江戸時代からすでに差はついていた! 三国志演義はなぜ日本で他の中国文学より人気が高いのか。その理由を解説。

日本において、江戸時代では水滸伝・西遊記の中国文学に比べ、三国志演義の人気があり、現在でも三国志演義を原作とした諸作品やゲームが他の中国文学を元にした諸作品・ゲームの人気を圧倒しています。 また、そのため、中国史の人気においても、正史では三国志が最も読まれ、時代においても後漢末や三国時代といった三国志演義が舞台とした時代が最も人気があると思えます。その源流となった三国志演義の翻訳である通俗三国志の江戸時代からの人気の理由について話した内容をまとめています。
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長尾直茂『「前期通俗物」小考 : 『通俗三国志』『通俗漢楚軍談』をめぐって』の論文解説について

まめ@史記人物大好きクリエイター @mamesiba195

この論文について解説をします。(PDFはあり) 長尾直茂『「前期通俗物」小考 : 『通俗三国志』『通俗漢楚軍談』をめぐって』 digital-archives.sophia.ac.jp/repository/vie…

2020-02-09 09:37:56
まめ@史記人物大好きクリエイター @mamesiba195

以下が論文の内容解説です。 『前期通俗物』と長尾先生が名付けた、江戸時代の元禄―享保時代(1688~1735年)に翻訳された『通俗三国志』を含む演義小説について研究した論文になります。 なお、『後期通俗物』には演義小説以外にあたる水滸伝や西遊記があります。

2020-02-09 09:37:56
まめ@史記人物大好きクリエイター @mamesiba195

『前期通俗物』は、多くが「通俗●●軍談」という書名で刊行されたことから、「通俗軍談書」とも呼ばれます。日本のものとあわせて「軍書」にも分類されます。その多くは通俗小説、特に演義小説の翻訳書にあたります。

2020-02-09 09:37:57
まめ@史記人物大好きクリエイター @mamesiba195

江戸時代における中国通俗小説の受容は、室町時代から受容がはじまったとみられる『剪燈新話』(短編の怪異小説集)などの文言小説(歴史書などで文章語の文言で書かれた小説)にはじまります。その後、演義小説の受容がはじまりました。

2020-02-09 09:37:57
まめ@史記人物大好きクリエイター @mamesiba195

演義小説は、俗語小説(中国の明代の口語である白話で書かれた小説)と違い、俗語と文言が相半ばするため、漢文により文言の翻訳が比較的容易であった日本人に優先して翻訳されました。演義小説の翻訳により、日本で演義小説が受容されたのです。

2020-02-09 09:37:57
まめ@史記人物大好きクリエイター @mamesiba195

『通俗三国志』は長尾先生によれば、元禄四年(1691年)に刊行されています。これは明治時代に収録された『通俗二十一史』という翻訳演義小説を集めた全集の緒言でも、『通俗三国志』の刊行が時宜にかない、好評を博したことを契機として、演義小説の後続小説が生まれたと説かれています。

2020-02-09 09:37:58
まめ@史記人物大好きクリエイター @mamesiba195

また、後続作品には『通俗三国志』の好評をあやかりたい意図が書名にあらわれた『通俗続三国志』も存在し、他の作品も書名に『通俗』とつけられ、『通俗三国志』の影響下にあることが分かります。

2020-02-09 09:37:58
まめ@史記人物大好きクリエイター @mamesiba195

『通俗三国志』は江戸時代後期の「読本」に大きな影響を与え、『絵本通俗三国志』において絵入り・平仮名で刊行され、幅広い層に対する受容が促されました。

2020-02-09 09:37:58
まめ@史記人物大好きクリエイター @mamesiba195

その『通俗三国志』に続いて刊行された作品が『通俗漢楚軍談』です。 これ以上はまとめに余り関係ないため、省略しますが、重要なところとしては、この論文において、こう見なされています。

2020-02-09 09:37:59
まめ@史記人物大好きクリエイター @mamesiba195

すなわち、『通俗漢楚軍談』は、後世の影響の大なる点、異版の数の多さから推測され得る発売部数の多さ、それが示す世上の人気の高さなどの点から見て、『通俗三国志』に十分、比肩しうる作品とできる、と見なされているのです。

2020-02-09 09:38:00
まめ@史記人物大好きクリエイター @mamesiba195

すなわち、少なくとも長尾先生は『通俗漢楚軍談』を『通俗三国志』に匹敵する、それに次ぐ影響力を持った作品と見なしている、ということでしょう。この後、『通俗漢楚軍談』と『通俗三国志』の翻訳者が同じではないかと推測しています。

2020-02-09 09:38:00
まめ@史記人物大好きクリエイター @mamesiba195

これは、『通俗漢楚軍談』が演義小説の翻訳の中でも、かなりの評価を受けた影響力の強い作品であること、また、翻訳者が『通俗三国志』に比べ、劣るとはみなされていないことを表します。

2020-02-09 09:38:01
まめ@史記人物大好きクリエイター @mamesiba195

このことを念頭においた上で、続きのまとめをお読みいただいたらと思います。

2020-02-09 09:38:02

江戸時代に翻訳された他の通俗演義小説(通俗漢楚軍談)と通俗三国志の比較について

まるクルル @maruKRR

@mamesiba195 読みました。ありがとうございます! 「通俗二十一史」の話もありますね。 通俗漢楚軍談の出た時期が通俗三国志と数年しか違わないことを考えると、現在『項羽と劉邦』よりも『三国志』のほうがよく読まれていそうなのは何故だろうと、改めて考えさせられます🤔

2020-02-08 20:15:20
まめ@史記人物大好きクリエイター @mamesiba195

@maruKRR それは双方をお読みになったらお分かりになると思います。(両方とも漢文書き下しで読めます) 私が楚漢をやっているのは「通俗漢楚軍談」を調べる下準備という目的もあります。(続く)

2020-02-08 20:21:35
まめ@史記人物大好きクリエイター @mamesiba195

@maruKRR これは、ただ単に、「通俗三国志」の方が圧倒的に面白いからです。 「通俗漢楚軍談」は横山「項羽の劉邦」の原作でストーリーは大きく変わりません。ですが、売り上げでは三国志と大きく開いています。

2020-02-08 20:22:52
まめ@史記人物大好きクリエイター @mamesiba195

@maruKRR なお「通俗漢楚軍談」の名誉のために言うと、別に「通俗漢楚軍談」は面白くないわけではありません。 通俗二十一史のなかでも五指に入る面白さです。しかし、面白さに大きな違いがあるのです。

2020-02-08 20:24:07
まめ@史記人物大好きクリエイター @mamesiba195

@maruKRR 史書としては史記の方が三国志より面白いという意見も多いでしょうが、文学作品としては完成度が全然違います。 また、三国志の翻訳が李卓吾本であったこともかえって儒教的・皇帝制度的価値観が抑えたれ、日本人に向いていたかもしれません。 以上です。

2020-02-08 20:25:46
まるクルル @maruKRR

@mamesiba195 お話としての完成度の違いですか。 李卓吾本と毛宗崗本の読み比べは少ししかしたことがありませんが、李卓吾本は比較的サイケデリックで刺激的な印象があります。面白いですよね🌟

2020-02-08 20:36:51
まめ@史記人物大好きクリエイター @mamesiba195

@maruKRR 吉川英治先生は数ある中国の通俗小説から通俗三国志を選び、正史の方もある程度は把握されていたようですが、あえて通俗三国志の翻案を行いました。 しかし、通俗漢楚軍談は「項羽と劉邦」を書いた長与善郎先生から原作として酷評され、司馬遼太郎先生は史記をベースにしました。 この差は大きいです

2020-02-08 21:15:00
まるクルル @maruKRR

@mamesiba195 通俗三国志はそれをわざわざ選ぼうと思われた本、一方、通俗漢楚軍談はそれよりも史記のほうがいいと思われた本なのですね。

2020-02-08 21:35:09
まめ@史記人物大好きクリエイター @mamesiba195

@maruKRR 通俗三國志と通俗漢楚軍談はkindleの電子書籍でそれほど高価でない額で発行されているので、見比べられてもよいと思います。 通俗漢楚軍談も横山光輝先生はかなり評価したはずですが、やはり差は大きかったということですね。

2020-02-08 21:42:45
まめ@史記人物大好きクリエイター @mamesiba195

なお、通俗三国志と通俗漢楚軍談の流通の差ですが、これを使って数値で大体の数の差を出すことができます。 「新日本古典籍総合データベース」 kotenseki.nijl.ac.jp

2020-02-09 09:38:02