【冬の魔女ア合同】強襲!暗黒料理人邪苦!奪われた氷結包丁!その1
「じゃ、邪苦!?」 八助たちは、謎の人物の妙な名乗りに驚いただけだが、それにさらに激しいリアクションを返した者もいた。 「神を食っただと!?そんなバカな!お前に顕れて(あらわれて)いるのは伝説の邪神【ペレケテンヌル】の特徴!貴様はかの邪神に取り憑かれて妄想にふけっているだけだ!」
2018-12-15 10:09:37【コルセスカ】を奪われた料理人、”包丁王"ブラーサームである。 彼は、その激しい否定の言葉とともに、憎々しげに邪苦を睨みつけた。
2018-12-15 10:09:37「本当だよ。私は神に取り込まれたのではない。逆に神を取り込んだのだ。まあ、マズい神だったが調理器具としてはそれなりに使えるのでな」 「なんと冒涜的な!」 謎の料理人邪苦のために、その場はあっという間に厳しい雰囲気となった。
2018-12-15 10:09:38異世界人であるため、その空気についていけなかった八助は、こっそり相方のラムに尋ねる。 「なあ、神を食うってそんなに凄いことなのか?というか、【ペレケテンヌル】ってなんだ?」
2018-12-15 10:09:38「ええと、神様というのは、ヒトとは比べようがないほど強大な存在なのです。だから、ヒトが神を取り込むなんて、不可能なはずなのです。それから、【ペレケテンヌル】は悪いことばかりしている神様ですね。
2018-12-15 10:09:38小さい頃はよく『早く寝ないとペレケテンヌルが来て、マズいジャンク肉に変えられてしまうよ』と言われたものです」 怖がるのがそこなのか、など多少引っかかりは覚えたものの、八助は自分なりに事態を受け止められたようだ。
2018-12-15 10:09:38「なるほどな。まあ、本当かどうかは、これからのアイツを観察して確かめれば良いか。」 そうこうしているうちにも、事態はまた急激に動き出していた。
2018-12-15 10:09:38「返せ!それは試練を正当に乗り越えた私のものだ!」 そう主張するブラーサームに 「そうか。なら使ってみるが良い。食材の調達を他人任せにしているお前に、これが使いこなせるならばな」 と邪苦が、ぽいっと【コルセスカ】を投げ渡したのだ。
2018-12-15 10:09:39「な、この”包丁王”をナメるか!」 眉間にシワを寄せ、憤怒に満ちたブラーサームは、受け取った氷晶の包丁を振りかざして宣言した。 「そこにいろ!すぐに、貴様が今まで見たこともないような最高の包丁技を見せてやる!」
2018-12-15 10:09:39そしてなんと、ブラーサームは、試練のためにたった今作ったばかりの【ブルーダイヤモンド・マカジキ】の刺し身を海中に投じ始めたのだ。 「な、なにをなさるのだ”包丁王”殿!おやめくだされ!」 動揺する悪徳商人。
2018-12-15 10:09:39「黙ってみていろ!」 そんな雇い主を無視して、ブラーサームは海を注視し続けた。 すると……なんと、海中から巨大な影が現れ、宙へと飛び上がったのだ! 「あ、アレは!」 「あれは船が転覆した時の!」 そう、それこそこの北辺海をナワバリとする海の魔獣、【アイスクラッシュ・オルカ】であった!
2018-12-15 10:09:39「キエーーー!!」 すかさず空中に身を躍らせ、包丁を振り抜くブラーサーム。 その斬撃は、一条の蒼い流星となり、狙い違わず【オルカ】を貫いたのだ!
2018-12-15 10:09:39「や、やった…」 閃光から少し遅れ、ブラーサームのそばに設置されたまな板に奇妙な雨が振り始めた。 それは、解体された【オルカ】の肉片。 切り裂かれ、宝石のような光を放つソレこそ、北辺海で恐れられる魔獣の活け造りであった。
2018-12-15 10:09:40「すごい…」 「あれが”包丁王”の実力…なるほど、自慢するだけのことはあるということか」 ブラーサームの見せた技の冴えに、ただ感心するだけの八助たち。 「やりましたな、ブラーサーム殿。いやあ私も鼻が高い。これなら、これからの我々のビジネスも・・・」 すかさずブラーサームにすり寄る商人。
2018-12-15 10:09:40だが… 「ぐ、ぐぅぅ…」 たった今、華麗な技を見せ成功を収めたはずの”包丁王”の様子は、異常であった。 彼は、うめき声をあげ、その右腕を押さえていたのだ。 「どうしましたブラーサーム殿!こ、これは…!」 その場に集った者たちは、すぐにその異常の正体を知ることになる。
2018-12-15 10:09:40都でも名高い料理人”包丁王”ブラーサーム。 たった今伝説の包丁を扱ったばかりの彼の右腕は…凍りつき、手首から先が砕け散っていたのだ! 「な、なぜだ…なぜこんなことに…!」 腕を失った”包丁王”の慟哭が、北辺海の氷山にこだました。
2018-12-15 10:09:41「ラム!薬草と包帯だ!爺さんとイサナは焚き火を頼む!とにかくあっためないと!」 一方、八助の行動は迅速であった。 料理勝負がどうであろうと、まずはケガ人の治療をするのが先だ。 他のことは、後で考えれば良い。
2018-12-20 19:40:31「は、はい!」 「イサナ、薪を集めてきてくれ」 「わざわざ探すより、そこらにあるものを使った方が早いよ!商人のおっさん!祭壇壊しても良いよな?どうせもう役に立ちそうにないし」 「は、え?ええ」 他の人々に指示を出すと同時に、八助自身もブラーサームに駆け寄り手当を試みていた。
2018-12-20 19:40:31だが、その容態は酷かった。 凍てつき砕け散った右手は言うまでもなく、何より傷ついていたのは、その精神であったのだ。 「なぜだ…私は【コルセスカ】に選ばれたはずなのに…なぜだ」 興奮したその口は同じ問いを何度も繰り返し、にもかかわらずその意識は半ば朦朧としている。
2018-12-20 19:40:31ロクな医療設備など無いこの島でこのまま気絶してしまったら、もはや助からないに違いない。 そう考えた八助は、うろたえ続けるケガ人の疑問に答えることにした。 会話を続けていれば、容態が安定するかもしれない。 それは、そうした試みであった。
2018-12-20 19:40:31「角度だ…」 「なに?かく、ど…?」 「そうだ角度が悪かったんだよ。あの刺し身を斬ったとき、最後に包丁が【オルカ】の硬い骨にぶつかっただろ?あの時に、ほんの少しだけ包丁の角度がズレたんだよ」 「そんな…そんなことで…?」
2018-12-20 19:40:32「ああ。その包丁からは常に冷気が出てるだろ?たぶんあの時に角度がズレて、一瞬だけその冷気がアンタの手に触れたんだ。選ばれたとか選ばれてないとかそんな話じゃあない。アレはただの事故だったんだよ」 「そうか…」 衝撃の真実に、”包丁王”はかえって納得して落ち着いてきたようだ。
2018-12-20 19:40:32この会話の最中にも、周囲の人びとは治療に力を尽くしていたこともあり、その容態は安定を見せ始めた。 漁師の老人と孫娘がおこした焚き火、ラムと八助の手当、悪徳商人が渋々出してきた『血液を増やす食材』など、その治療が適切で迅速だったのが功を奏したのだろう。
2018-12-20 19:40:32だが、落ち着き始めた”包丁王”とは真逆に、興奮し始めた者もその場には居た。 皆がブラーサームの治療に奔走するなか、ただ独り虚空にたたずんでいた男。 「ジャークックックッ!アレを見抜くか。少年、よくぞ見抜いた!」 言わずと知れた人物。 "神を食った料理人"邪苦である。
2018-12-20 20:36:37「オルカを解体した斬撃を見抜いたのみならず、負傷の原因をも推理するとは!治療の迅速さや周囲の者への指揮も見事である!」
2018-12-23 07:18:47