ア㊙️イさんのお尻と学ぶ海賊の世界(全14回)

最近出版された海賊に関する英語の実証論文の中から、「これは…!」と感じたものをまとめたのだ。大量に出版されている研究の中のごく一部でしかないから、今後追加する可能性があるのだ。 史実・事実・政策に関する部分での誤りがあるかもしれないのだ。お尻さんは海賊研究の専門家ではないから、あまり鵜呑みにしないことをオススメするのだ!
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

国際的な競争力が低下すると、人も資本もその影響を受けない産業(非貿易財or海賊)に流れ込むようになるのだ。その結果、産業構造が輸入依存型(国内製造業の衰退)になるだけでなく、海賊ビジネスに経済全体が依存するようになる可能性があるのだ。 (9/23) pic.twitter.com/5fz9COuB72

2019-08-26 12:16:22
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

つまり、身代金という「資源」が豊富だと、長期的には経済成長が停滞するかもしれないのだ。 資源への依存は国内の他の産業の発展を阻害し、ひいては経済成長をも阻害するというのはよく言われることで、「オランダ病」や「資源の呪い」と呼ばれる現象が身代金にも当てはるかもしれないのだ。 (10/23) pic.twitter.com/T3o907dEub

2019-08-26 12:18:04
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

この研究では、先に示した身代金ビジネスの帰結1-3が実際に起こっているかを分析しているんだけど、ソマリア特有の状況を見事に活用した素晴らしい分析の戦略をとっているから、少し詳しく説明をするのだ。 (11/23)

2019-08-26 12:18:20
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

まずこの研究では、2005-12年にソマリアの海賊に対して支払われた身代金額を月間ベースで集計したのだ。身代金額は大げさに報道されがちだから、新聞報道や各種の報告書を注意深く検討し可能な限り信頼性の高いデータセットを作ったのだ。正直これだけでかなりすごいのだ。 (12/23)

2019-08-26 12:18:41
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

で、ソマリアは複数の自治国と、独立を一方的に宣言したソマリランドという国際的に未承認な国家で構成されていて、現在の連邦共和国政府もソマリア全土を統治できているわけではないのだ。「ソマリア」にあたる領土と「ソマリア」と呼ばれる国家の領域は一致していないのだ。 (13/23) pic.twitter.com/vM3D4cLfdL

2019-08-26 12:19:37
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

この研究が分析の対象としたのは、1991年にソマリアから独立したソマリランドと、1998年に自治宣言を出したプントランドなのだ。この「2カ国」は、地理的に隣り合わせなだけでなく、海賊ブームが始まるまでは経済状況も非常に似通っていたのだ。 (14/23) pic.twitter.com/OHYD3WDJ3U

2019-08-26 12:21:04
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

実はソマリアでは、海賊の供給に関してはかなり地域差があると言われているのだ。この研究に沿って言うと、ソマリランドは海賊が少ないけど、プントランドはめちゃくちゃ多かったのだ。この差を生み出したのは、両国の国家としての「強さ」なのだ。 twitter.com/bot99795157/st… (15/23)

2019-08-26 12:21:57
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

海賊は一体「どこに」現れるのか?ズバリ、「国家の力が及ばない場所」なのだ。海賊は国家による取り締まりから逃れられるような「聖域」を求めて戦略的に襲撃ポイントを決定していることを明らかにした研究があるのだ。 (1/16) pic.twitter.com/EmHU3w3PyA

2019-08-22 17:57:31
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

ソマリランドは未承認とは言え比較的中央集権的な政府を持っていて、ある程度の行政能力を有しているのだ。その一方で、プントランドは自治国ではあるものの、その行政能力は低くて腐敗まみれで、いわば「海賊天国」状態だったのだ。 (16/23) pic.twitter.com/ZcIxagKHsn

2019-08-26 12:22:25
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

それから、ソマリランドとプントランドはそれぞれ流通している貨幣が異なるのだ。ソマリランドはソマリランド・シリングを、プントランドはソマリア・シリングを使っていて、しかもお互いの国でこれらの通貨の間での両替は禁じられているのだ。 (17/23) pic.twitter.com/QNsgGsS5gN

2019-08-26 12:24:50
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

つまり、基本的には両国の為替は直接的には影響を及ばし合わないはずで、そこがこの二カ国を対象にするメリットでもある、と筆者たちは考えたのだ(米ドル経由とかで実質的には両替可能だと思うけど)。 (18/23)

2019-08-26 12:25:20
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

さて、これで分析の背景情報の説明はようやく終わりなのだ。この研究ではこの2カ国それぞれの月間ベースの対米ドル為替レート、畜産物の輸出額、穀物の輸入額のデータを収集し、先の身代金のデータと統合した上で、統計分析を行ったのだ。 (19/23) pic.twitter.com/wNXIzaqiV9

2019-08-26 12:27:19
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

ただ、先に示した身代金のデータは「ソマリアの海賊全体」に対して支払われたもので、ソマリランドの海賊かプントランドの海賊かは区別出来ていないのだ。でも色々な証拠が示すように、ソマリアの海賊の大部分はプントランド出身だから、身代金の効果はプントランドにより強く現れるはずなのだ (20/23)

2019-08-26 12:28:06
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

統計分析の結果、身代金額が増加すると、対米ドル為替レートが上昇し(帰結その1)、輸出額は減少し(帰結その2)、輸入額が増大する(帰結その3)ことがわかったのだ。しかもこの効果は海賊が多いと考えられるプントランドだけに見られたのだ。 (21/23) pic.twitter.com/aGMFPFmz4M

2019-08-26 12:28:47
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

推計によれば、身代金額が950万ドル増えると、プントランドのソマリア・シリングの対米ドルレートは11%、輸入額は170万ドル分上昇し、輸出額は100万ドル分減少するのだ。例えばプントランドの月間平均輸出額は400万ドルだから、かなり経済に影響を与えていることがわかるのだ! (22/23)

2019-08-26 12:29:18
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

今回の話は doi.org/10.1093/isq/sq… からなのだ。 海賊は一時的には消費を拡大させることで経済ブームを起こすかも、というのは前から言われていたんだけど、より長期的に見たときにはむしろネガティブな帰結を生むのでは?という疑問を投げかける非常に面白い研究だと思うのだ! (23/23)

2019-08-26 12:29:36

海賊化するテロリスト:テロ組織の海上進出

ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

海賊行為の犯人はいわゆる「海賊」に限られたものでは無く、例えば陸に拠点を置くテロリストが海賊ビジネスに手を出すことがあるのだ。じゃあ一体どんなテロ組織が海賊化(海上進出)するのか?その問いに300以上のテログループを分析することで切り込んだ研究があるのだ。 (1/16) pic.twitter.com/7MctQzzU70

2019-08-27 12:22:15
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

テロリスト達によるテロ被害は海上にまで及ぶことがあるのだ。例えば2004年にフィリピンのマニラ湾で発生したフェリー爆破事件では116人の民間人が犠牲になったんだけど、実行犯はイスラム主義テロ組織のアブ・サヤフであるとされているのだ。 (2/16) pic.twitter.com/Jnp1Q5gmkL

2019-08-27 12:22:57
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

海上のテロ行為はテロ組織の資金源になることもあって、インドネシアのアチェ独立運動による2000年代初頭の事件に代表されるように、テロ組織は船舶をハイジャックしたり乗組員を誘拐、人質にして身代金を要求することがあるのだ。 (3/16) pic.twitter.com/J78BkwVYdK

2019-08-27 12:23:48
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

1970-2010年に発生したテロ組織による海上での活動の内訳をみると、武装攻撃や爆破が多いとは言え、ハイジャックや人質事件といったこれまで見てきた「海賊」とかなり近い活動をテロ組織もやっていることがわかるのだ。 (4/16) pic.twitter.com/lDllsyVE4X

2019-08-27 12:28:22
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

じゃあ一体どんなテロ組織が海でもテロを行うのか?筆者によればその答えは非常にシンプルで、「その為の資源があれば」、テロ組織は海上に進出するのだ。とすると、次に問題になるのは「どんな資源が重要なのか?」なのだ。 (5/16)

2019-08-27 12:28:59
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

主に陸上で活動するテロ組織にとって、海上に活動範囲を広げるのは人的・物的にとてもコストがかかるのだ。ということは、そもそもテログループとして「強ければ」、その費用を賄うことが出来るはずなのだ。 (6/16)

2019-08-27 12:29:15
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

また、海上進出に必要なのは人員や資金だけではないのだ。船の操舵といった航行の技術・知識から船を襲う “コツ” まで、陸では得られない様々な「ノウハウ」が必要になるのだ。テロ組織はこうしたノウハウを他のテロ組織から教えてもらうことがあるのだ。 (7/16)

2019-08-27 12:29:47
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

まとめると、 ・組織そのものの強さ ・ノウハウの伝達(他の組織とのネットワーク) があれば、テロ組織は海でもテロ行為を働くはずである、という仮説が導かれるのだ。 ということで実証なのだ! (8/16)

2019-08-27 12:30:08
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

この研究では、1998年から2005年の間に沿岸部をもつ地域で活動していた366のテロ組織それぞれの特徴と、彼らが海上でテロ攻撃を行ったか否かというデータを収集・統合し、統計分析を行ったのだ。 (9/16)

2019-08-27 12:30:36
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