東海道中膝栗毛 [初篇]
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弥次「ぷひゃひゃ、また浮かんだぞ。『お泊まりは よいほどがやと 留女 戸塚前ては 離さざれけり』なかなかだろ」喜多「戸塚前ってなんだ」弥次「程ヶ谷は戸塚のひとつ前だろ、戸塚前と、とっ捕まえをひっかけてみた」喜多「はーなるほどね」
2012-12-13 19:34:37結局二人は程ヶ谷には泊まらず、戸塚へ行くことに。やがて品濃坂に至る。喜多「ここが武蔵国と相模国の境だ。さらばムサシ」弥次「玉くしげ 二つに分かる 国境 所変わればしなの坂より」喜多「所変われば品変わるとひっかけたな」弥次「へっ」
2012-12-13 19:34:56寄り道で時間を食いすぎて、日がかなり西に傾いてきた。喜多「ちょっと急ごう」弥次「ああ」てけてけ。弥次「なあ、宿に泊まるときは俺たち親子ってことにしないか」喜多「なんで?」
2012-12-13 19:35:09弥次「泊まるたびに飯盛女を勧めてくるだろ。いらない時に勧められるとウザいからさ」喜多「そうだな、俺たち親子って言っても不思議に思われない年の差だからいいかもな」弥次「じゃそれで」
2012-12-13 19:35:19喜多「お父様、父上、親父、父ちゃん、どれがいい?」弥次「とっさんでいいよ。おまえ、ちゃんと息子らしく振る舞えよ」喜多「はいはい。弥次こそ、いい女がいても抜けがけすんなよ」弥次「ばーか。お、戸塚に入ったようだ。笹屋に泊まるか」
2012-12-13 19:35:32戸塚宿
江戸から十里十八町 (41.2 km)
喜多「とっさんや」弥次「あん?」喜多「ここは程ヶ谷と違って留女が出てこないな」弥次「ホントだ。どうやら大名の一行が泊まるようだな」喜多「あっちはどうだろ」弥次「おねえさん、ここは泊まれるか?」旅籠仲居「申し訳ありません、こちらはいっぱいなんです」
2012-12-14 19:12:35弥次「あちゃー。困った」あちこちの宿に問い合わせるが、どこもいっぱい。苦し紛れに弥次「泊めざるは 宿を疝気と知られたり 大金玉の 名ある戸塚に」喜多「なんかよく分からんが、歌なんか作ってる場合じゃないぞ」弥次「疝気とせぬ気をかけたんだよ」
2012-12-14 19:12:42喜多「大金玉ってなんだ」弥次「戸塚にいる名物乞食だ」喜多「あっ、ここなら泊まれるかも」弥次「ごめんくださーい。泊まれますかー」宿の亭主「いらっしゃいませ。お二人様ですか、どうぞ空いております」喜多「まじっすか。うわあ、よかった」
2012-12-14 19:12:50ホッとして玄関へ入った。亭主「お疲れ様でした」弥次「いやあ、どこもいっぱいで、もう半分あきらめかけてたんですよ」亭主「他の宿は皆お大名のお連れが入っていますからね。うちは泊まりの宿に指定されなかったので大丈夫ですよ」
2012-12-14 19:12:58弥次「こんなにキレイな宿なのに?」亭主「うちは旅籠を始めたばかりなんです。まだ正式な手続きが済んでないので指定宿にならないんですわ」喜多「へえ、そうなんですか。や、でもおかげで助かった」
2012-12-14 19:13:06【中ぼん】一般市民はとびこみでの宿探しだからハラハラするなあ。現代でもある話だけど。弥次喜多初日は神田~戸塚で約50kmを歩きました。朝5時~夕方6時として時速3.8km/h (休憩寄り道含む)。現代の街道ウォーカーとほぼ同じペースですね。
2012-12-14 19:13:15亭主「おーい、おなべー、お客様に足洗いの湯を持ってきてくれ」仲居「はーい、ただいま」仲居のおなべがタライに湯を入れ持ってきた。弥次喜多の荷物を抱え、宿の中へ運んでいく。
2012-12-15 19:13:43喜多「弥次さん…じゃねぇとっさん、草鞋をまとめて置いとくよ」弥次「おう、じゃついでに俺の脚絆も軽く洗っといてくれ」喜多「なっ、脚絆を洗えってか」弥次の顔を見ると、目でキッと合図している。喜多「んにゃろ、図に乗りやがって。ブツブツ」
2012-12-15 19:13:54しょうがなく弥次の脚絆を洗って片付ける。喜多「お姉さん、お茶を持ってきてください」二人は宿の部屋に通され、すぐに茶が来た。仲居「お風呂が沸いておりますのでどうぞお入りください。ではごゆっくり」
2012-12-15 19:14:08仲居が部屋を出ると弥次が少しおかしそうな顔で、弥次「あの仲居さんはいまいち好みじゃないな。 庭先の踏み石を思い出す顔つきだ」喜多「それより弥次ぃ」弥次「しっ、仲居が来たぞ」喜多「あー、なあとっさん、お先にお風呂へどうぞ」
2012-12-15 19:14:18仲居が盃を持ってきた。弥次「お、酒が出るのか? 俺たちが江戸の者だからって気前がいいわけじゃないぞ」喜多「え、これサービスじゃないのか」弥次「そりゃそうだろ」弥次は手ぬぐいを持って風呂へ行った。
2012-12-15 19:14:29【中ぼん】江戸時代の旅籠の風呂は大浴場ではなく、普通サイズの風呂が数個あり、連れと交代で入るのが普通でした。風呂サイズも交代制も、盗難リスクを少しでも減らすのが目的だったそうです。
2012-12-15 19:14:45しばらくすると、仲居がお銚子と酒の肴を運んでくる。仲居「おひとつお召し上がりください」喜多「こりゃご馳走だな。すみませんがうちの親父に早くあがるよう伝えてください」仲居「かしこまりました」
2012-12-16 18:07:16やがて弥次が戻ってきた。弥次「おっ、うまそうだ。喜多、おまえも湯に入ってこい」喜多「いや飲んでからにするよ」弥次「いいからさっさと入ってこいって」喜多「ちぇ」しぶしぶ風呂へ行く。
2012-12-16 18:07:29弥次がさっそく一人で一杯始めていると、宿の亭主が料理を運びがてら挨拶にやって来た。亭主「失礼いたします。本日はお泊まりいただきありがとうございます。たいしたものはございませんがごゆっくりお召し上がりください」
2012-12-16 18:07:41弥次「いやこんなにたくさんのご馳走を出していただいても、そんなにお支払いできるほどは持ち合わせていませんよ」亭主「いえいえ、これはサービスでございます。実は私共、本日が店開きでして、お二人は初めてのお客様なのです。これは祝いのお酒ということで、どうぞご安心ください」
2012-12-16 18:07:51弥次「おお、そういうことですか。それはおめでとうございます。しかし、こんなにもてなしてもらっては申し訳ないですな」亭主「なにご遠慮は無用です。あとでお吸い物もお持ちします」弥次「イヤほんとにおかまいなく」
2012-12-16 18:08:02亭主「どうぞごゆっくり」亭主が出て行くのと入れ替わりで喜多が戻ってきた。喜多「ヘイそこの旦那、今の話、残らず聞かせてもらったぜベイべ」弥次「おまえそれ何のモノマネだ。もう一回風呂に行ってきていいぞ、俺がその間にいただいとくわ」
2012-12-17 19:35:57喜多「ホントに全部食べられそうだもんな。風呂に入ってても気が気じゃないから足に土がついたまんまだ。よし、始めよう」弥次「俺はもう始めてたけどな。よし、盃とれよ、ついでやる」喜多「いや、俺はこっちで」と茶碗に酒をドボドボつぎ、一気に飲む。
2012-12-17 19:36:07