三国志こばなし集2024年1月号(下)三国時代編

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黄月英「…何の臭いかしら」 蔡瑁「私の着物にとっておきの香木をふんだんに」 孔明「枯葉を焚いたのではなく？」 龐統「こんな酸っぱい香木あってたまるかい」 蔡「貴様ら！」 黄承彦「庭の花々も気の毒な…」 司馬徽「陽当たりが悪いぞ悪いぞ」 蔡「仕方ないだろう！壁が高くて太陽を遮るのだから」

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月「うわっ」 孔「毎度のことながら風通しが悪いですね」 龐「劉表さんの職場かな？」 承「湿度が高くて蒸し暑いこと」 司「臭うぞ臭うぞ」 月「カビの臭いかしら…」 孔「いや、蔡瑁が放ったらかしにしてる着物の臭いでは」 龐「いやいや、放し飼いしてる馬鹿犬のうんちの臭いかもよ」 蔡「貴様ら…」

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月「この四隅の埃をご覧になって」 孔「四角い部屋を丸く掃きとはこの事です」 龐「卓の埃に食べカスの後も何というか…」 承「これが客を招く部屋の有様なのか？」 司「ないぞないぞ」 孔「痛っ」 龐「うわあ…なんて中途半端な鴨居の高さだい」 月「この屋敷に暮らしてる主の顔が見たいわ」 蔡「…」

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孔明…気分悪くなってきました。 黄月英…女子の厠だけ何でこんな遠くにあるの？ 黄承彦…無意味な段差に躓いて舌打ち。 龐統…馬鹿犬に躾をしなさいな。 司馬徽…痒いぞ痒いぞ…

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蔡瑁…この後も終始来客から屋敷の文句を言われ続け涙目になるも、荊州人士ダメ屋敷ワーストランキング殿堂入りした実績は伊達ではなかった。

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陳登「ぬう…胃の調子が悪いな」 陳矯「胃にいらん虫飼ってんですから」 登「待遇に不満があるのだろうか？」 矯「胃酸で溶かされますからね」 登「弱ったな…再発するまで長生きして貰わねば、私の命に関わるのだが…」 矯「それなら虫を駆除しろよ！」 登「馬鹿を言うな！三年後に再発するのだぞ！」

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矯「再発前にてめえが身体で飼い始めたじゃねえか！」 徐宣「それが主君への言葉遣いか、陳矯」 登「言ってやれ徐宣！」 徐「いえ。私も陳登殿が体内で虫を飼う意図が皆目分かりません」 登「なに!?」 徐「虫をもって虫を制すでしたか」 登「そうだ！」 徐「もはや陳登殿が虫に制されているのでは？」

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矯「そんな事は体内で飼い始めた頃から自明だろう、徐宣！」 徐「ならばなぜこんな愚かな真似をさせた！」 矯「止める間もなく飼ってやがったんだよ！」 徐「だからそれが主君への言葉遣いかと言っている！」 登「…一体何の話だった？」 矯「引っ込んでろ！」 徐「我らの議論の邪魔です！」 登「…」

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陳登…家臣二人の激論を尻目に膾食ってたら激怒した二人にちゃぶ台をひっくり返されびっくり！ 陳矯…陳登の馬鹿は厳しく諌めないとダメだろ派。 徐宣…陳登の馬鹿は毅然と諌めないとダメでしょう派。陳矯とは不仲な同僚。

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司馬師「なんと見事な…」 鍾会「何がです？」 司「王基殿に呉征伐が妥当か否かを尋ねたのだが」 鍾「返事は？」 司「時期尚早との旨が、実に理に適った理由で返ってきた」 鍾「やはり水軍の充実が不可欠でしたか…」 司「…だが前々から不思議なことがある」 鍾「それは？」 司「王基殿の従軍記録だ」

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鍾「どういう意味です？」 司「王昶の呉征伐の別将として参加させたが…」 鍾「ええ」 司「それ以前に王基殿が将として戦に参加した記録がない」 鍾「嘘！」 司「私も嘘だと思ったのだが、それ以前は青州刺史の頃の王凌殿の別駕や安豊太守で見事な統治をされていたが…」 鍾「戦をしたことがない…？」

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司「…というわけで、実際どうだったのです王基殿？」 王基「ああ。初陣でしたよ」 鍾「えっ」 王「まあ戦は政の延長ですし、今までの統治の経験が生きたのでしょうなあ」 司「さすが何でも屋の王基殿…」 王「今やそこそこ爺になりましたが、将で戦働きするのが中々性に合いましたわい！」 鍾(ヤバっ)

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司馬師…昔から何でもできる人だと思っていたが、まさかあの齢で初陣だったとは… 鍾会…私のとんでもない目の上の瘤になりそうな人ですね… 王基…はたから何でも屋と思われるほど学問も政も戦略眼も兼ね備えた男だが、晩年の初陣で将としても活躍し始める凄まじい男。

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孫権「遼東の公孫淵が我が呉の藩国となりたいそうだ！」 諸葛瑾(そんな馬鹿な) 孫「張弥！許晏！遼東に向かい公孫淵に燕王の位を授けよ！」 張弥(嘘だろ…) 許晏(嫌だ…) ？「陛下！！」 孫「出やがったな張公！」 張昭「公孫淵は魏に背き討伐を受ける事を恐れて、遠く我らに救援を求めただけです！」

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孫「…」 張「遥か遠方の公孫淵が本心から呉に付こうとする訳がないでしょう！奴が心変わりした時には、魏への忠義の証として使者は首を打たれ二度と戻ってまいらず、陛下は天下の笑い者となりますぞ！」 孫「…海の船も試したいのだ」 張「夷州と亶州で懲りたでしょうが！」 孫「次はうまく行く！」

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張「船の行く先が遼東の公孫淵の元では二人が殺されるだけだと申しているのですよ！」 弥(この爺さん、味方だとこんな頼もしいのか…) 許(もっと言ってくれ！) 孫「…」 張「お考え直しを！」 孫「張公！」 諸「陛下！刀に手をかけるなど！」 張「…」 孫「黙れ子瑜！朕はもう我慢ならん！」 張「…」

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孫権「宮中では皆が私に頭を下げるが、一度宮中を出たら皆がお前に頭を下げるではないか！」 張昭「…」 孫「こうした事を許しているのは、私がお前を最大限礼遇しているからだ！それなのにお前は、私を衆目でやり込める…」 張「…」 孫「そんなお前の態度が、国を誤ることにならぬか心配でならん！」

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張「陛下」 孫「なんだ！」 張「私が申すことを用いていただけぬと分かっても、常々真心を込めてご意見いたしますのは…」 孫「！」 張「太后様がご逝去に臨み、私をおそばに呼ばれて、遺言として後事を託されましたお言葉があればこそなのでございます…」 張弥(出たぞ禁止カード) 許晏(決まったな…)

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孫「ええい！大丈夫が涙を流すな！」 張「陛下…」 孫「お前…本当に母上と兄上の事が大好きなのだなぁ…」 張「あんたのことだって…」 孫「これ以上泣かせてくれるな！張公！」 張「…」 孫「…」 諸葛瑾(何の話だったかな…) 弥「やれやれ」 許「これで一件落着」 孫「おいお前たち」 弥・許「!?」

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張昭(やれやれ昨日は本気で泣いてしもうたわい) 諸葛瑾「張昭殿！」 張「おう諸葛瑾」 諸「張弥と許晏を知りませんか！」 張「…執務をしているのではないのか？」 諸「それがどこにもおらず、あろうことか…」 張「あろうことか？」 諸「海で使う予定だった船の試作品が一艘消えております！」 張「」

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張「陛下！！！！！」 孫(やれやれ、やっぱりこうなったか) 張「張弥と許晏！および海の船一艘の行方は何処か！」 孫「それはな、張公…」 張「陛下の口からお伝えいただきたい」 孫「…遼東」 張「」 諸「…あれだけ張昭殿が諫言されたのに？」 孫「諫言はされたが辞めるとは言ってないぞ」 張「…」

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孫「案の定引き篭もりやがった」 諸「…マジで行かせたんですか？」 孫「あの時朕は辞めると言ったか？」 諸「…」 孫「それにしても腹が立つ爺だ。屋敷の門を土で埋め立ててやる！」 孫「あの爺め！」 諸「何事です？」 孫「朕が門の外側を埋めたら、門の内側を土で埋めやがった！」 諸「はい？」

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孫権「あの爺いつまで引きこもるつもりだ」 諸葛瑾「張承と張休も巻き込まれてしまったそうで」 孫「幾つになってもクソガキみたいな爺だ！」 諸(それはあんたも…) 顧雍「陛下」 孫「どうした顧雍？」 顧「…口にするのも嫌ですが」 孫「なんだ」 顧「公孫淵が、大司馬と楽浪公に任じられたとの報が」

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諸「…」 孫「それは？」 顧「呉の使者の首を差し出し、忠義の証とした功との報でござる」 孫「」 顧(百官を集めてくれ！) 諸(御意！) 孫「俺は十九の頃から主君となったが今や六十。酸いも甘いも経験してきたが、公孫淵の如き鼠に思うままに操られるとは…」 顧「張昭殿を始め皆でお諌めしましたが」

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孫「やかましい！朕自ら公孫淵の鼠の首を斬って海に叩き込んでやらぬ限り、二度と天下に顔向けできぬ！」 陸遜「無謀にすぎます陛下！」 孫「知ったことか！道中野垂れ死にしようが悔いはない！今すぐ遼東へ親征だ！」 薛綜「ありえません！」 諸「陛下がいない間に魏が攻め放題攻めてくるでしょう！」