料。クリスマスだからできる」両脇の巨大ビル壁モニタからは赤と緑で彩られた宣伝が降る。「もうあと３０分くらいでクリスマスですか……」「ああ、そういえば……」うとうとし始めていた菊月が目を開く。27 #ケンペイ天狗

アナ・イゴール @KNPITNG

「寝ると死んじゃいますよ」「ああ、すまない」「まあ無理もないですけど」青葉は副砲を器用に後方へ回すと菊月の脇下へと差し入れ、身体を支えてやる。「少しは楽になりましたか？」「あ、ああ。感謝する」菊月が艤装を強く握った感覚が青葉の背中に伝わる。「どういたしまして」28 #ケンペイ天狗

アナ・イゴール @KNPITNG

青葉の酒の熱は既に冷め、精神にはゼンめいた静謐が訪れていた。「ね、菊月＝サン」「ん……？」「もし良かったら、眠気覚ましに貴方の提督のこと教えてもらえませんか？」青葉は歳の離れた妹をあやすように言う。29 #ケンペイ天狗

アナ・イゴール @KNPITNG

「提督……イワミ司令官のことか？」「ええ。菊月＝サンがそこまでして助けたいと思う提督、きっと取材のしがいがあると思うんですよ」車体を傾け、巨大トラックを追い越す。ヘッドライトを受けオレンジ色の車体が一瞬浮かび上がった。 30 #ケンペイ天狗

アナ・イゴール @KNPITNG

「イワミ司令は……愚直な方だ」菊月はポツポツと語りだした。「生き方下手で、どんなことも最後までやりぬけ、が口癖でな。だからいつも裏方の対潜哨戒や輸送任務ばかり割り当てられていた。損な人なんだ」「ええ」青葉はただ頷いた。バックミラーに目をやる。不審な影は無し。31 #ケンペイ天狗