異世界小説を夏休みの宿題で書こうと思っているあなたに向けた、異世界とお風呂について中世の歴史をあれこれ図書館に行って調べた日記

山本弘の台詞の中に「僕に対しては妄想で意見をするな、データを出せ」というような素晴らしい言葉がどこかにありました。私の人生の師である山本氏のこの教えの通り、データ(この場合はデータではありませんが、妄想ではなく客観的な歴史的見地という意味でのデータ)を元にお風呂の歴史と異世界について考えていきたいと思った日記です。ただの歴史のお話であり、誰かを批判する意図など一切ありません。誤解されないよう三回言います。ここまでコピペかける3。
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いちのせやよい @iciinoseyayoi

異世界小説というものが流行っているらしいので、夏休みの自由課題でこれから異世界の娼館で入浴する大学生の話でも書こうと思っているあなたに、ざっくりとしたシャワーとオフロと歴史の話でもしてみようと思った日記。純粋に歴史の話であり他意はまったくない。

2018-08-28 12:00:18
いちのせやよい @iciinoseyayoi

「なんと異世界なのに風呂が存在するのである。こいつら、外出先で携帯端末を操作すると自宅の湯船に湯が貯まり、ボタンを押すとミストや泡が発生する風呂という技術がどれほど高度なテクノロジーであることかを知らないらしいwwww」と言われないためにも歴史の勉強は大切である。

2018-08-28 12:01:00
いちのせやよい @iciinoseyayoi

「なんで異世界でグラタンなんて食べるんだ。こいつら冷凍食品や電子レンジというものがどれほど高度なテクノロジーであることか知らないらしいwwwww」と言われないためにも勉強は大切です。まぁこんな批判ありならどんな小説であってもどうにでも批判できるんだけどね。

2018-08-28 12:01:42
いちのせやよい @iciinoseyayoi

一応参考文献を書いとくけど、だいたい歴史なんてものは諸説あってツッコム余地はいくらでもあるので異世界シャワー専門家の方は優しくツッコンでね。まあ、どれか一冊読めば充分なんだけど、調べるときにはそれが一般的な歴史なのか異論がないか裏づけを取るために必要だからね

2018-08-28 12:03:02

吉田集而 風呂とエクスタシー入浴の文化人類学
キャスリン・アシェンバーグ  不潔の歴史
ルーシー・ワースリー 暮らしのイギリス史
テルマエ・ロマエ公式オフロ本 ウチ風呂の作法
不潔都市ロンドン リー・ジャクソン
ヴィクトリア朝英国人の日常生活 ルース・グッドマン
地域の世界史 生活の地域史
風呂の文化誌 山内彰
お風呂の歴史 ドミニック・ラティ
浴場から見たイスラーム文化 杉田英明
裸体とはじらいの文化史 H・P・デュル
温泉の文化誌 大石眞人
裸はいつから恥ずかしくなったか 中野明
シャワーブック

いちのせやよい @iciinoseyayoi

「真逆」という言葉はごく最近出来た言葉(私が生まれた頃はなかったらしい)が、いまや多くの人が疑問を持つことさえなく使っているし、戦前を描いたドラマでも普通に使われている。というような本を読んだ。

2018-08-28 12:03:23
いちのせやよい @iciinoseyayoi

時代小説においても、これと同じようにその時代に存在しなかった単語が使われていたりするけど、時代小説は今の時代の人に読んでもらうために書かれた本なんだからそういうもんだよね、そんなことにいちいち目くじらたてないよねという本である。

2018-08-28 12:03:49
いちのせやよい @iciinoseyayoi

もちろんこの本は、そういう突っ込みをいれて他人を嘲笑って楽しむために書かれたものではなく、言語学から見て言葉がどのように時代とともに変化しているかということが書かれた本である。

2018-08-28 12:04:04
いちのせやよい @iciinoseyayoi

この話を元に何が話したいかというと「シャワーを浴びる」とはそもそも何ぞや、ということである。狭義においてはコックを捻って出したお湯を浴びることなのかもしれないが、お湯である必要はない。シャワーはお湯か水か論争はローマ帝国時代から存在するらしい。

2018-08-28 12:04:26
いちのせやよい @iciinoseyayoi

ではコック捻るではなくセンサーに手をかざすではいけないのか、召使いに命令をするではいけないのかという問題もあるし、シャワーヘッドから出るような水の拡散の仕方をしなければいけないのか、導管から流れ落ちる水ではいけないのかという問題もある。

2018-08-28 12:04:53
いちのせやよい @iciinoseyayoi

「シャワーを浴びる」は「水を浴びる」「水浴びをする」「灌水浴をする」「身体を洗う」等という表現に変換できるが、ではそれらの行為を「シャワーを浴びる」と表記してはいけないのか、という根本的問題である。

2018-08-28 12:05:08

古代ギリシア
紀元前八世紀と七世紀の人びとは、公共の泉水の噴水口の下で沐浴を行なった。それは古代の灌水浴に相当するものだった。この時期の発掘品のなかには、戸外で浴びる
シャワーについて雄弁に物語っているものがある。そこには子どもと女性が肩と頭部に水を受けながら、みずからは胸に水をかけている様子が描かれている。

古代ローマ
使用人用の浴室は質素で、発汗室が付属している場合もあったが、たいていは冷水の
シャワー室に過ぎなかった。それに対して、主人用の浴室には共同浴場を真似て造られた贅沢なものさえあった。

いちのせやよい @iciinoseyayoi

こうして歴史の本にも「シャワー」と記述されているが、「古代なのにシャワーとか超ウケwwww。電車もビデオもないのにwwww。こいつシャワーが高度なテクノロジーって知らないでごんすwww」と笑う人はいないだろう。 この発言はこの世に存在しないのであくまでも一般論である。

2018-08-28 12:06:12

身体に水をかけようと身体を水中に入れようと、それらが全身であれ部分であれ、そこにはつねに入浴(バン)が仄めかされていた。「入浴(バン)」の定義は広く、温泉施設や衛生面のケアまでもが含まれていた。ラテン語の「バリネウム」ないし「バルネウム」に由来するこの単語は、複数だと沐浴が行なわれる施設や個人宅で沐浴が行なわれる部屋を、単数だと入浴する水そのもの、あるいは入浴の行為そのものを指した。九世紀末には温泉湯治にも、また、十六世紀には身を沈める浴槽や入浴する場所にもその単語が用いられた。いわゆるシャワー(ドゥーシュ)は古代から存在したが、それが身体を水中に入れる行為を表す「イメルシヨン」(体を水に浸すこと)と区別されるようになったのはずっとのちのことである。単語自体は新しく、初出は一五八〇年頃であった。パイプに水を導く「導管」を意味するイタリア語「ドッチア」(今ではイタリア語でも「シャワー」の意味で用いる。ちなみに英語の「ドゥーシュ」(douche)はフランス語から入った単語だが、特殊な意味を持つことになった)から変化した語である。

入浴(バン)という言葉は広い意味で捉える必要がある。治療のためであろうと衛生上の理由からであろうと、「入浴」の方法はさまざまだった。灌水浴は冷水か温水をかけるもので、ギリシアでは奴隷の手を借りないもっと簡略な、カトリックの聖水撒布に似た方法が採られた。だが同時に、身体の一部分に限定して、そこだけに集中する「入浴」もあった。それは「局所的」(トピック)と言われたが、その形容詞は十六世紀になって、ギリシア語「トピコス」のもつ医学的意味を付与されたのだった。

いちのせやよい @iciinoseyayoi

つまり、「シャワーを浴びた」でも「灌水浴をした」でも何でもいいのである。その時代ではシャワーとは言っていない、シャワーという表現は駄目というほどの厳密さを求めるなら、ラテン語で表記しようがイタリア語で表記しようが無限に批判することが出来るのである。

2018-08-28 12:06:37
いちのせやよい @iciinoseyayoi

異世界もしくは中世を日本語に落とし込んで表現している時点でその辺はある程度目を瞑っているんですけど、その辺を突っ込むなら無限に突っ込むことになるし、突っ込むあなたも突っ込まれることになります。

2018-08-28 12:07:15
いちのせやよい @iciinoseyayoi

そんなわけで、本によっては古代ギリシャのギムナジウムにあった水浴所で管から出る水を浴びる入浴方法がシャワーの原典とされていますが、原理としては管なり樋なりを頭上に引いて水またはお湯を流すという単純なものですから、それ以前からという本もあります。

2018-08-28 12:07:33
いちのせやよい @iciinoseyayoi

水を浴びたければ自分で浴槽から水を汲んで頭からかければいいし、なんだったら誰かにかけてもらえばいい。古代から共同浴場にはそういう事を仕事にする人がいましたから。

2018-08-28 12:07:51
いちのせやよい @iciinoseyayoi

原理としてはそれほど高度なテクノロジーではないので、結局のところ水と燃料があるかないかという問題と入浴を必要とする土地かどうかという問題になります。

2018-08-28 12:08:06
いちのせやよい @iciinoseyayoi

寒冷地乾燥地では水は貴重で湯を作るのも大変です。チベットやアンデスの高原地帯の人、シベリア中央部のサモイェード人などは入浴をあまりしません。肌が乾燥して垢もぽろぽろ落ちるので平気なのだそうです。確かに私達も冬場は23週間入らなくても平気ですよね。

2018-08-28 12:08:25
いちのせやよい @iciinoseyayoi

あなたの異世界小説の舞台とする場所が植物に恵まれ水にそれほど困るようなところでなければシャワーで水を浴びる事はそれほど問題ではないでしょうし、植物油が燃料として発展してるような科学力があるとしていればお湯もある程度使えるかもしれません。

2018-08-28 12:08:53
いちのせやよい @iciinoseyayoi

ここで古代ギリシャと古代ローマの風習をきっちりわけるのも面倒なので一緒に説明してしまいますが、その頃の共同浴場の入浴料は無料から有料でもわずかな額であり、一般人も利用していたようです。

2018-08-28 12:09:31
いちのせやよい @iciinoseyayoi

どこまでが共同浴場を利用できる一般人かという議論もあるんでしょう。奴隷や召使いは午後から共同浴場に行く主人のお供をしなければいけないので午前中に共同浴場で風呂に入っていたらしい。したがってそのあたりまでの一般人は少なくとも浴場を利用していたと思われます。

2018-08-28 12:09:44
いちのせやよい @iciinoseyayoi

風呂はローマ帝国時代急速に増えていきます。風呂好きなのは役人、商人、軍人、戦士。つまり行動範囲が広い人達がその行動に合わせてどんどん風呂の需要を広げていったわけです。

2018-08-28 12:10:01