数学と物理学の理論の違い

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Masahiro Hotta @hottaqu

Theoretical Physicist, PhD. Relativistic Quantum Information, Quantum Energy Teleportation, Black Hole Physics, ... note.com/quantumunivers…

mhotta.hatenablog.com

Masahiro Hotta @hottaqu

また数学と物理学の理論の違いを述べておきますね。数学は、前提や公理を自分で自由に(ただし無矛盾に)設定し、その範疇で厳密に述べられることを証明します。一方物理学は自然を相手にするので、その理論には実験を考慮した適用限界が必ずあるわけです。この点が数学との大きな違いを生むわけです。

2020-12-22 09:10:25
Masahiro Hotta @hottaqu

例えば非相対論的な量子力学での、粒子の位置の固有関数としてのデルタ関数の扱いですが、いくら数学的に厳密に超関数として扱っても、現実の自然ではそのデルタ関数を用いた記述には限界があるわけです。

2020-12-22 09:13:55
Masahiro Hotta @hottaqu

1粒子をある空間点に局在させようとすると、相対論的な場の量子論の効果で粒子生成が起きてしまい、「1つの粒子の位置」という概念自体が壊れてしまうのです。ですから実際の自然では近似的にしか実現しないδ(x-xo)という位置の固有状態を数学的にいくら厳密に扱っても物理学者には意味がないのです。

2020-12-22 09:17:06
Masahiro Hotta @hottaqu

物理学にはエネルギースケールで決まる階層性というものがあり、各階層で適用できる理論が構築できるわけですが、その適用範囲ではない部分まで拡張された数学理論を理論物理学者は使いません。その領域では間違った結論を出すからです。

2020-12-22 09:19:37
Masahiro Hotta @hottaqu

物理学の教科書で数学的厳密性にあまりこだわらないのは、その自然の厳しい現実を物理学者はよく知っているからです。数学を専門にしている方からすれば、物理学者が何を言っているのかもわからないことが多々あるでしょうが、その背景には理論の適用限界の存在があるのです。

2020-12-22 09:22:23
Masahiro Hotta @hottaqu

デルタ関数でも、∫f(x)dx=1となる滑らかな関数f(x)と正数εを使って、Δ(x)=f(x/ε)/εという関数のε→0極限がδ(x)だという理解だけで、適用範囲にある多くの物理に対して十分なのです。これはこの極限で多くの自然な関数ψ(x)に対して∫ψ(x)Δ(x)dx=ψ(0)が成り立つからです。

2020-12-22 09:32:54
Masahiro Hotta @hottaqu

ε→0極限は相対論的場の量子論の効果で多粒子の寄与が必ず出るため、数学的には考えられても物理的には意味のない領域なのです。実際にはεの厳密な零極限をとらずに、適用範囲のある小さな値で止めてしてしまっても、実際の実験データと整合するわけです。そういうことを物理学者は常に考えています。

2020-12-22 09:36:35
Masahiro Hotta @hottaqu

量子力学の教科書でデルタ関数などの厳密な数学的取り扱いをしない1つの理由はこれです。破綻する領域まで厳密に扱うよりも、その未開拓の領域の物理を正しく記述する理論構築に時間とエネルギーを使います。その過程では自然を記述する新しい数学的道具も物理学者は作り続けるわけです。

2020-12-22 09:40:19
Masahiro Hotta @hottaqu

物理の教科書を読んだときの数学者のフラストレーションは計り知れないものがあるでしょうが、それは自然が人類全てに与えるフラストレーションだと理解して頂ければと思います。今後も数学者と理論物理学者のポジティブな交流が学問の新しい地平を切り開いていくことを願っています。

2020-12-22 09:43:34
ザード@ @world_fantasia

@hottaqu 正直な話、この世が量子化されていて離散量である以上実数は実在か? 物理屋が連続関数を仮定して積分したり展開して高次項落とすのは自然かとか考えた後大抵自分は物理にも数学にも向いていないと気づいて悲しくなります ただ、この世が本質的に離散的って考えると時間がすっげえ変に感じる

2020-12-22 10:03:34
Masahiro Hotta @hottaqu

@world_fantasia 人間の時間認知はたいした精度はないので、日常感覚では捉えられません。実際に何が起きるのかは量子重力理論の完成とその検証を待つしかありません。

2020-12-22 10:14:12
ザード@ @world_fantasia

@hottaqu ですね。後実数は実在かも考えましたが実数はボレル測度の中に入ってσ加法性を満たす以上情報論的な世界観では実在ですね。 言ってしまえば世界の要素が離散的であってもそれに対する測定値は連続的になっても矛盾はない(し、我々が実際に見るのは測定値の方)ってストーリーで納得しました

2020-12-22 10:20:16
Masahiro Hotta @hottaqu

@world_fantasia 物理学者は実験結果を尊重するので、それで十分だとおもいます。

2020-12-22 10:21:56
ザード@ @world_fantasia

@hottaqu 言うまでも無いですが実数が数学的にも割と微妙な概念なのは存じてます(そもそも構造が人工的過ぎるとか)

2020-12-22 10:25:10
Masahiro Hotta @hottaqu

もう少し数学と物理学の文化の違いを。ある数学者が物質のエネルギー運動量テンソルの話をしたとき、一般座標変換不変な作用を定義し、計量でその作用を汎関数微分したものを2倍し、更に計量の行列式にマイナスをかけたものの平方根で割ったものを、数学的な「定義」としたことがあったそうです。 pic.twitter.com/5IhIZDL7zO

2020-12-25 04:19:14
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Masahiro Hotta @hottaqu

これを聞いた多くの数学者はこの定義と論理で十分で、スッキリしたと思うのですが、物理学者はこの定義の意味、つまり定義の「気持ち」がわからないと納得できないのものです。物理学者はいろいろな例を挙げて、計測の仕方も吟味し、保存則も考察して初めて「エネルギー運動量テンソル」を理解します。

2020-12-25 04:23:10
Masahiro Hotta @hottaqu

数学の教科書には、このような「気持ち」が書かれていないことが多く、読む普通の物理学徒にはなかなか納得できないことも多いわけです。できれば数学の教科書でも、なぜそうのように定義をしたくなるのかの「気持ち」を沢山書いてあげて欲しいものです。

2020-12-25 04:25:27