不知火に落ち度はない54(早霜)

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不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「何かしゃべるたびに人が笑う。何かしてても人が笑う。すごく……いいことです」 ああ。参ったな。 そういうことを言われると、心底俺がつらくなるじゃないか。 お前の願いが純粋すぎて、おじさんまぶしくて目を開けてられなくなるぞ。 #不知火に落ち度はない

2017-06-19 17:30:20
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「私は嘘を口にして人を泣かせて、だましたから。その分だけ人に笑ってほしいんです……」 表情は、髪の毛で見えない。 ただ、言葉は空虚さを抱いた、しかし重いもので。 「要勉強だな。まだまだ俺が笑うレベルに達してないぞ」 「はい……努力します。司令官」 #不知火に落ち度はない

2017-06-19 17:32:44
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

さて、これで俺へのダジャレ攻撃がきっと、明日からより凄惨なものになるが、そこは覚悟しておくとして次だ。 「で、八十八か所巡りとかしたいみたいだけどさ」 「え……ご存じなんです?」 「おうよ。八十八か所行きたいオーラ出てた」 「あら……それは、それは」 #不知火に落ち度はない

2017-06-19 17:34:22
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

驚きました、と早霜は言うが。 多分嘘だとばれてるな。つーか早霜は『聖女』だし。 誰の嘘も普通に見抜けるぐらいに賢い娘であるはずだ。 ただ、行動の理由がわからず、他人には度を越した変人に見えるように装っているのだろう。 それが、早霜の被った仮面だから。 #不知火に落ち度はない

2017-06-19 17:36:05
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

ただ、その行動の底には必ず理由がある。 この面白い生き物を装った『元聖女』様の考えを聞いておきたかった。 「……神社を巡るのは、大した理由じゃありません」 「気になるから教えてくれよ」 ほらな。簡単に答えたくないものは避ける。 #不知火に落ち度はない

2017-06-19 17:38:05
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「どうしても、ですか?」 「どうしても。なんなら龍田に頼んで聞き出してもらう」 「困りました……」 ふるふると首をふり、ふうと、溜息を吐くと早霜は言う。 #不知火に落ち度はない

2017-06-19 17:38:55
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「司令官は八百万の神様は、ご存知ですか」 「おう。あっちこっちどこでも神様はいるってアレな。便所にもいるそうだが、マニアックだな」 冗句を並べながら早霜の言葉をゆっくりと引き出す。 本音を聞いておきたかったから。 聞かねば、俺も切りにくいカードだから。 #不知火に落ち度はない

2017-06-19 17:40:55
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「それだけいるなら、どこかにはいると思うんです」 「何が?」 「神様を語って、嘘をついて、人を騙した私を、救ってくださる神様が」 #不知火に落ち度はない

2017-06-19 17:41:57
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

それがどこまでも浅ましい願いで。 それがどこまでも汚れた願望だとしても。 救われたい。早霜はそう言ったのだ。 助けてほしいと、そう願ったのだ。 どこの何とも知れぬ、物言わぬ神々に。 #不知火に落ち度はない

2017-06-19 17:43:11
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「早霜。八十八か所は寺だぞお前。神社巡りだけにしとけって」 「……あら、気づきませんでした。うっかりです」 微笑みそう言う早霜。 だが、救われるなら神も仏も関係ないのだろう。 あくまで形の上で巡るというだけで、願い祈る対象は無数にあるのだろう。 #不知火に落ち度はない

2017-06-19 17:46:26
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

そいえば埠頭の主である北上さまも言ってたからな。 時々早霜は朝日に手を合わせて、祈ってることがあるって。 いろんなものに祈りすぎではなかろうか。 だから変人扱いされるんだお前は。 北上様から変人と言われるのは相当だぞ? #不知火に落ち度はない

2017-06-19 17:48:05
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「そっか。救われるといいな、早霜」 「はい。……いつか、きっと、叶うと──嬉しいです」 そっかそっか。 やれやれ。 じゃあ、いっちょ救うとしますか。 お前に祈られたことはないんだけどな、早霜。 これからは兵頭大明神として朝晩祈ってくれよ。 #不知火に落ち度はない

2017-06-19 17:49:44
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「悪い。ちょっと電話かけていいか?」 「……? はい、どうぞ」 一瞬早霜は何を言い出すかと考えて、しかし俺にスマホを差し出してきた。 通話画面を立ち上げて、俺は『ドクター』とだけ書いてある番号をタッチした。 #不知火に落ち度はない

2017-06-19 17:53:29
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

『やあ兵頭君じゃないか。兵頭君だね? 君兵頭君だよね? お久しぶりすぎたよ、電話を君からよこすなんてさ。とうとう僕に頼りたくなっちゃってやつかな~? いいんだよ良いんだよもう準備はできてるからさ!』 うざっ。 早くもこの時点で俺後悔中。 #不知火に落ち度はない

2017-06-19 17:55:54
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「ようドクター、お久しぶり。おっしゃる通りで頼みたいんだよ」 『オーケーオーケーじゃあ手配するからすぐ来て! なーになになに大丈夫。君のためなら患者の3人や4人は見殺しにして君だけの為に執刀するから』 大迷惑だなアンタやっぱり!? #不知火に落ち度はない

2017-06-19 17:58:31
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「じゃ、明日そっちいくから頼むわ」 『24時間戦う体制でお待ちしてるからいつでもおいでー。待ってるよー』 はい。通話オフ。 今の会話で3年分ぐらい寝られるぐらいの疲労感がでてきやがった。 あのドクター、腕はいいけど気に入る相手との落差凄すぎなんだよ。 #不知火に落ち度はない

2017-06-19 18:00:41
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「じゃ、早霜。電話はもういい。そろそろ寝ようぜ」 「え? ……はい」 もぞもぞと布団の中に入り込んでいく早霜。 俺がそういうのをいたす気がない、というのはよくわかってるのだろう。 だがツッコミを一つ入れてほしいのはわかる。 #不知火に落ち度はない

2017-06-19 18:03:01
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「それ俺の布団じゃね?」 「はやしもまくらです」 よーしどこもボケてない感じのボケが来たぞー。 調子戻ったな早霜。 お前を布団でくるんでリアル枕にしてしんぜようか。 #不知火に落ち度はない

2017-06-19 18:03:59
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「……風呂入ってくるから、それまでに」 「はい。お布団を温めておきますね…♥」 「お前は豊臣秀吉か!」 ぼふっとツッコミだけはいれといた。 やたら満足そうな早霜がそこにいた。 #不知火に落ち度はない

2017-06-19 18:05:09

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

その翌日である。 早霜をとある病院にまで送った俺は現地の活動へと戻っていった。 俺のお隣にはぬいっとしたドーベルマンがいて、じとっとした目で俺の運転を見ている。 どうやらぬいっとしたこの番犬は俺に文句を言いたいらしいのだ。 #不知火に落ち度はない

2017-06-19 18:07:39
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「それで。司令、昨晩から昼まで作戦区域を無断で離れて何をしていたのでしょうか」 「機密につきお答えできません」 「正式な辞令なしにの急な秘書艦交代についても、説明がありませんが」 「機密につきお答えできません」 答えねば殺すって目つきはいつも通り。 #不知火に落ち度はない

2017-06-19 18:10:40
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「早霜は今どこにいるのでしょうか」 「しばらく持病につき入院。1月はかかるみたいだ」 おーおー睨む目がそうとうきっつい。ハシビロコウ先生と互角レベルにまでなってるぞお前。 君は睨みつけるのが得意なフレンズなんだね! やっばーい! #不知火に落ち度はない

2017-06-19 18:12:09
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「アウターヘブン預かりの戦力だったはずなのでは? 不知火の訓練時間がまた減ることについての釈明をどうぞ」 「お前が頼りだぬいぬい。明日から頼む」 「貼り倒してよいでしょうか、司令」 「言う前にスイング始めるのやめとこうぜ、不知火」 マジ怖い。 #不知火に落ち度はない

2017-06-19 18:13:48
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

『これは君の頼みだから聞くけど。本当にいいんだね? これは君の為だけに用意した培養皮膚だよ?』 『不思議なことに血液型が同じなんだよ、早霜は』 『拒否反応の話じゃないよ。そんなの出ないに決まってるとも』 『じゃあやっとくれ』 ドクターの話を思い出す。 #不知火に落ち度はない

2017-06-19 18:16:54
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