埼玉県『男女共同参画の視点から考える表現ガイド』の研究(2):表現ガイドの内容検討
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前回記事に続いて、埼玉県男女共同参画課が公開したガイドラインを検討する。
- 男女共同参画の視点から考える表現ガイド(2018年3月作成)
『表現ガイド』各論 ~「アイキャッチャー」論の検討
『表現ガイド』を引き合いにした主張を見ていくと、引用される箇所が特定のページに偏っていることに気がつくだろう。
それは、「女性を飾り物・性的対象物として扱っていませんか?」と題した10ページ目の記載である。
この記事に関心を持って閲覧しに来た読者であれば、『○○プール』の挿絵などはどこかで目にした記憶があるのではないか。
実際、前回記事で取り上げたツイートの中でも、問題の10ページ目に言及が集中していることが分かる。
NHKはともかく、公的広報にはこのガイド📖のような縛りがある、ということは抑えておくべき。 男女共同参画の視点から考える表現ガイド - 埼玉県 pref.saitama.lg.jp/a0309/hyougenn… pic.twitter.com/99rrP1Jra7
2018-10-04 17:56:07@night_wizard @VrTN00VBqngu0cU 結局、個人の権利侵害で思考が止まってしまうのですね。 今の時代は女性の尊厳が大きな問題となっていますことに気がついてください。 参考までに、埼玉県で出している、男女共同参画の視点から考える表現ガイドのページを紹介しておきます。 pref.saitama.lg.jp/a0309/hyougenn… pic.twitter.com/KZ4TB57G8k
2019-10-23 02:57:12宇崎ちゃん献血ポスターの問題で「表現の自由だ」とかわざとなのか本気で思ってるのか分からないことを言っている諸氏に埼玉県のパンフレット「男女共同参画の視点から考える表現ガイド」が非常に分かりやすく答えてくれています。 こういうことだぞ。 pic.twitter.com/mg9SLalkDH
2019-10-22 17:06:41問題の10ページ目は画像ファイルの形式で『表現ガイド』本体から切り離されて広まっている。時には出典がうろ覚えの状態で「公的基準はこれだ」と雑な引用をされることもあるほど、人口に膾炙しつつあるようである。
『表現ガイド』の今の「用法」を考える上で、このページの検討を避けて通ることはできまい。こういうわけで、各論の第1弾として10ページ目の記載を取り上げ、詳しく検討したい。
便宜のため、記載内容を以下に転載する。
(5) 女性を飾り物・性的対象物として扱っていませんか?
伝えたい内容と関係がないのに女性を人目を引くために使用したり、女性の性的あるいは外見的な側面を強調して表現することは、女性の尊厳を傷つけ、性を商品化することにつながります。伝えたい内容にふさわしい表現をするようにしましょう。
- チェックポイント
- アイキャッチャー(広告に注目させるための視覚的要素)
- 性的側面
- 容姿の強調
- 挿絵
- 《変更前》水着姿の女性 → 《変更後》水着姿の男性と2人の子供
- コメント『何を訴えたいのか一目でわかる表現にしましょう。』
検討に入る前に、本文で「チェックポイント」として挙げられている「アイキャッチャー」という言葉の意味を改めて確認しておこう。
アイ・キャッチャー
【英】eye catcher
広告の表現で、見るものの目を引きつけ購入意欲を刺激するために意図的につくられるもの。主にイラストレーションや写真、または各種のキャラクターなどが用いられる。図案化された文字、特定の人物の顔などで表現されることもある。いつもその企業の広告に登場し、シリーズで長く使用されるものと、短期間、一時的に制作されるものがある。
――――――――――――――――――――――――
出典:流通用語辞典 - Weblio辞典(太字は引用者による。)
アイキャッチャー
[英] Eye Catcher
人目を引くための広告宣伝用の絵、写真、文字など。
博覧会、イベント、催事などの会場内で種々のアドバルーンやパビリオンのPR等に使用される写真や看板などを言う。
――――――――――――――――――――――――
出典:日本イベント産業振興協会編『イベント用語事典 』(1999年)- Google Book(太字は引用者による。)
いずれも「広告に注目させるための視覚的要素」という解説から大きく外れるものではない。善悪の価値判断が加えられた言葉ではなく、一般的に使われる用語である(したがって一部で言われているような「モノ化」「性的対象化」だのとは無関係の言葉である)という点を押さえていただければ、この場は充分である。
内閣府男女共同参画局でのガイドラインとして女をアイキャッチャーとして使うことには苦言を呈されている。決まりはあるのだよオタクども…。調べてみれば…。 それでもこの股間ぴっちりスカートが性的だとかアイキャッチャーではない!と言うのであればもう救いようがない まあ救う義理は無いけど pic.twitter.com/HvMvk01sa7
2020-02-14 13:24:24@eri82tom 私は男性ですが、男性だってアイキャッチャーにされるのは迷惑ですよね。 ガイドラインに示されてないから、男性はアイキャッチャーに使われても良いのでしょうか?
2020-02-15 01:51:03そのガイドラインを見るたびに思うのですけど、なんで女性を「アイキャッチャー」として使ってはいけないんですか? twitter.com/eri82tom/statu…
2020-02-15 01:01:261.「伝えたい内容」とは何か
さて、『表現ガイド』の記述を改めて確認しよう。
伝えたい内容と関係がないのに女性を人目を引くために使用したり、女性の性的あるいは外見的な側面を強調して表現することは、女性の尊厳を傷つけ、性を商品化することにつながります。伝えたい内容にふさわしい表現をするようにしましょう。
(太字は引用者による。)
「伝えたい内容と関係がないのに」という条件付きで「女性を人目を引くために使用したり、女性の性的あるいは外見的な側面を強調して表現すること」を避けるよう説いている。
人目を引くことに執着するあまり、本題と無関係な要素が目立ってしまうことで「正確な情報を効果的に伝える」という広報の目的を阻害するおそれがあるためである。
ところで、「伝えたい内容と関係があるかどうか」はどうやって判断するのだろうか。
『表現ガイド』ではプールに関するポスターを例示している。
《変更前》水着姿でポーズをとる女性
↓
《変更後》水着姿の男性と少年少女
「なるほど女性の性的側面を強調した表現だな」、と素直に評したいのは山々なのだが、なにぶんプールに関するポスターなので、女性キャラクターが水着姿であること自体は広報内容に関係ないとは言い切れなくなっている。
幸いなことに、女性が分かりやすくわざとらしいポーズをとっていることから、不必要に扇情的という点で「過剰なアイキャッチャー」と判定することは差し支えない。
しかし、ここで終わってはどうもすっきりしないので、より分かりやすい事例を求めて、内閣府が2003年に発行した『男女共同参画の視点から見る公的広報の手引』におけるアイキャッチャーの事例を見てみよう。
『公的広報の手引』の最初の例では、火災予防週間のポスターになぜか水着姿の女性を起用しており、メッセージとビジュアル要素がちぐはぐでもはや意味不明な領域に達している。なんとも極端な例である。
さすがにここまで来れば「伝えたい内容と無関係」と言い切ることはたやすいだろうが、翻って『表現ガイド』のプールの例はどうだろうか。率直に言って、例示のチョイスがあまり良くなかったのではないかと思われる。
ともあれ、以上で『表現ガイド』の例示を簡単に検討した。しかしながら、たとえば、実際に論争となった日本赤十字社と漫画『宇崎ちゃんは遊びたい!』のコラボポスターのような事例では、イラストが広報と関係が無いと判定できるだろうか。
関係ないだろうと即断される方もいるかもしれない。しかし広報内容との関連性については、たとえば騒動勃発から間もない時期に次のような指摘がある。
地方自治体の広報のガイドラインには、男女に偏った表現や、体の特定の部位を強調した表現は避けるといった表記がある。しかしその前提として「合理的な理由がなく」とあることが多い。様々なコンテンツとコラボしていれば前者が、特定のコンテンツのファンにPRする目的なら後者も問題ないのではないか
2019-10-17 08:36:51埼玉県の表現ガイドには「伝えたい内容と関係がないのに」とあるけれど、今回は、そのコンテンツのファンに献血のことを知ってもらいたいという「伝えたい内容」があるので、問題ないのではないか。
2019-10-18 00:10:28