人参があるなら馬参や狼参そして竜参、神参もあるはず4(#えるどれ)

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前回の話

まとめ 人参があるなら馬参や狼参そして竜参、神参もあるはず3(#えるどれ) シリーズ全体のまとめWiki https://wikiwiki.jp/elf-dr/ 4911 pv 1

以下本編

帽子男 @alkali_acid

この物語はエルフの女奴隷が騎士となり失ったものを取り戻すファンタジー #えるどれ 過去のまとめはWikiからどうぞ wikiwiki.jp/elf-dr/

2020-08-09 18:17:11
帽子男 @alkali_acid

妖精の騎士ダリューテは、不思議の鏡を通って、人間達のもとへやってきた。 魔法の息づく西の果ての至福の地から、科学の支配する狭(はざま)の大地に。

2020-08-09 18:18:47
帽子男 @alkali_acid

ダリューテは、多くの学者や学生が研鑽する学問の都に仮住まいを定めた。 いにしえの言葉や知識を習い修める古典の府の敷地にある小邸が、今は尖り耳の乙女の起居する場所だった。

2020-08-09 18:24:38
帽子男 @alkali_acid

よく丹精した庭には、四季を通じて花々が咲き誇り果が実り熟れ、後背の木立には美しい声で囀るさまざまな鳥が寄り集まる。 濃い緑の葉から馨しい匂いを放つ香草や香木のあいだには、明るい陽射しのもとを赤や黄や黒の蝶が舞い、或(る)は淡い月明かりのもとを青や白や紫の蛾が踊る。

2020-08-09 18:28:10
帽子男 @alkali_acid

艶やかな御影石が縁取る池には、金の斑を散らした蓮が浮かび、湧水の泡とともに煌びやかな鱗の魚が暗い深みから上がっては波紋を作る。 池は四方に海豚を模した真鍮の吐水口が設けてあり、それぞれから清々とした流れが溢れ出ては細い溝に沿って苑(その)の隅々までも潤し、やがて地に潜り消える。

2020-08-09 18:34:45
帽子男 @alkali_acid

表玄関からは柘榴石や瑪瑙などの輝石を敷いた石畳の路(みち)がくねりながら蔓草のからまる門まで続く。 裏口からは、もっと目立たない径(みち)が、やわらかな苔に絨毯のように覆われて、風防ぎの林へと入り込んでいる。

2020-08-09 18:38:43
帽子男 @alkali_acid

苔の径を辿ってゆくと、周囲の樹々は鬱蒼と茂り、まるで深い森にいるかのよう。だがやがて開けた空き地に出る。 石を積み重ねてできた細長い舞台のようなものがあり、階段が備え付けられている。どうやら駅の乗降場だ。 証拠に、黒々とした鋼鉄の乗り物、汽車がぴったりと側に接して停まっている。

2020-08-09 18:41:50
帽子男 @alkali_acid

木立の中の停車場にも、小邸の庭にも、瀟洒な四阿(あずまや)が設えてあって、どちらも軽食や喫茶を楽しみつつ休憩するのにうってつけだ。 今日のダリューテは、機関車のよく見える位置に席をとって、可憐な白蝙蝠の絵柄が入った磁器の椀を手に、じっと物思いに耽っていた。

2020-08-09 18:46:39
帽子男 @alkali_acid

円卓には薄い絹布がかけてある。蜘蛛と双頭の蛇がまるで花や蔦と紛うような意匠で織り込んであり、並んだ茶菓によく馴染む。 中央にある透き通った玻璃の瓶には、まだ何杯もおかわりができるようたっぷり紅茶が満たしてあり、はるか南東の安息の国で作る干した薔薇の花も浮かんでいた。

2020-08-09 18:54:10
帽子男 @alkali_acid

なるほど妖精の婦人の持つ椀からも、華やいだ甘やかな香りが漂っていた。 玻璃瓶のすぐ隣、小鬼と竜の象嵌のある台座つきの銀盆には、鮮やかな黄緑の開心果(ピスタチオ)入り蜂蜜漬け派(パイ)が堆(うずたか)く積んでいたが、太った指が伸び一つまた一つと驚くべき速さで山を低くしつつあった。

2020-08-09 19:01:17
帽子男 @alkali_acid

「おいしいわねん!ほんとにおいしい!」 丸々と肥えた女が朗らかに述べながら、蜜漬け菓子を次々にほおばる。といっても大きな口に放り込むのではなく、左右の肩から生えた蛇の頭に齧らせている。 「ほんと。安息の国のどんな菓子店も負けないわねん!」

2020-08-09 19:04:03
帽子男 @alkali_acid

「お好きなだけどうぞ。汽車の食糧庫にまだ沢山ありますので。お口に合えばこちらも」 妖精の乙女はそう述べ、向かいに座った竜蛇の婦人に三明治(サンドイッチ)も勧めた。蜜漬け菓子ほど手の込んだものではない。耳を落とした白麺麭(パン)に辛子と牛酪(バター)を薄く塗って胡瓜を挟んだもの。

2020-08-09 19:07:39
帽子男 @alkali_acid

「いただくわねん。あらんこっちも絶品ねん!ダリューテさんが作ったのん?」 「ええ。ああ、そちらはスズユキが」 ダリューテが首をわずかに傾げて告げる。ちょうど蛇の頭の一つが、胡瓜が妙に厚く麺麭からはみでたひときれを齧ろうとしているところだった。 「これもおいしいわねん」

2020-08-09 19:10:56
帽子男 @alkali_acid

太り肉の女は頓着なく牙のある二つの口で咀嚼を続ける。 「ああ幸せだわねん。ここのお嬢さんたちに安息の国の言葉を教えるのも面白いし、山から出てきてよかったわん」 「いえ。ザハキ様にはご不便をおかけしてばかり」 ダリューテがへりくだると、ザハキは丸々した頬に靨(えくぼ)を作る。

2020-08-09 19:13:47
帽子男 @alkali_acid

「いたれりつくせりだわん。もっと贅沢を言ってよければ、若くて腹黒い男の脳みそを毎日二個食べたいけどねん」 「不如意にしておりまして申し訳ありません」 「いいのよん。財団の丁級職員だったかしらん?あんまりおいしそうじゃなかったしねん」

2020-08-09 19:15:48
帽子男 @alkali_acid

妖精と竜は薔薇茶を啜りながらもはや地上ではほかに話すものとてめったにない古い言葉で歓談を続ける。 「あたしは不満はないけどん。ダリューテさんは何だかお悩みみたいねん」 「ザハキ様にご心配いただくようなことは何も」 「そうかしらん?何だか…あらん…失礼かしらん」

2020-08-09 19:18:12
帽子男 @alkali_acid

ザハキは喉を詰まらせた片方の蛇の頭をとんとんと叩いてやりながら、口を噤む。 ダリューテは椀を置いて先を促した。 「どうごご遠慮なく」 「そうねん。ダリューテさんが、誰かを心配しているように見えるわねん」 「…そうでしょうか」

2020-08-09 19:20:24
帽子男 @alkali_acid

妖精の乙女は空になった磁器に切れ長の眼差しを落としていると、気をきかせた蛇の頭が角で器用に玻璃瓶を掬い上げ、おかわりを注ぐ。 「あらん。差し出がましいことをしてん」 「ありがとうございます」 「ごめんなさいねん。この子達すっかりダリューテさんになついちゃったみたいねん」

2020-08-09 19:22:43
帽子男 @alkali_acid

ダリューテはまた薔薇茶に口をつけてからふっと視線を上げる。 「誰のことが気にかかっているのか…解らないのです」 「不思議ねん」 「…ただ…眠りから覚めるたび…」

2020-08-09 19:25:18
帽子男 @alkali_acid

妖精の乙女は言い淀んだ。 双蛇の婦人は先を待つ。 「誰かがいなくなったように思うのです」 「探しに行くのが一番ねん」 「誰かも解らなければ、探しようがありません」 「そんなことないわん」

2020-08-09 19:26:59
帽子男 @alkali_acid

ザハキはダリューテに微笑みかけた。左肩の蛇に蜜漬け菓子を、右肩の蛇に三明治をくれてやりながら。 「ダリューテさんは腕の良い狩人よん。自分の獲物を決して見失わないわん」 「獲物…」 「そうよん。あなたがずっと追ってるのは何だったかしらん」 「…黒き…獣…」 「それよん!」

2020-08-09 19:30:33
帽子男 @alkali_acid

尖り耳の女は瞼を伏せる。 「いえ…黒き獣は…今は追わぬつもり」 「黒き獣の主である当代の黒の乗り手…ウィストちゃんに遠慮してるのねん」 「あの子は私に会うのを望みません」 「本当にそうかしらん」

2020-08-09 19:33:52
帽子男 @alkali_acid

太り肉の女は、二杯の茶碗を両手にとって大口を開けた双蛇にそれぞれ飲ませてやる。 「黒の乗り手って素直じゃないところあるのよねん」 「ウィストの考えに間違いはありません。あの子にとって私は白き禍(わざわい)。側にいれば苦しめるだけ」 「苦しむのだってそんなに悪いことじゃないわん」

2020-08-09 19:38:22
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