榊一郎(@ichiro_sakaki)氏の創作論「異世界・シリアス系のプロット構築」
見えない指にむしられる花びらのように、剥がれたラダーが、折れたアンテナが、曲がったフラップがノズルが、こぼれ落ちる中から、しなやかな長い頚が異様ななめらかさで持ち上がる。#sousaku
2011-08-20 03:00:32先細りにとがった小さな頭部、長い頚に続く細く長い流線型の胴部、三対六枚のガラス状の透明な翼、長い頚と同じほど長くしなやかな尾。/ それらは皆、蒼空の光を吸い込んだかのようなすみきった青玉の色だ。 #sousaku
2011-08-20 03:01:08空気抵抗を最小限に抑えるため体躯に比べて前後の脚は小さく細く、その小さな前脚が、最後までまつわりついていたデルタ翼の残滓を、うるさげにつかんで放り捨てる。#sousaku
2011-08-20 03:01:31撃たなければ。そう考えるが、トリガーにかけた指ははげしく震えて動かない。腕が勝手に動き、スロットルレバーを引こうとする。もう少し、もう少し先に行けば、自分もあそこに行ける。あの世界に入れる。 #sousaku
2011-08-20 03:01:55青く輝くあの生き物に生まれ変わった『彼』を追って、この重くぶざまな人間の殻を捨て、あの空気と気流の生物に変身できる。誘惑はあまりにも強烈で、抵抗しきれない。視界が赤く染まる。#sousaku
2011-08-20 03:02:14だがその時、青く輝くものが小さな頭をこちらに向ける。ほとんど視覚を失っているにもかかわらず、『彼』がこちらを見ているのがわかる。その目が、すでに人間の視覚を捨てているはずのその瞳が、こちらを映しているのを感じる。 #sousaku
2011-08-20 03:02:40とがった頭の先の、小さな口が開く。細く細かい牙のあいだに、リボンのように舌がひらめく。/(もし俺が──)/ やめろ。その先を言うな。/(もし俺が〈昇化〉しちまったら──)/ 言うな。言わないでくれ。/(その時は、おまえが、俺を──) #sousaku
2011-08-20 03:03:41衝撃が全身を揺さぶる。すぐそこまで来ていた別世界の扉が遠くなり、消え去る。赤くくもった視界に、エンジンに突き刺さったフレームの破片が映る。機体が煙を吹き、やがて炎があがるのに、ひどく長い時間が経ったような気がする。#sousaku
2011-08-20 03:04:04叫ぶ。喉も裂けんばかりに叫ぶ。/ だがその叫びはどこにも届かない。青く輝くものは新たな世界の果てへと飛び去ってしまった。塵のような人間ひとりがあとに残った。炎と煙を吹きだす鋼鉄製の棺桶に縛られ、重く醜い肉体に閉じこめられ、永遠に空からは拒まれて── #sousaku
2011-08-20 03:04:38(その時は、おまえが俺を、撃て)/ 堕ちる。楽園はもうどこにもない。炎の尾を引きながら、もう一度むなしく空へと手を伸ばす。ディスプレイがまたたいて消え、爆発音が腹を揺する。 #sousaku
2011-08-20 03:05:10燃えて堕ちる人間を、蒼空の生き物の世界が冷ややかに見下している。頬を伝う生温かいものは、涙なのか、それとも血なのか──。 #sousaku
2011-08-20 03:05:35ちなみに文体としては一人称風無人称。アバチュの一巻冒頭に使ったものほど徹底的ではないですが、基本は一人称に置きつつ主語を省略して「夢の中」っぽい非現実感と、一人称を前面に出しすぎることで主人公がダサくなることを避けています。 #sousaku
2011-08-20 03:07:30意識したのはやっぱ神林長平「戦闘妖精雪風」かなあ。あと、空を飛ぶって人間の最古の憧れのひとつだと思うので、音速突破してドラゴンに変身する、っていうのは、実はめくるめく体験であり快楽であり、ひょっとしたら憧れであるかもしれない。という妄想も入ってます。おそまつ。 #sousaku
2011-08-20 03:10:23五代さんの例文が相変わらず素晴らしい点について。つか、「パンツァードラグーン」小説版の作者なんだから当たり前なんですが、疾走感と透明感が素晴らしい。#sousaku
2011-08-20 03:11:28先の、あえてかかなかった、「飛行機乗りの潜在的に持つ音速突破への憧れ」とかも当然のごとく組み込まれてるのが、「やっぱそれはやっとくべきですよね」的な。#sousaku
2011-08-20 03:15:43続き