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不知火に落ち度はない54(早霜)

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不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

その宗教はかつて、『修行すれば霊界と通じ死者の言葉を聞き、人の真実を見抜ける』というものを売り文句にしていた。 ちょうどオカルトブームに乗っかり、その宗教団体はテレビなどでたまに顔を出すことがあった。 特に聖女は印象が強かった。 #不知火に落ち度はない

2017-06-19 16:39:27
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

年端もいかない小学生ぐらいの娘が、大人を相手に言葉を語り、隠していた秘密を掘り起こした。 天眼とやらがついているからだと宗教団体のボスは語り、その背中にはシンボルマークの刺青が施されていた。 その『詐欺』を当時は誰もが称賛した。 それはそうだろう。 #不知火に落ち度はない

2017-06-19 22:43:06
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

聖女は小学生程度の年齢だった。 大人の事情など何一つ知らなそうな娘が大人の秘密を引き当て、その母親の言葉を真似て話すのだ。 物を知らない奴なら確実に信じる。 結果、テレビというショービジネスはこぞって彼女を引っぱり出した。 ブームが去る少しの間だけ。 #不知火に落ち度はない

2017-06-19 22:44:12
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

そして、金を儲けるだけ儲けたテレビは聖女を移すことがなくなり、しばらくしてである。 その宗教団体が資金難から変質した。 この世は苦に満ちている。神の国に導かれるのだとかそういったスローガンを立てて悪質な行動に乗り出した。 #不知火に落ち度はない

2017-06-19 16:46:06
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

それは強引な勧誘から監禁へと発展、そして殺人まで行われたという。 発覚したとたんマスコミは殺人宗教団体ということで総攻撃を開始。 そのまま潰えるかに見えた宗教団体だったが。 この宗教団体は、そこを超えて悪質だった。 #不知火に落ち度はない

2017-06-19 16:48:23
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

彼らはテロ活動を、この日本という土地で行った。 毒物や爆破など、元来ではありえなかった、日本では起こらなかったテロ行為を、である。 通常では考えれない規模の犠牲者が生まれた。 これに当時の司法は対応できず、結果として法律が変更される騒動にまで発展した。 #不知火に落ち度はない

2017-06-19 16:52:03
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

その後宗教団体は解体されたが、その名前だけはいまだに俺と同年代とそれ以上は覚えているだろう。 その教祖であるボスはいまだに死刑待ちの状態で投獄されている。 深海棲艦が脅威となった時代より、さらに前の話であった。 #不知火に落ち度はない

2017-06-19 16:54:39
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

道理で覚えがあるはずだ。ここ、テレビで見たことのある施設の一部じゃねえか。 こんなところにもあったのか。活動は覚えていても、施設までは覚えちゃいねえものな。 危険を察した住民はこの周辺から退去してるわけだしさ。 #不知火に落ち度はない

2017-06-19 16:56:23
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

そして、ボスは投獄されたがその娘は──『聖女』はその後誰も語る者がいなくなった。 まだ幼かったのもある。ボスの言いなりになってさまざまな事をしたが、それはボスの責任であるから。 だから『聖女』なんていなかった、というのが世間の反応なのだろう。 #不知火に落ち度はない

2017-06-19 16:58:18
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

そして、ズタズタに切り裂かれたその背中。 長く伸びた髪の毛の間から見える、その面影。 二つを合わせれなければ、きっと早霜は普通の人生を送れたのだろうが。 その二つがそろってしまってるからこそ、早霜は狂った人生を背負いこみ続ける羽目になったのだ。 #不知火に落ち度はない

2017-06-19 17:00:00
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

髪の毛を長く伸ばし、片目を隠す理由も単純だ。 髪の毛を持ちあげれば、面影がそっくり残ってるのだ。 その長い髪の毛は、背中の傷を隠すにも役立つのだ。 不自然なほどに長い髪の毛をなびかせ歩くのは、決して洒落っ気でやっているわけではなかったのだ。 #不知火に落ち度はない

2017-06-19 17:01:19
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

全ては自分自身を隠すため。 故に艦娘となった理由も、推測できる。 早霜は、人生を投げ捨てて生まれ変わりを望んだからなのだろう。 だが── #不知火に落ち度はない

2017-06-19 17:02:09
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

だが、その背中にある刺青と、ズタズタ引き裂かれた傷は否応なしに彼女を引き留める。 刺青自体は現在の治療で消せたとしても、この傷跡まで消すのは不可能なのだ。 それこそ、背中の皮膚を引きはがし、もとから張り替えない限りは。 #不知火に落ち度はない

2017-06-19 17:03:49
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

そして、同時に俺は。 龍田の作戦──いいや。 龍田の『お願い』を理解した。 ああ、そうか。そういうことかよ。 お前俺にこういう事ばっか押し付けてくんなよ、頼むから。 正直面倒見切れないんだよ、お前の抱えてる案件はさ。 #不知火に落ち度はない

2017-06-19 17:04:54
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

きっと早霜にその事情は話してないんだろう。 俺のところに入って働けとだけ吹き込まれたし、俺にだけはこの傷のことを教えておけと言ったのだろう。 早霜は、その事自体に酷く怯えながらも、龍田の命令だから従ったのだ。 #不知火に落ち度はない

2017-06-19 17:06:36
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

龍田がアウターヘブン──国内に戻ることのできない奴が逃げ込める国のボスだから。 ただ、それだけの理由で従い、俺にその致命的な傷を見せたのである。 記録されたくないわけだ。 誰かと一緒に遊んだりもしないわけだ。 ばれた瞬間に地獄に落ちるのだから。 #不知火に落ち度はない

2017-06-19 17:08:22
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

工廠課の連中にも背中を預けられない。 だから出撃を避けて秘書艦業務にだけ、就いていた。 非番にどこにも行かず姉妹と話していた。 もちろんそれも、秘密を共有できる相手と話せる唯一の時間だったからである。 #不知火に落ち度はない

2017-06-19 17:11:26
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

ああ、だめだ。ため息が出る。 たしか前に北上様が言ってたな。 どっかの教官が発狂して病院送りになったって。 それは早霜が、やはり引き金となっていたのである。 早霜はおそらくその時一度、バレてしまったのだろう。 背中の傷はもしかすると、それが原因か。 #不知火に落ち度はない

2017-06-19 17:14:12
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

あとは、そうか。 俺の選択次第なわけか。 この早霜という哀れな哀れな『元聖女』様をどう扱うか、俺で選べってことか。 そういうことなんだろう、龍田よ? 俺が切れるカードを。 持ち腐れにしてるカードをお前は吐き出せと。 #不知火に落ち度はない

2017-06-19 17:15:32
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

タダで。そう、タダで吐き出せと。 あいつのことだ、不可能なら不可能で良し。 俺が黙ってるから、次は別のところにアプローチでもさせるんだろうな。 早霜は御覧の通り『何でも聞く』ようなタイプだ。 少々怪しい所にでも、投げ込んでしまえって言うつもりか? #不知火に落ち度はない

2017-06-19 17:17:02
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「……。早霜、銃を下ろせ。しんどいだろう」 「内緒にしてくださるのなら」 ああ、当然だろそんなん。 こんなん口にして広めて回るなんてできねーよ。 「座れ早霜」 ぽんぽん、と俺の隣を叩く。 え、と呟きそして顔を赤らめ逡巡して、腰を下ろす早霜。 #不知火に落ち度はない

2017-06-19 22:44:54
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

手を伸ばせば触れられそうな距離で、早霜は小さく震えながらこちらを見ている。 腕も。足も。その大人びた──いや、大人まがいの下着とは正反対に細い。 肋の浮いた肉付きの薄さに小さな背は、苦労がそうさせてきたのだろう。 よく見れば火傷の後もいくつか、見えた。 #不知火に落ち度はない

2017-06-19 17:23:04
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

火傷は俺の物とは違う。肉が盛り上がる1、2センチのものだ。 それが二の腕と、腹部と、尻についている。 その火傷の跡がどういう意味の物なのか、聞かずともなんとなくわかっている。 全身に悪意の痕を早霜は刻まれていたのだ。 #不知火に落ち度はない

2017-06-19 17:24:56
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「なあ、早霜。ちょっとだけ、聞きたいんだがさ」 「は、はい?司令官……ええと、ええと御覧の通りで……」 うん。たぶん誤解されてる。 これからなにされるのかとか、変な想像をしてる。 悪いな、俺の好みじゃない。 「お前、ジョーク好きなの何で?」 「え?」 #不知火に落ち度はない

2017-06-19 17:26:30
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「あの……ええと」 ぱちくり、と瞬きをして早霜は、こう答える。 「その…楽しそうだなあって思ったんです」 「楽しそう、か。まあ連中気苦労も多いぜ?」 「いえ、違います司令官……コメディアンは人が、笑うでしょう?」 早霜は目を楽しそうに潤ませた。 #不知火に落ち度はない

2017-06-19 17:28:32
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