「こういった商品名は、少なくとも今後は避けた方がいいだろう」国語辞典編集者・飯間浩明さんの「お母さん食堂」についての考え

ファミマさんはどこまで考慮しとったんかな
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飯間浩明 @IIMA_Hiroaki

1967年10月21日、香川県高松市生まれ。国語辞典編纂者(出版社社員ではありません)。『三省堂国語辞典』編集委員。著書『日本語はこわくない』PHP、『日本語をもっとつかまえろ!』毎日新聞出版、『知っておくと役立つ 街の変な日本語』朝日新書、『ことばハンター』ポプラ社 他。『気持ちを表すことばの辞典』ナツメ社 も監修。

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飯間浩明 @IIMA_Hiroaki

ファミマの「お母さん食堂」の名前を変えたい、と署名運動が立ち上がったことについて、賛否の議論があります。「日本語研究者がだんまりなのは変だと思う、議論に言語学的な科学性を与えるべきでは」との近藤泰弘さん(日本語学)のご意見に、なるほどと思います。〔続く〕twitter.com/yhkondo/status…

2021-01-02 18:11:24
yhkondo @yhkondo

「お母さん食堂」がTLに流れてくるが、これは第一義的には、言葉の問題であることは間違いない。が、前から言っているように、日本語学者の多数派は、こういう件については、徹底的にだんまりとなる。言葉の正しい・正しくない問題には一切係わらないという方針だからだ。それは、やはり、変だと思う。

2020-12-31 03:08:25
飯間浩明 @IIMA_Hiroaki

私は言語のジェンダー性を研究してもおらず、科学的な知見はないのですが、辞書を作る立場から感想を記録しておきたい気もします。それを以下に述べます。〔続く〕

2021-01-02 18:11:45
飯間浩明 @IIMA_Hiroaki

私自身が「お母さん食堂」を知ったのは2020年4月のことでした。街で看板を見つけて写真を撮りました。撮影した時の記憶は特にありません。「お母さん」よりも「すげーうまい」に注目したのかもしれません。要するに「お母さん」のネーミングには特に問題意識を持っていませんでした。〔続く〕 pic.twitter.com/D6skFCb4qv

2021-01-02 18:12:08
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飯間浩明 @IIMA_Hiroaki

今回「お母さん食堂」の名称が議論になり、遅まきながらそこに意識が向きました。改めて名称の適否を考えてみると、「こういった商品名は、少なくとも今後は避けたほうがいいだろう」という意見を持ちます。理由は、程度の大小はともかく、性役割の固定化に貢献することになるからです。〔続く〕

2021-01-02 18:12:30
飯間浩明 @IIMA_Hiroaki

「お母さん食堂」という商品名が、ただちに大きな問題を引き起こすとは言えません。むしろこの名称は、料理する母への懐かしい気持ち、親愛の気持ちを呼び起こします。その一方で、「母=料理する人」という鮮明なイメージを与えてもいます。この点で、確かに性役割の固定化に貢献しています。〔続く〕

2021-01-02 18:12:51
飯間浩明 @IIMA_Hiroaki

「『お母さん食堂』がダメなら『おかあさんといっしょ』『カントリーマアム』はどうなんだ」という意見があります。どれも「ダメ」ではありません。ひとつひとつはダメではないが、少しずつ性役割の固定化に貢献しています。こうした無数の事例が集まり、性役割のイメージを強固にするのです。〔続く〕

2021-01-02 18:13:09
飯間浩明 @IIMA_Hiroaki

ちなみに、NHKでは「おかあさんといっしょ」とは別に、2013年以来、「おとうさんといっしょ」も放送しています。今の時代に合った、妥当な方針と言えるでしょう。〔続く〕

2021-01-02 18:13:29
飯間浩明 @IIMA_Hiroaki

自分の問題意識が低かった言い訳になりますが、もし私が日常的に「お母さん食堂」の商品を買う立場だったら、違和感が強まった可能性はあります。商品を何度も目にする人は、名称の持つ「母=料理する人」のイメージが耐えがたくなるかもしれません。メーカーはそこを想像すべきでした。〔続く〕

2021-01-02 18:13:45
飯間浩明 @IIMA_Hiroaki

では、「お母さん食堂」の名称変更を会社に訴える署名活動は、方法として適当かどうか。平和的に再考を促すという趣旨であれば、意見表明の方法としてありうるでしょう。前述のように、「お母さん食堂」だけが問題ではありませんが、いろいろな事例の代表として取り上げる手法はありです。〔続く〕

2021-01-02 18:13:59
飯間浩明 @IIMA_Hiroaki

最後に「おふくろの味」について。これは、「お母さん」以外が作った食事、つまりインスタント食品などが普及した戦後に広まったことばですね。土井勝の死亡記事に〈「おふくろの味」という言葉を生み出し〉とありますが、土井が発案者だったかはともかく、ことばを広めたひとりだったのでしょう。 pic.twitter.com/t4H4i0zl7f

2021-01-02 18:14:19
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飯間浩明 @IIMA_Hiroaki

補足。「お母さん」は、ここでは「料理を作るやさしい人」の意味であり、「料理を作るやさしい人」は男女とも含まれる、「お母さん」はそんな男女を含む記号だ、という考えもありえます。でも、その記号に「母」を表すことばを使うかぎり、やはり「母=作る人」という結びつきが生まれてしまうのです。

2021-01-02 18:59:24

飯間さんが引用していた近藤泰弘さんの連ツイ

yhkondo @yhkondo

フリーの日本語研究家。日本語文法書の構築を目指してツイートしています。日本語学会・日本語学の宣伝もしていきます。発言は個人の責任で行っています。twilog.togetter.com/yhkondo

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yhkondo @yhkondo

「お母さん食堂」がTLに流れてくるが、これは第一義的には、言葉の問題であることは間違いない。が、前から言っているように、日本語学者の多数派は、こういう件については、徹底的にだんまりとなる。言葉の正しい・正しくない問題には一切係わらないという方針だからだ。それは、やはり、変だと思う。

2020-12-31 03:08:25
yhkondo @yhkondo

言語のジェンダー性を研究して、分類整理して、体系化するだけで、果たしていいのだろうか。こういう問題が生じてきた時こそ、言語研究の立場からの分析を提示して、議論に、言語学的な科学性を与えることが研究者の使命ではないのか?困難な課題だが取り組む必要があると思う。

2020-12-31 03:08:25
yhkondo @yhkondo

具体的にちょっとやってみると、「お母さん食堂」のネーミングは、もちろん、「お袋の味」の「食堂」のメニュー、の意味であることは間違いない。だから、言葉としては「お袋の味」というところが肝だ。

2020-12-31 03:32:23
yhkondo @yhkondo

英語だとhome cookingというあたりか。フランス語では、Recettes de grand-mère(おばあちゃんのレシピ)。韓国語では、손맛(手作りの味)。中国語では、家鄉味(家庭の味)あたりが一般的だろうか。他の言語の例を知りたいが、「母」を強調するのはやはり珍しいのではないか。

2020-12-31 03:32:23
yhkondo @yhkondo

「母の味」「お袋の味」がいつ頃からできた語かがわからないが、青空文庫検索や歴史コーパス検索では出てこないので、意外に新しい語であるような気もする。

2020-12-31 03:38:34
yhkondo @yhkondo

もうひとつ「(お)母さん」という語のニュアンスも重要で、昭和33年に発表されて倍賞千恵子の歌で広まった「母さんの歌」(かあさんが夜なべをして)あたりがかなり重要なリソースになっているような気がする。土井勝の今日の料理が昭和32年から開始なのも、同時期である。

2020-12-31 03:49:55
yhkondo @yhkondo

これらから「ジェンダー歴史日本語学」というものの必要性を感じる。ある単語・表現のジェンダー性はどのような歴史的過程を経て付与されてきているのかを解明する。

2020-12-31 04:02:35
yhkondo @yhkondo

最後に、今回の問題への「結論」を書いておく。「母の味」という今の言説は、核家族と専業主婦という特殊なパターンが固定した日本の高度成長期に作られたもので、伝統的日本の感性ではない。個人レストランならともかく、商品名として、「素晴らしい」アイデアとは言えないのではないだろうか。

2020-12-31 12:40:39
yhkondo @yhkondo

今回の学生さんの提言は、個々の単語のジェンダー性と商品名という観点に注目させるという意味では、評価に値するものだと考える。商品名取り下げの署名活動という方向については賛否あると思うが、デモ活動の一種なのではないか。

2020-12-31 12:40:40
石部統久 @mototchen

@yhkondo @decinormal1 関連まとめです GHQによる日本の洋食家庭料理の誕生 togetter.com/li/1644682

2020-12-31 20:16:18