【シナリオ】スライム娘③

スライム娘の話
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@akuochiken

「私はなにをやっても満たされない。何をしても、何を食べても。それに、誰と交わっても、結局私には何も残らないの。私のこの身体では誰を抱くことも、誰を受け入れることもできない」 全身を透き通る液体で構成された、女性の姿をしたその魔物は、人間の顔に相当する部分で寂しそうな感情を表した。

2019-05-05 18:47:47
@akuochiken

スライム娘、一般的にその魔物はそう呼称される。 そもそもスライムとは、特定の姿を持たない不定形の液体状の生物。 液体の中に埋もれているコアによって制御され、基本的に他者を自らの体液で溶かして取り込み、生態を維持する。 知能は低く、弱点も明確なため多くの冒険者にとって驚異ではない。

2019-05-05 18:51:53
@akuochiken

それが突然変異か、または人間を取り込むことによって人間の少女へと形を固定している個体が存在する。 それがスライム娘である。 人間らしい思考能力、容姿、そして言葉を手に入れた彼女たちは、それぞれが独自の意思で活動する。 目の前のこの個体は何を考えているのか、私は質問してみた。

2019-05-05 18:57:36
@akuochiken

「言った通りよ。結局、私には何も残らないの。どれだけお互いに心が通じ合っていても、それで私が満たされることはない」 彼女の足元から、ごぽぽ、と銀色の物体が浮上してきて彼女の下腹部へと移動して止まった。 それはよく見ると銀色の金属で構成された、羽根を模した髪飾りのようだった。

2019-05-05 19:02:35
@akuochiken

その髪飾りに、私は見覚えがあった。 その髪飾りが収まった下腹部を彼女の両手が愛おしく撫でる。 「彼女だって、私を愛そうとしてくれた。私を抱こうとしてくれた。だけど彼女の手が、胸が、私の身体と交わるごとに溶けていって、もう、元に戻らなかった」 彼女は再び寂しそうな顔で地面を向いた。

2019-05-05 19:17:31
@akuochiken

「でも、溶けていく彼女は、とても安らかな顔をしていたわ。何も残らない私でも、せめて彼女のことは覚えておこうと、これだけは私の中にしまって、なんとか溶かさずにいる」 私は、その憂いを帯びた彼女の姿に惚れ、かわいい、食べたいという言葉を掛けてしまった。

2019-05-05 19:19:49
@akuochiken

「私を食べたいの? 物好きな人ね。さっきも言った通り、私の身体では誰も受け入れられない、何も残らないの。私があなたの身体に入ってしまったら、あなたは身体の内側から私に溶かされていって、何も残らなくなるわ。それでもいいの?」 かわいいから許すと答えた。

2019-05-05 19:21:15
@akuochiken

「そう、あなたも私のこと、かわいいと言ってくれるのね。さっきの彼女も同じことを言っていたわ。私のこと、かわいい……人間の感覚は分からない。でも、言われて嫌な言葉じゃない。彼女が私にそう言ってくれた情景を思い出すだけで、少しだけ満たされるような気がする」 彼女は再び下腹部を撫でた。

2019-05-05 19:26:41