異世界小話~異世界ものでも「おねショタ」はやっぱ最高なんだよなって話~

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帽子男 @alkali_acid

地獄の猟犬団を名乗る、看板を立てた人物を、当の地獄の猟犬の幼獣は気に入らなかったらしい。 草採は顎を指でつついだ。 「地獄の猟犬団て、いくつもあるのかなぁ…?」 ひとりごちてから、かぶりをふる。父親を探さなくては。取引のある薬種屋の人々は無事だろうか。 「…早筆さん…」

2018-01-29 23:13:49
帽子男 @alkali_acid

薬種屋の受付で働いていた早筆という女性は、もういないはずだった。商工組合の会館に近い、工芸町の方で絵描きの見習いをしている。 先程、呼び出しの大釜を使ったとき、そちらに送ってもらおうかという考えが少年の脳裏をかすめたが、結局そうしなかった。 「…でも…」

2018-01-29 23:16:00
帽子男 @alkali_acid

もし早筆が工芸街の潰れた建物の下にいるとしたら。 助けが駆けつけてくるのを待っているのだとしたら。 草採は華奢な肩を細かく震わせてから、住処へ駆けだす。 「お父さん。お父さんを見つけたら、早筆さんを探す。順番にやる…」 だが家はなくなっていた。薄々分かっていた通りだった。

2018-01-29 23:18:56
帽子男 @alkali_acid

「うっ…お父さん…俺…」 考えがまとまらず、しゃがみこんでしまう。迷宮で恐ろしい魔物とも出くわし、妖精や龍も見たのに、草採自身はちっとも強くも賢くもなっていなかった。混乱し、狼狽し、頭を抱える。 「どうしよう…どうしたら…」 やっぱり皆と一緒にいるべきだった。また失敗した。

2018-01-29 23:21:20
帽子男 @alkali_acid

「おぉお?草採!草採じゃあねえか!」 なつかしい声がする。振り返ると、父親が走り寄って来るところだった。 びっくりしてまじまじと見つめる。元冒険だった男は、迷宮で魔物に片脚をかじりとられ、歩くのも苦労していたのに。いつのまにか新しい足が生え、機敏に動いている。

2018-01-29 23:23:27
帽子男 @alkali_acid

「お父さん…その足…?」 「おお、こりゃ…東の錬金術師の細工よすげえだろ。これで俺も現役復帰ってやつだ!」 ずっとこわばっていた、あどけない容貌が、花開いたように喜びにあふれる。 「ほんと!?」 「おう!そうだ草採、お前に預けてた青銅紋章は返してもらうぜ」 「う、うん」

2018-01-29 23:25:10
帽子男 @alkali_acid

父親が腕を伸ばしたところで、黒い仔犬が二匹、不機嫌にうなる。 「なんだあその犬どもは…おい、気に入らねえぞ!追い払え」 「え、いい子達だよ。俺、なんども助けてもらって」 「親に口答えするんじゃねえ!」 男がどなりつけると、少年は細い首を縮める。幼い魔物達はもう飛び掛からんばかりだ。

2018-01-29 23:27:10
帽子男 @alkali_acid

「だめ!…行って…お前達も、お父さんお母さんのところに帰りなよ…ね、俺は…もう、お父さんがいるから…守ってくれなくていいんだ」 小さな地獄の猟犬は、信用できないという眼差しで、義肢の元冒険者をねめつけたが、息子の方の心配げな面持ちに注意を移すと、ぱっと黒い靄になって消えた。

2018-01-29 23:29:19
帽子男 @alkali_acid

「ま、魔物か!?」 「う、うん」 「草採!知らねえあいだによくねえ連中と付き合ってたんじゃねえだろうな」 「ちがうよ。俺は…ただ」 「こっちも、勝手に使わせてねえだろうな」 父親の指が華奢な背を滑って、草採の尻朶を鷲掴みにし、わが物顔で揉みほぐす。 「痛っ…」

2018-01-29 23:31:37
帽子男 @alkali_acid

「ふん。ちっと固くなったか…ほぐしなおさなきゃならねえようだな」 「お父さん…だめ…ねえ…逃げなきゃ…ここ…魔物が…」 「分かってる分かってる。お前を連れてきゃ剛零飲み放題の時間も伸びるし、雅茶も余計に引けんだ…だが、さっきはひどい目にあったんだよ。このむしゃくしゃをおさめにゃ…」

2018-01-29 23:33:18
帽子男 @alkali_acid

下卑た嗤いがひびく。 父親のものではなかった。少年がぎょっとして視線を上げると、道のむこうに、けばけばしいみなりの初老の人物が立っている。 「片脚。精が出るのぉ」 「れ、錬金術師様…どうして…」 「わしを置いてどこへ行く。まだ仕事は残っとるぞ」

2018-01-29 23:34:55
帽子男 @alkali_acid

錬金術師はあごをしゃくる。 「さあこっちだ。お前にももう一働きしてもらわにゃならん…その子供は…ふむ…お歴々の暇つぶしの役には立つかの連れてこい…ただし逃がさんようにな…ほれ」 東方人がばねじかけで何かを撥ね飛ばしてくる。首輪と綱だった。 「こいつぁ…」 「奴隷用じゃ」

2018-01-29 23:37:19
帽子男 @alkali_acid

初老の男はじっと、草採を射抜くような視線を投げた。 「ガキだが…修羅場をくぐってきた風貌じゃ。いけ好かん。しっかりつないどけ」 「…へ、へい」 息子ははじかれたように父親を振り返る。 「お父さん、うそだよね?そんなこと」 「お、親に逆らうなつってんだろ」

2018-01-29 23:39:14
帽子男 @alkali_acid

義肢の冒険者が、首輪をはめるとき、結局少年は逆らわなかった。 乱暴に綱を引きながら、男は小走りに主とあおぐ相手に追いつこうとする。 「い、いったい何が始まるんで」 「終わる、というべきかな。この街が。もう時間はない…といって…時間そのものが…どこかおかしくなっておるがな」

2018-01-29 23:41:17
帽子男 @alkali_acid

「時間?」 「気づいておるか、空のようすに」 「へえ?」 「まあよい。お前に言っても意味がない。これから会うお歴々には失礼がないようにな」 三人はやがて、奇妙に開けた場所にたどりつく。またも誰かが剛腕をふるって片付けたようだった。 空地には多数の影があった。

2018-01-29 23:43:09
帽子男 @alkali_acid

「遅かったではないか錬金術師殿。東の帝国の迎えとやらはいつつくのだ」 「我々がこれまでどれだけ皇帝のために便宜を計らったと思って居る」 錬金術師はおおげさなほどうやうやしく辞儀をする。 「これは商工組合の皆々様、参事会の皆々様。おそろいで…いや肝心の御二方が欠けておりますか」

2018-01-29 23:44:51
帽子男 @alkali_acid

太った男達や権高な女達、陰険な大物達はぺちゃくちゃと喋った。 「商姫の小娘めは草原部族とつるんでおって信が置けぬ」 「白髪の最長老はすでに参事会に席はない」 「もうよいではないか」 「滅びが迫っておるのだろう」 東方人は蔑みを隠しながらなおも慇懃に応じる。 「仰る通り」

2018-01-29 23:47:37
帽子男 @alkali_acid

「されど迎えについてはもうしばらくお待ちください」 「そうそう待つゆとりはねえぞ…」 あとから現れたのは、隻眼の女だ。ほかとは異なる引き締まったうわべをしている。眼帯を外すと、眼窩に義眼をはめこむ。 「あ…ぼ、冒険者の酒場の…亭主…」 草採はつい口に出してしまう。

2018-01-29 23:50:19
帽子男 @alkali_acid

「お前は…草採だったか…一度だけ、酒場に来たな。父親を探しに。運がなかったな」 「え?」 商工組合と参事会の面々がじっと視線を注いでくる。 「おやおやかわいらしい」 「まあお肉が少なめだけど」 「奥様ならひとくちですわねえ」 「母様。僕にちょうだい!」

2018-01-29 23:52:47
帽子男 @alkali_acid

全員が興奮し、舌なめずりをし、とがった歯を剥く。 少年はぞっとした。まるで、まるで、街の一番偉い連中というのは。 「魔物だな」 義眼の女が言い当てると、顔をそむける。 「苦しませるな」 「冒険者というのは無粋でいかん」 「こういうのは生きたまま踊り食いがいい」 「犯しながら食う!」

2018-01-29 23:55:10
帽子男 @alkali_acid

「裸が見たいわ!その子の裸を見せてちょうだい」 「わたくしの好みとしては着衣のままがよいですなはらわたからにじみ出る血の色が映える」 草採はとっさに腰につるした霜の棍棒に手を伸ばす。 「それを振るえば殺すぜ」 冒険者の酒場の亭主が冷たく告げる。

2018-01-29 23:57:32
帽子男 @alkali_acid

「…いや…いやだ…お父さん!助けて!こんなのいやだ!」 息子が省みると、父親は、参事会や商工組合の歴々、それから錬金術師、冒険者の酒場の亭主を順繰りに見て、ひきつった顔になる。 「お、俺ぁ知らねえ…知らねぇ…」 こぼすあいだにも、半魔の群は首輪でつながれた獲物に近づいていく。

2018-01-29 23:59:30
帽子男 @alkali_acid

やがて鮮血がしぶき、声変わり前の喉から悲鳴がほとばしった。

2018-01-30 00:00:09
帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ 薬種屋の娘で、絵描き見習いの早筆は、手持無沙汰になって仮本営を離れようとしていた。たまたま成り行きで世話をしていた白髪の最長老は、もうしっかりした介添がついて、素人はすっかりお役御免のようだった。

2018-01-30 00:02:31
帽子男 @alkali_acid

集まってきた衛士隊やら傭兵衆やらの頭(かしら)と、一介の平民風情にはよく分からない、難しい話をしている。 早筆は邪魔にならないように遠ざかることにした。最長老の車椅子の中から鼻をうごめかせ、こちらを見る羽耳鼠、ちなみに名前を羽髪というが、その小さなおとなしい魔物に手を振って。

2018-01-30 00:04:40
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