メンタルモデルの自覚的操作能力のお話

開米瑞浩 氏( @kaimai_mizuhiro )の一連ツイート。
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開米瑞浩 @kmic67

人間は、他人との情報伝達のために、そして自分自身が思考するためにさまざまな「表象」を使う。「表象」というのは簡単に言うと「書かれたコトバ」のことで、記号と呼ぶ場合もある。たとえば「リンゴ」と書いてあればそのカタカナ3文字が、現実世界に存在する甘くておいしいリンゴの「表象」なのだ

2011-02-27 23:39:51
開米瑞浩 @kmic67

「表象」は現実世界の何かを切り取って抽象化して表現している。ただしその表象が「情報伝達と思考の道具」という役割を果たすためには、そのコトバを使う人間の脳内に、現実世界に対応する「イメージ」が喚起されなければならない。

2011-02-27 23:40:16
開米瑞浩 @kmic67

「リンゴ」というコトバを見たときに、単にその3文字が「読める」だけでなく、現実のリンゴのイメージがある程度浮かんでくるようでなければ、表象としては役に立たないわけだ。

2011-02-27 23:40:25
開米瑞浩 @kmic67

一方、「アーキテクト」という仕事は、「指示された作業をこなす職種」ではなく、「まだ存在していない新たな仕組みを考える職種」である。ということは、アーキテクトは「まず自分の脳内にメンタルモデルを作り、それを表象(=コトバ)で表して他人に伝えなければならない」わけである。

2011-02-27 23:40:45
開米瑞浩 @kmic67

これは、人が普通に表象(=コトバ)を覚える流れの逆になる。たとえば子供が新たな知識を学ぶときは「現実世界のものとコトバとの対応関係を学ぶことで、自分の中にそのイメージを作る」という流れが基本だが、アーキテクトはそれと反対の動きをしなければならないのだ。

2011-02-27 23:41:03
開米瑞浩 @kmic67

そのため、アーキテクトには「メンタルモデルの自覚的操作能力」が必要になる。「自覚的操作」というところが重要で、つまり「自分がどんなメンタルモデルでものを考えているのかを自覚し、それを変えて動かしてみる」ことが大事なわけだ。

2011-02-27 23:41:20
開米瑞浩 @kmic67

通常は人は「メンタルモデル」をそもそも自覚していないため、意識的に変えることもできない。変えるためにはたいていその前に「自覚」しなければいけない。それがアーキテクトに欠かせない能力のひとつなのだ。

2011-02-27 23:41:29
開米瑞浩 @kmic67

ここで冒頭の「1kgの重さのものを選ぶ」問題を図1とともにもう一度考えてみよう。この問題の誤答が多いことはいったい何を意味するのか。それは実は、「表象とメンタルモデルのリンクが切れた子供が増えつつある」ということだ。

2011-02-27 23:43:18
開米瑞浩 @kmic67

というのは、これは「1kg」のように「実体のない表象」だけでなく、「一円玉」や「ランドセル」のように「現実世界に対応する実体のある、イメージしやすい表象」についてまでも、「表象からメンタルモデルを呼び出せない」、つまり「コトバの意味を実感できない」ということを意味するからだ。

2011-02-27 23:44:48
開米瑞浩 @kmic67

「1kg=水1リットル」という知識のない小学生はありえても、「140ページの本」や「7日」をイメージできない小学生がいるとは考えられない。このような子供の場合、「140ページの本を7日で読む」という表象から「脳内イメージを作り、その意味を実感する」ことができていないと思われる。

2011-02-27 23:46:03
開米瑞浩 @kmic67

「表象からメンタルモデルを呼び出すことが出来なくなっている子供が増えている」としたらそれは大変深刻なことだ。

2011-02-27 23:46:22
開米瑞浩 @kmic67

このような子供が1990年代以降多くなった、という証言が一部にある。単なる計算問題のような、「表象の世界だけで完結する問題」は完璧にこなしてみせるのに、「いったん脳内イメージを描いて考えなければならない問題」になると壊滅状態になるのがその特徴だ。

2011-02-27 23:46:56
開米瑞浩 @kmic67

これが小学校の算数では「文章題が苦手」という現象として現れる。 だが、決して現在の子供だけの話ではない。大人の場合でも同じ問題は起きている。現在43歳の私でも同年代でこのような現象を目撃した記憶がある。

2011-02-27 23:47:24
開米瑞浩 @kmic67

実は、この問題に最初に気がついたのは高校時代なのだ。高校生の時、数学の勉強に関して同級生と話をしているうちに、今回書いたような「表象とメンタルモデルの断絶」という気配を感じることが何度もあった。

2011-02-27 23:47:50
開米瑞浩 @kmic67

昔を振り返ってみると、私自身の「メンタルモデルの自覚的操作能力」を鍛える役に立ったのは、たとえば「銀河系に想像の羽を広げる」とか「頭の中に将棋盤を作って考える」とかの行動だった。

2011-02-27 23:48:45
開米瑞浩 @kmic67

小中学生の頃の私は「宇宙」の話が大好きで、いろいろな本を読んでは「地球から銀河系まで」連続的にイメージを広げて空想に遊ぶことが多かった。

2011-02-27 23:49:12
開米瑞浩 @kmic67

同じく熱中していたのが将棋であって、頭の中に将棋盤を作ってあれやこれやと考えていた。これらが、私の「メンタルモデルの自覚的操作能力」を高めるのに役に立った活動の一例である。

2011-02-27 23:49:15
開米瑞浩 @kmic67

いずれも「脳内イメージ」だけの世界であって、「表象の世界からの情報のインプットはいったん遮断してある」ことがポイントだ。要するに外からの情報はいらないので、目をつぶって考えてもいいことなのだ。

2011-02-27 23:49:29
開米瑞浩 @kmic67

目をつぶれば「読む」ことはできないので、あとは脳内イメージをいじくるしかやることがない。私の場合は、そんなことをしているうちに意図せず「メンタルモデルの自覚的操作能力」がついてしまったらしい。

2011-02-27 23:49:42
開米瑞浩 @kmic67

もちろん、銀河系だの将棋盤だのは私と同じ趣味のある人にしかできないので、同じことを真似ても意味はない。それぞれ自分の好きな分野で「目をつぶって脳内イメージで遊んで」くれればいいことだ。

2011-02-27 23:49:53
開米瑞浩 @kmic67

ところで実はこの「メンタルモデルの自覚的操作能力」ということを考えた場合、「分かりやすい教材」には落とし穴がある・・・・可能性がある。

2011-02-27 23:50:20
開米瑞浩 @kmic67

なにかを勉強するときには「教材」は分かりやすいほうがいいのは当然だ。だがその「分かりやすさ」が、「ビジュアルを過剰に多用する」方向に走ってしまうと、学習者が「自ら脳内でイメージを操作する必要性がなくなり、結果、その能力が育たない」という事態を招く恐れがあるわけだ。

2011-02-27 23:53:45
開米瑞浩 @kmic67

本当に人を育てたいなら、手取り足取り教えすぎるのはよくないのである。

2011-02-27 23:53:50